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三十八話 逃走

本日は、物ヒロの発売前日です!


明日も物ヒロを更新しますが、折角なので本編ではなく発売記念SSを投稿しようかと……思います!(☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎


題して、「発売記念SS・勇者達と露天風呂」です!


ちくしょう!

イラストが欲しいじゃねえかこのクソったれ!


私のポケットマネーでもいいからよお!


というわけでですね。

これからも物ヒロをよろしくお願いします。


 オルトの刃が空を斬り裂いた。


 蝿の王の右腕が肩から消失――数億の蟲達が緑色の液体をぶちまけて死ぬ。


「バカな……ないはずだ。人間に、このような力……!」


 失った右腕を抑えながら戦慄する蝿の王。


 オルトは肩に刀を乗せ、悠然と蟲の死骸が舞う中を歩く。


「そいつは誤算だったなあ蝿の王。人間はてめえが思っているよりもずっと、強いわけだ」

「くっ……舐めるなよ……『アシッドワーム』」


 蝿の王は失った右腕の切断面から、人の腕程の太さがあるムカデを伸ばす。


 全身が酸性の液体で覆われたムカデは、一直線にオルトへ向かう。


「華奢な技だな!」


 オルトは刀でムカデを一刀両断――蝿の王はそれを見るや否や、広角を吊り上げる。


「バカめ。その蟲は、鉄を溶かす酸性の液体で全身が覆われている! 刀で斬れば――溶け……ていないだと!? なぜだ!?」


 こともなげに刀を肩に担いでいるオルトを見て、蝿の王が驚愕の悲鳴をあげる。


「種明かしをしてやろうか?」


 片目を閉じて、挑発めいた発言をするオルト。


 蝿の王はプライドを大きく傷付けられ、怒りを露わにする。


 体に群がる蟲達が逆立ち、気味の悪い羽音を周囲にばら撒く。


「ククク……なるほど。人間にしては、相当な腕前だ。ああ、人間にしてはな。だが、これ以上調子に乗るようならば……我も本気を出すことになる」

「おおーおおーぜひ出してくれ。口先だけじゃあねえことを祈るわ」

「…………」


 蝿の王の中で、ブチっと何かが切れた。


 空気が張り詰め、荒野に風が吹く。


 その風に乗る形で、階層中の蟲達が蝿の王を中心にして集まる。


 嵐が如く蟲達は渦巻いて、蝿の王を取り囲む。


 広い荒涼とした大地のど真ん中……そこに巨大な黒い塊が生まれる。その全てが大小あれど蟲だというのだから、虫嫌いからすれば卒倒ものな光景である。


「我は【死翔の魔将】蝿の王。死を体現し、死を操る蟲の王なり。その我に歯向かう愚か者めが……万死に値する」


 蝿の王の周囲には、尋常のものではない魔力が集まっいる。


 何か常軌を逸脱した攻撃をしようとしているのだろう。


 そんなことはお構いなしに、オルトは小指で耳の穴をほじりながら言い放つ。


「御託はいいからかかってこい」

「っ……! 臨み通り、貴殿には死すら生温い地獄を見せてやろう! その肉も血も! 存在すらも食らい尽くす! 征け……『蠱毒こどく』!」


 数億、数兆――それ以上か。


 もはや数えることが不可能な蟲の群れが、一斉にオルトへ向かって前進。


 オルトの肉を貪り、血を啜り、内臓を喰らおうと蟲達が赤い瞳に稲光を走らせる。


 オルトは迫り来る蟲の大群を前に、泰然と佇み――刀を肩に担いだまま腰を下ろして力を蓄える。


「ふう……絶剣五輪。空位……」


 『蠱毒』は荒野も、大気も、空間すらも喰らいながら突き進み――ついにオルトを捉える。


 オルトは目と鼻の先――蝿の王は勝利を確信した。と、次の瞬間、蝿の王の視界一杯に眩い閃光が駆け抜けた。


「……『覇王裂帛』」


 オルトが肩に担いだ刀を振り下ろすと同時に、直線上にいた『蠱毒』が消滅。蝿の王は寸前で横っ跳びに、躱したが左半身の大部分を消失――残った右目が驚愕で見開かれる。


 大地が音を立てて裂け、後には何も残らなかった。


「お……避けたか」

「わ、我が『蠱毒』を一振りで……化物か。貴殿は……!」

「てめえがバカにしてた人間だよ……一応なあ!」


 オルトは弱っている蝿の王を逃すまいと、追撃に向かう。蝿の王は、とてもオルトと真正面から戦える余力がなく後退。


 辛うじてオルトの刃を躱すが、体の半分を失っている状態では逃げ切ることも難しい。


「ぐうっ……この我が……人間に負けるというのか……」

「ったく……てめえら魔族ってのは、本当に人間を下に見過ぎだっつーの。だから、そうやって足下掬われんだよ」

「…………」


 蝿の王は俯いた。


 今回の敗北は……認めざるを得なかった。


 蝿の王は、人間とはいえオルトを舐めすぎていた。


 オルトは強い。入念な準備をして、戦いを挑まなくてはならないような相手だと認識する。


「……認めよう。今回は、我の負けだとな」

「今回だあ? てめえ、この状況で次があるとでも思ってんのか?」


 逃すわけがないと、オルトは刀の切っ先を蝿の王に突き付ける。


 体の半分を失い、ほとんどの蟲を失った蝿の王が、オルトから逃げられる術はないはず。


 オルトの知らない奥の手でもなければ――。


「ククク……貴殿が、はたして我を殺せるかどうか」

「はあ? なに言って……」


 ふと、オルトは誰かがすぐ近くに現れたことを感じ取った。


 転移魔法で転移してきたのだと、すぐに判断し、視線だけ周囲に向ける。


 すると、オルトの視界に武器を持った人間が入った。数は三〇人……全て若い男性で服を着ていなかった。


 全員必死の形相を浮かべており、顔に玉の汗を掻いている。


「てめえが転移させて来たのか。なんなんだ、こいつら」

「ククク……貴殿と同じ人間さ」

「人質のつもりか?」

「そうだと言ったら?」


 ハッタリ――にしては、蝿の王の自信が気になる。


 オルトは蝿の王から僅かに意識を逸らし、現れた男性達に意識を向ける。すると、彼らの体内に蝿の王に似た気配を感じ取った。


「ククク……我が産み込んだ寄生虫が、彼らの体内に宿っている。我が死ぬか、命令を下せば寄生虫が体内から、彼らの肉を喰い千切る」

「良い趣味してやがるじゃねえかよ……」

「ククク……彼らは皆、妻子を持っている」

「人質の上に人質取ってんのかよ……このクソったれ……」


 刀を握る手に力が入り、前腕部に血管が浮き出る。


 しかし、蝿の王を攻撃できるはずもなく……オルトは舌打ちをしながら蝿の王から数歩離れた。


「我も、まさか人間如きにこんな手段を使うことになろうとは……プライドがズタボロだ……」

「プライドだと……このクソ外道が。体の中に寄生虫産んで、挙句の果てには妻子を人質に取ってるだあ? 悪趣味にもほどがあるぜ……」

「ククク……人間の負の感情は、我々悪魔にとって力となる……我の方法は、実に効率的だろう?」


 オルトのこめかみに青筋が立つ。


「ククク……とにかく……次の機会まで、貴殿との戦いはお預けだ……」

「逃すとでも思ってんのか……ああ?」

「ククク……彼らをどうにかせねば、我は追えないさ」


 蝿の王の言葉に呼応し、男性達が武器をオルトに向ける。


「さあ、どうする……? 勇者殿」


 蝿の王は言って、転移でその場から消える。


 それと同時に、人質らの武器がオルトに向けて振るわれる。


 その全ての武器はオルトの肌の上で受け止められ、肉を断つことはできなかった。


「あんの……クソ蟲野郎っ。どこまでも……気に食わねえっ!!」


 レシアの件といい、人質の件といい……!


 蝿の王の気配は、まだこの階層にある。どこかで力を回復させているのだろう。


 先ほど、蝿の王が言っていた通り、悪魔の力は人間の負の感情によって増幅される。


 つまり、蝿の王はおそらく捕らえた人間がいる場所にいる……。


 オルトは驚愕の表情を浮かべる男達に向かって口を開いた。


「おい、てめえら……俺がてめえらの家族まとめて助けてやるから、安心して待ってろ!」




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