三十八話 最強剣士の苦戦
著作『物理的に最底辺だけど攫われたヒロインの為に、最強になってみた』の略称は……ツイッターの方でいただいた『物ヒロ』にしました。(´∀`)
これからも物ヒロをよろしくお願いします!
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蝿の王と対峙していた俺は、苦戦を強いられていた。
「憐れだな……ああ、実に憐れだ。その程度で、我を脅かせるとでも思っていたのか」
「……うるせえなったく」
荒野に吹いた一陣の風が、汗で濡れた頬を撫でる。
視線の先に佇む蝿の王は余裕綽々な様子で、ほとんど無傷だった。
一方で、俺は所々から血を流している。左脇腹の肉が抉られ、相当量を出血してしまった。
右の大腿全部は貫かれ、上手く機能しなくなっている。というか、めっちゃ痛い。
「あんた、蝿の王だったけか……思ってたよりも、楽しませてくれるじゃねえかよ」
「減らず口を叩く……貴殿の力はすでに見切った。確かに、怖るべき剣技を持っている。ああ、素晴らしい。人間にしては」
言いながら、蝿の王は背中から蟲の塊を放出。俺の頭上を羽虫の類が陣取ると、急降下――羽虫の雨が降り注ぐ!
「このっ……!」
その場から咄嗟に飛び退くと、俺がいた場所に鉄球でも振り下ろしたかの如きクレーターが生まれる。
羽虫の大きさは小指の指先ほどもないというのに、ものすごい破壊力だ。
「貴殿の剣は、賞賛に値する。だが、残念だ。我とは非常に相性が悪い」
「ぐっ……」
高速で降り注ぐ羽虫が直撃――寸前で『建御雷』を発動し、頭部を守る。
羽虫は俺が怯んだ隙を逃さず押し寄せる。
右手に握る刀を薙いで羽虫を吹き飛ばすが、羽虫達は風で飛ばされただけだ。すぐにわらわらと集まり、再び降り注ぐ。
「鬱陶しい……! 絶剣五輪っ……!」
必殺技でまとめて消し飛ばそうと試みるが、それを蝿の王がみすみすと見逃すはずもなく……。
「……甘い」
「ぐあっ!」
肉迫する距離まで一瞬で接近してきた蝿の王が、負傷している大腿部を蹴り、流れる動作で俺の側頭部を蹴り飛ばす。
鉄で殴られたかと錯覚する痛みとともに、圧倒的膂力で数百メートルほど体が吹き飛ばされる。
地面を転がり、なんとか上手い具合に受け身を取って身を起こす。そして、滑りながら止まり、蝿の王に目を向ける。
「この野郎……いっつつ……」
「脆いな。人間の体というものは……さて、そろそろ死んでもらおう……。我が花嫁との契りを台無しにした、愚か者よ」
こいつ……。
俺は額に青筋を立て、蝿の王を睨み付ける。
「誰がてめえの花嫁だこの野郎! レシアは俺の恋人だバカが!」
「恋人……?」
蝿の王の額にも青筋が浮かぶ。
厳密には顔と呼べるものはないが、そんな気がした。
「あれは……我が花嫁だ。貴殿如きには勿体ない……」
「っせえなあ……こっちは両想いなんだ! てめえの出しゃばる枠はねえんだよ」
我ながら本人が聞いていないところで好き勝手なこと言っている気がする……。
い、いや、でもほら。ちゃんと本人には確認してるし……。
はっ!?
「でも……つい最近、大喧嘩したばっかりだし……も、もしそれでレシアの気持ちが俺から離れてたりなんかしたら――!」
いや。
いやいや、まあまさかそんなことは……ないはず。
なんか自信がなくなってきたぞ……。
思えば、俺がレシアに好かれるポイントってあっただろうか。
口は悪いし、なにかと喧嘩が多い。嫌われるところがあっても、好かれるところが見当たらない。
あれ。
「俺って……本当に、レシアに好かれてるのか……?」
衝撃の事実に一人、絶望していると蝿の王が口を開く。
「大体、貴殿は知らないだろう。あれの価値を……」
「はあ? 価値?」
「そうだ。あれは我々にとっても貴重なサンプルだ。我があれに一目惚れしたことを除いても、あれは我々にとって重要な存在だ」
「どういう事だ」
尋ねると、蝿の王は薄気味悪い羽音を立てながら笑みを浮かべた。
「聞けば、あれはキュスターが幼き頃から教育を施したそうだ……。つまり、彼女は神器使いでありながら、我々魔族の力が及ぶ影響下にいた」
そう言われて思い出す。
確か、神器使いというのは魔族の――魔人が持つ特殊な能力を受け付けないのだそうだ。
例えば、キュスターの能力は『傀儡』だった。
他者を操る能力で、本来ならば神器使いのレシアはその影響受けないはずだった。
しかし、永らくキュスターの支配下にいたレシアは、その能力を受け易くなっていた。
「あれは神器使いを魔族サイドに堕とす、重要なサンプルとなる……」
「重要なサンプルだあ……?」
俺は脇腹を抑えながら立ち上がる。
「さっきから聞いてりゃあレシアを道具みてえに扱いやがって……気に入らねえな」
「ふんっ……貴殿がどう思おうと、結果は変わらない。貴殿はここで死に、あれは我が花嫁として、我が子を一生涯産み続けることになるのだからな」
ああ……つまりなにか?
こいつは徹頭徹尾、レシアのことを道具としか見てないって……そういうことか?
「さあ、死ぬがいい」
蝿の王は腕を前に出し、手のひらから蟲の大群を放出――俺を食い尽くそうと蟲達が気味の悪い羽音を立てて襲いかかる。
だが、蟲達の牙が俺に届くことはなかった。
「なん……だと……?」
蟲の大群を刀で全て斬られたことに蝿の王は、戦慄した表情を浮かべていた。
「いや、気付いたんだがよ。てめえの蟲達は一匹一匹に意思があるから、その一匹一匹を倒さなくちゃならねえ……。そうだろ?」
「まさか……それで全てを斬ったというのか……。そんなバカな。数億、数兆という我が半身を……一瞬で全て……」
「ここまで好き勝手にやってくれやがったからなあ……今度は俺の番だ!」
俺は刀を握り直し、蝿の王に剣先を突き付けた。
さて、ついにオルトと蝿の王の戦いが始まりました。新たに現れた破壊神のエレシュリーゼも加えて、各々の戦いの動向がどうなるかが……気になりますね!
ね!(圧)
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