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二十六話 紅蓮の勇者、剣を投げる

 剣を構え直したエレシュリーゼを見て、ミラエラは興味深げな視線を送る。実力差は歴然としている。賢いエレシュリーゼは、それを理解している。だというのに、まだミラエラに一矢報いてやろうと、目が言っている。


「うふふ。面白い子ね」

「お褒め頂き嬉しい限りですわ」


 エレシュリーゼは微笑むミラエラから、片時も目を離さない。

 ミラエラは瞬間移動よろしく、瞬きと同時に、眼前へと現れる。目を逸らしたが最後――エレシュリーゼの体は、影の中だ。


「さあ……あと残り僅かよお? 頑張ってね?」

「くっ……!?」


 何の前触れもなく、ミラエラはエレシュリーゼの目と鼻の先に現れる。速いなどと言った次元の話ではない。


「ぼーっとしていると食べちゃうわよお?」

「ふ、『フレア』!」


 エレシュリーゼは全身から炎を迸らせて爆発――周囲に炎が撒き散らされる。その頃には、ミラエラの姿は五〇メートルほど離れたところにあった。


「速い……!」


 装いは動き難いドレスであるはずなのに、それを微塵も感じさせない格闘戦術に加えて、肉眼も思考も追いつけない移動速度。

 何かカラクリがあるかもしれないと考えたが、すぐにそれは違うと頭を振る。


 純粋な……強さなのだ。


 身の内に眠る魔力量が、エレシュリーゼよりも遥かに多い。レベルが違う。生物としてのレベルが。格が……あまりにも違う。


「うふふ。良い顔ねえ……唆られるわ。全てを悟り、絶望に歪む顔……うふふ。私、人間のそういう顔がたまらなく好きなの」


 ミラエラは妖艶に微笑みながら続ける。


「特に、純真無垢な子供がそういう顔をした時なんて……思わず達してしまうわあ……! うふふ」

「子供……?」


 エレシュリーゼは聞き捨てならない言葉に、鸚鵡返しに尋ねる。ミラエラはただただ楽しそうに、


「ええ、うふふ。あなた、知っているかしら? 私達、悪魔って存在はねえ……人間の負の感情によってその力を高めるの。特に、私は人間の絶望という感情が大好きなの! その中でも、純真無垢な子供の絶望が!」

「っ……」


 エレシュリーゼは分かってしまった。元々、ミラエラという魔人が、どこか狂っていると察していた。


 しかし、ミラエラは……エレシュリーゼが考えていたよりも、ずっと卑劣で外道だった……!


「ああ! うふふあははは! 目の前で大好きなお母さんを肉の塊にしてあげた時なんか、最高だったわあ! 『お母さん……お母さん!』なんて泣き喚いちゃってねえ……うふふふふ」


 想像した。

 その子供の気持ちを。

 目の前で親を殺された子供の気持ちを。

 想像した。想像してしまった。


「なんて……酷いことを……!」


 エレシュリーゼは怒りのあまり、剣先を震わせる。ミラエラはあっけらんかんとした表情で、


「酷い……? うふふ。この世は弱肉強食。弱い者は淘汰され、何をされても文句は許されないのよ」

「……確かに、あなたの言う通り、弱肉強食なのでしょう」


 それが自然の摂理だ。


 エレシュリーゼとて、動物を殺し、その肉を喰らっているのだから。偽善者ぶるつもりなど、あるわけがない。


 しかし……しかしだ。


「非道な行いをしてもいいとは……思いませんわ! 少なくとも、わたくしは弱い者を虐げるあなたの考えを、絶対に許しませわ!」

「あら……怒ってしまったの……? 怒りは肉を硬くさせるし、何よりも正常な判断を奪ってしまうというのに……」

「うるさいですわよ……!」


 エレシュリーゼは怒りに任せて剣を振るう。ミラエラの言う通り、正常な判断力が失われていた。


 非道で卑劣な、この悪魔を倒さなくてはならないという衝動に、エレシュリーゼは駆られていた。

 もちろん、そんな攻撃がミラエラに通用するはずもなかった。


「うふふ……大振りね」

「がっ……!?」


 ミラエラは懐に入り込み、ガラ空きな腹部に蹴りを入れる。エレシュリーゼは遥かに後方に吹き飛び、聳え立っていた岩に激突……口から肺に入っていた空気を漏らす。


 そのまま力なく地面に落ちると、『エレメンタルアスペクト』が切れてしまい、体を覆っていた炎が霧散する。


「くっ……か、体が……これは、肋骨がいきましたわね……」


 もはやエレシュリーゼは体を動かすことができない。元々、無理をしていたところに、このダメージだ。完全に戦闘不能だ。


 ミラエラはゆっくりと歩いてエレシュリーゼに近寄る。


「残念ねえ……あと二分だったのに……」

「くっ……!」


 ミラエラはエレシュリーゼに近寄り、徐に前髪を掴むと、頭を持ち上げた。


「うふふ……良い顔じゃない。美味しそうねえ……うふふふふふあはははは!」

「わた……くしは……」


 悔しかった。


 こんな残忍な悪魔が許せなかった。これまでこの悪魔に、食い殺された人々のことを思うと、胸が張り裂けそうだった。怒りで涙が込み上げてしまう。


 ただ、それ以上に腹立たしいのは……無力な自分自信だ。


――どうして、わたくしはこんなにも無力ですの……!


 何が歴代最強の勇者か。


 目の前の悪魔すら倒せないじゃないかと、エレシュリーゼはただ悔しくて悔しくて涙を流す。


 ミラエラはそれを見るや否や、エレシュリーゼの頬に伝う涙を舐めとった。


「ああ! 美味しい! 美味しいわ! ああ!」

「い……や……」


 もう……自分は喰われる。


 エレシュリーゼは悔しさと、死の恐怖に体を強張らせる。


 それが何かの琴線に響いたのか、ミラエラは頬を紅潮させ、鼻息を荒くさせる。


「はあ……はあああ……うふふふ。いけない子……いけない子ね、エレちゃあん……! たーっぷり、可愛がりながら、食べてあげるわねえ? そうだ……あなたの前で、さっき話したみたいに子供の前で母親を殺し、泣き叫ぶ母子を食べてあげるわあ……!」

「な、なんでそんなことを……!」

「だって、そうしたらエレちゃん……きっと良い声で泣き喚くでしょう?」


 それが愉快で愉快で仕方がないと、ミラエラは広角を三日月の形に変える。


「ああ! どんな声で泣くのかしらあ! 楽しみいいいい! 楽しみだわあ! はあ……はああああ!」


 ミラエラは食料の匂いを楽しむが如く、エレシュリーゼの髪に鼻を押し付け、その香りを嗅ぐ。


 と、エレシュリーゼが自分の死を覚悟し、瞳を閉じた折だった。


「え…………」


 突然、ミラエラが息を呑む声が聞こえた。


 反射的に目を開くと、自分の体が燃えていた。


 『エレメンタルアスペクト』……いや、違うと、エレシュリーゼは内心で頭を振る。


 すでに彼女の魔力は底を尽きており、『エレメンタルアスペクト』を使う余裕などない。しかし、確かに……彼女の体は燃えていた。


「うそ……うそよ……! この……力はっ!?」


 何事か、ミラエラが目を見開き、酷く驚いた様子で、エレシュリーゼから距離を取る。


 ミラエラの目はエレシュリーゼを捉えておらず、エレシュリーゼの後ろを見ているようだった。

 エレシュリーゼはその視線につられて振り返ると――。


「…………え?」


 エレシュリーゼの視界一杯に、巨大な炎の塊が現れた。よく見ると、人の姿をしていた。大きさにして、およそ十メートルを優に超える巨人――言うなれば、炎の巨人がそこにはいた。


「い、一体なにが……起こって……」


 エレシュリーゼは突然の出来事に、呆然とすることしかできなかった。


 ふと、エレシュリーゼの手にメラメラと炎が集まり出す。エレシュリーゼは慌てるが、炎はそんなエレシュリーゼを気にも止めずに集まり――やがて、一本の剣を形作る。


 エレシュリーゼの持つ愛剣とは、似ても似つかない……炎の剣が、その手に顕現した。


「……レーヴァテイン」


 ポツリと呟いたのは、目を見開いてエレシュリーゼを凝視するミラエラだった。


「まさか……あなた、神器使いだったの……!?」

「え……?」


 ミラエラの言葉に、エレシュリーゼは戸惑いを隠せなかった。

 





エレシュリーゼのキャラデザって、最初難航したんですけど、今ではかなりガッチリ嵌ったキャラクターです。


特に旧第二部はヒロイン達がやけに空気に感じたので、自分は割とこっちの方がしっくり来ています。ちゃんとプロット考えて良かったと思った今日この頃。


そんなエレシュリーゼですが、書籍版ではお茶目な部分が、書き下ろしとして追加されてたりしていたりしちゃったり……?


まあ、なにが言いたいかというとエレちゃんもでら可愛いので、見てください。いやもうでら可愛いので。


ちなみに、新第二部が面白いのか面白くないのかは、読者の皆様によりけりで、私としてはお楽しみいただけているのかと毎日夜しか眠れない日々が続いています今日この頃(二回目)


面白ったから、是非ブックマーク、ポイント評価の方、よろしくお願いします。

やる気……出ます!

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