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六話 最強剣士、刀を手に入れる

3



 俺がフェルゼンに来てから、3日程が経過した。

 エレシュリーゼから聞いた話に間違いが無ければ、明日が勇者養成学校の入学式典だ。

 入学してからは寮で生活する事になる。本当なら、入学の決定している生徒達は入寮を済ませている時期だそうだが――まあ、俺が入学する事になったのはつい先日だ。

 寮に入るにしても、色々と手続きがあるそうで、全てエレシュリーゼが済ませてくれるというので気長に待つ。


「さて、今日は街でもぶらぶらしてくるかな」


 暇を持て余した俺は、宿を出て、足に任せて街を探索する事にした。

 大きな都市というだけあって、人が多い。殆どが、中層か上層の人間だろうけど。

 塔の世界では、大まかに下層と中層、上層で分けられている。ざっくり、第1から第20階層が下層。第21から第70階層までが中層。残り第100階層までが上層という具合だ。


「俺みたいな下層の民が、こんな上層に居る筈もねえよな」


 強いて言えば、レシアがいるか。

 そんな事を考えながら、俺はふらっと武器屋に立ち寄った。

 立派な武器屋で、剣に弓や戦鎚など幅広い武器が置かれている。


「おや、いらっしゃいませ。ここはベルパの武具店です。何かお探しですかな、剣士様」

「ああ、いんや。ちょっくら、立ち寄っただけで、欲しいもんがある訳じゃねえんだけどよ」

「なるほど……。しかし、その剣は見るからに錆びていますし、買い換えた方がよろしいのではないですかな?」


 言われて、鞘に収まった愛剣に目を落とす。持ち手も大分汚れ、使い古されている。手入れはしているが、経年劣化はどうしようもない、


「まあ、かれこれ3年間だからな……」


 しかも、これ拾った剣だし。


「予算がおありでしたら、どうですかな? 是非買っていって下さないな」

「ったく、商売上手だな? そうだな……金はそこそこあるし、丁度良いから買い換えるかな……っと」


 懐から金袋を取り出すと、店主はお辞儀した。


「ありがとうございます。では、剣士様にあった剣を選ばせていただきましょうぞ!」

「別にそんな張り切らなくても……まあ、頼んだわ」


 俺は店主に任せる事にした。

 暫く、店内を見て回ると店主が一振りの剣を持ってきた。あまり見た事のない造形で、曲線を描いたそれはどこか美しくも感じる。


「剣士様、これなんて如何ですかな?」

「なんだそりゃあ?」

「これは刀と呼ばれる武器で、一般的な『叩き斬る』剣と違って『引き斬る』という事に重きを置いたものです」

「刀ねえ……」


 俺は店主から刀を受け取り、軽く振ったり、刀身を眺めたりする。

 なるほど……中々良い。格好良いし。


「へえ……ちょいと試し振りしてきていいか?」

「ええ、どうぞ」


 俺は店主に断りを入れ、店の外に出る。外に出ると、空が曇っていた。


「これは一雨降りそうですな……」


 俺と一緒に外へ出てきた店主が呟く。

 俺は肩を竦める。


「そうだな。まあ、これから晴れるから大丈夫だろうさ」

「……それはどういう?」


 俺は言いながら、刀を右手に肩へ担ぐ。そして、溜めの後に、空に向かって刀を振るう。

 空を切った刀は風切り音すら無く、切っ先は地面に付く寸前で止まる。

 刀を振るった衝撃で生まれた爆風は、その延長線上に飛ぶ。質量を持った爆風は嵐が如く突き進み、空を覆う雲を吹き飛ばした。


 ドゴオンッ!


 落雷にも似た轟音が街全体に広がるのと同時に、雲に遮られていた陽の光が街に降り注ぐ。

 俺は雲が散ったのを見届け、口をポカンと開けたまま呆けている店主に言った。


「気に入ったぜ。この刀っての買う事にしたよ。いくらだ?」

「え、あ、は、はい! ただいま計算致しますぞ!」


 正気に戻った店主は慌てた様子で店に戻る。

 俺は店主が戻って来るまで空を仰ぎ見る。


「んー……良い天気だな」



4



 俺が刀を購入した翌日。

 朝、ゆらりと目覚めて時間を確認した俺は目を疑った。


「……あ、寝坊した!?」


 俺は直ぐに出る準備を済ませて勇者養成学校へと急ぐ。時間的に、既に式典は始まってしまっている筈!


「入学早々に悪目立ちするのは勘弁だなあ!」


 もう遅いけど!

 走って勇者養成学校の前まで行くと、誰かが立っていた。誰かと思えば、エレシュリーゼだった。


「おう、何やってんだ?」

「いえ、それはこちらの台詞ですわよ。遅刻ですわよ?」

「悪い。寝坊した……」

「全く、先が思いやられますわ」

「め、面目ねえ……」


 刀という新しい武器に気分が高揚してしまい、ついつい街の外にいたモンスター達を相手に、試し斬りをしていたら……寝る時間が無くなってしまっていたのだ。


「とにかく、式典はもう始まっていますわ」

「そっか。あんたはこんな所に居てもいいのか?」

「わたくしは、代表挨拶が終わりましたので。まだ、これから新入生挨拶や夜会が行われる予定ですので、そちらには参加を」

「ああ、何から何まで悪いな。んじゃ、行くわ」

「少しお待ちを。式典に武器を持ち込むのは目立ちますわ。わたくしが預かりますわ」

「ああ、そうか。悪いな」


 俺は刀をエレシュリーゼに預けて、式典会場へ歩を進めようと――。


「会場はそちらではこざいませんわよ……」

「あれ……」


 ちっ……ここ広すぎるんだよ!

 エレシュリーゼに道を聞いて会場に着くと、巨大な会場に多くの学生達が椅子に座り、壇上を見ている。

 俺はこっそりと適当な席に座ったが、それまで周りから奇異の視線を向けられた。

 とりあえず、椅子に腰掛けて一息吐く。


「それでは、次は新入生代表挨拶。代表は登壇して下さい」


 司会の進行に合わせて、新入生の中から一人、壇上へと向かう。

 見ると、女だった。長くて綺麗な金髪をしていて、すらっと長い手足と身長。とにかく、全体的なプロポーションの良い女だった。


「ん……ありゃあ」


 壇上に上がった女は、遠目からでも良く分かる程の美人。いや、問題はそこではない。

 俺はスッと目を細める。


「それでは新入生代表――レシア・アルテーゼさん。挨拶を」

「――はい」


 レシア――その名前を聞いて、俺の額に青筋が立った。今すぐにでもここら一帯を吹き飛ばし兼ねない程の怒りが生まれる。

 名前を聞く度に、8年前に感じた後悔や憎悪を思い出す。


「私は新入生代表、レシア・アルテーゼです」


 レシアは壇上の上で、良く通る澄んだ声でそう言った。

 そうだ、あそこに居るのは間違いなく……8年前に連れ去られたレシアだ。俺が見間違う筈がない。


「8年経って、また偉く美人になりやがったなあ……あいつは」


 今すぐにでも、あの壇上の前へ行きたい。だが、その気持ちを噛み殺して素直な感想を述べる。

 というか、アルテーゼってなんだ? あいつは俺と同じ下層の民だから家名なんざ、大層なものは持ち合わせていない筈なんだが……。


「まず、私から一言。私は、あなた達と馴れ合うつもりはありません。同級生も上級生も、等しく競い合う敵です。そして、私が勇者となる踏み台です」


 レシアの一言で静寂を保っていた会場が騒めき出す。中にはレシアに罵声を浴びせかける輩も居たが、レシアの刃が如き視線に射抜かれ、一瞬で会場が静まり返る。


「……この場所に来たからには、私は必ず勇者になります。その為の努力をする事を誓います。以上です」


 簡潔な挨拶であったが、迫力があった。勿論、「女の癖に」だとか「生意気言うな」だとか、こそこそと言っている輩は大勢居るが、誰も声を大にする事はない。


「……あいつ、この8年で何があったんだろうな」


 身に纏う気迫が段違いだ。相当な鍛錬を積んだ証拠だ。恐らく、この場に居る殆どの人間は、レシアに勝てない。


「…………」


 壇上から泰然と降りるレシアを、俺は片時も視線を切る事なく見つめ続ける。

 ああ……可愛いなあ……。っと、違う違う。そうじゃないだろ、俺……。


「まずは、どうにかしてレシアに近づかんとなあ……」


 まあ、いずれ機会はあるだろう。なんだったら、これからあるという夜会にでも声を掛けられるかもしれない。


「あれ……?」


 なんか、そう考えたら緊張してきた……!





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