十七話 奪還戦の開幕
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蝿の王の屋敷。その応接間で、蝿の王はある人物と顔を合わせていた。
「随分と彼女にご執心なのね。蝿の王」
扇子で口元を隠してそう言ったのは、ミラエラだった。
「我が花嫁に会ったか」
「ええ。とても美味しそうだったわ」
ミラエラが舌舐めずりすると、蝿の王が顔を顰めた。
「手を出したら……」
「分かっているわよ。うふふ。独占欲が強いのねえ」
あっけらかんとしているミラエラに、蝿の王は調子を狂わされる。
「それで、何用か」
「ああ……一応、忠告にね。あなたも知っているでしょうけど、彼女は神器使いのレシアでしょ? キュスターの実験台の」
「…………それがどうした?」
「いえ。確か、彼女と一緒にいるのよね? 件のブラック」
「らしいな。我は会わなかったが」
強いて言えば、去り際に戦った人間は、ブラックに該当したかもしれない。もう、死んでいるだろうがと、蝿の王はミラエラを見る。
ミラエラは「まあ……私が心配性なだけね」と零し、座っていたソファから立ち上がった。
「それじゃあ、帰るわ。せいぜい、寝首だけは掻かれないようにね?」
「…………」
蝿の王は、ミラエラの軽口に答えなかった。
ミラエラは、つまらなさそうにしながら応接間を去ろうと――。
ミラエラが眉根を寄せた。
「あら……この階層に、誰か来たみたいね」
「……そのようだ。花嫁の客人らしい」
蝿の王も気づいている様子で口にする。
「……ゲートは破壊したはずだが、早いな」
「詰めが甘いわね。蝿の王。同じ魔将のよしみで、私が様子を見に行ってもいいわよ?」
「その必要はない。我が同胞達が、すでにもてなしている」
「あらそう」
準備がいいのねと、ミラエラは肩を竦めた。
※
アスファロストの転移魔法によって第300階層に転移した俺達は、早速虫モンスター達に歓待されていた。
「聞いていた場所と違くねえか? っと」
「転移の瞬間、魔法的な干渉を感じましたわ。そのせいだと思いますわ! 『フレア』!」
俺は蜂モンスターを刀で斬り裂く。エレシュリーゼは、群れていた蟻モンスター達を魔法で焼き払った。
「はっはっはっ! そらあああ!!」
「あ、『アクアランス』!」
ラッセルとモニカも視界の端でモンスターと戦っている。
俺達が転移した場所は、荒野の真っ只中だった。周囲には何もない。アスファロストの話では、直で蝿の王の屋敷に転移するはずだったのだが……。
エレシュリーゼの言う魔法的な干渉によって、転移場所がズレたらしい。
「だああああ! 鬱陶しいなあ! 全員伏せろ!」
俺が叫ぶと、三人は一様に地面に伏せる。それを見届け――。
「絶剣五輪……! 『旋風』!」
体を一回転させると同時に刀を振るう。刹那――怒涛の爆風が刃となって、周囲を取り囲んでいたモンスターの大群を、全て一刀両断にする。
風が止むと、周囲には俺達しかいなかった。
「さすがオルトさんですわね」
「うわあ……ちょっと気持ち悪い……」
賞賛するエレシュリーゼの傍で、ちょっとエグい死骸の数々にモニカが顔色を悪くさせている。
俺は頭を掻きながら、
「おいおい、大丈夫かよ? モニカ?」
「う、うん……は、早くレシアさんを助けなきゃだもんね。こんなところで立ち止まってる場合じゃないよね……!」
「その通りであるな。モンスターは、まだまだ湧いているようだしな」
ラッセルが指を差した方向に目を向けると、虫モンスターの群れが、再びこっち向かって来ているのが見えた。厄介な上にしつこい。あと、数が多くて面倒臭い。
だが、この敵の向こう側にレシアはいる……。
「そこを退きやがれ!」
俺は刀を肩に担いだ。
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やる気……出ます!




