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十五話 クモを食べる乙女



 十分前後が経過して戻ってきたアリアは、手の平サイズの丸焼けにしたクモを小皿に乗せて戻ってきた。


「こちらでよろしいでしょうか?」

「アリアさん的に大丈夫ですかこれえ……」


 思わずレシアは尋ねてしまう。だってそうだろう。アリアの半分はクモだ。はたして、アリアの目の前で同族を喰らってもいいものか。

 そんなレシアの心配も杞憂だったらしく、アリアは苦笑を浮かべた。


「……私は半端者でございますから。お気になさらず」

「…………?」


 そう言うならと、レシアは小皿で今だにピクピクと痙攣しているクモを手に取る。

 脚を捥いでポリポリと齧る。油で揚げたのか、口の中に甘味が広がる。塩も絶妙に効いている。


「ポテトみたいでいけますね。脚」

「……本当に食べてますね」

「あ、やっぱり、嫌な気分になりましたか……?」

「い、いえ……ただ、クモを食べているのが意外と言いますか。申しわけありません……」


 レシアは首を傾げた。

 暫くアリアを見ていると、観念したのか口を開く。


「その……人間の箱入り娘が、本当に虫を食べられるのかと……疑っていました。温室育ちのお嬢様には、気持ちが悪いでしょう……?」

「ああ、そういう……あむ」


 ボリボリッ


 レシアはクモの脚を食い尽くすと、今度は腹部と胸部を引き千切り、頭部から胸部にかけて口の中に放り込む。サクサクとした食感とともに、甘酸っぱい汁が口の中で僅かに弾ける。

 本当に躊躇いなく食べている。


「こう見えて、私、結構いける口ですよ?」


 呆けているアリアに言いながら、レシアは丸々と身の詰まった腹部を口に放る。噛むと、一気に体液が弾ける。レシアの口の端から、その体液が垂れた。

 濡れた唇や不適に微笑んだ表情も相まって、どこか淫靡な雰囲気を感じさせた。同性で、魔族であるアリアでさえも顔を赤くさせるほどだった。

 アリアはハッと視線を逸らし、すぐにレシアの口元を拭う。


「あ、すみません……」

「い、いえ……」


 アリアの瞳が、真近でチラチラとレシアに向けられる。

 レシアの口元を拭い終わると、アリアはサッと離れた。


「ええと……ほ、他には何かございますか?」

「そうですね……。少し体が動くようになってきたので、体を動かしたいですね」

「……お、お屋敷の中でしたらご案内できます。外は……」

「まあ、そうですよね」


 屋敷内を自由に歩き回れるだけでも十分と言えるだろう。

 レシアは肩を竦め、アリアにお願いした。


「それじゃあ、食後のお散歩がてらお屋敷を案内していただけますか?」

「か、かしこまりました……」


 戸惑いながらも恭しく頭を下げたアリアは、レシアが立ち上がるのに合わせて扉を開けた。

 レシアは部屋の外に出て左右を確認する。綺麗な廊下だった。貴族の屋敷に造りが似ている。


「それでは参りましょう……」

「ええ、よろしくお願いしますね」


 レシアはアリアの後に続き、蝿の王の屋敷内を見て回る。

 所々で虫を発見し、レシアは奇妙な感覚に囚われる。これだけ掃除が行き届いている屋敷に、清潔とは無縁にも思える虫がいるのだ。

 クモの巣が家にあれば、汚いと思うのが普通だが……不思議とここにいる虫達にはそういう感情が湧かなかった。


「なんだか不思議なところですね……」

「…………」


 レシアの独り言にアリアは、視線だけをレシアに向けた。

 さらに歩いていると、途中で廊下を清掃しているメイド達とすれ違う。アリアとは違って、どちらかと言えば純粋な虫に近い姿をしたメイド達だった。

 メイド達はレシアを見ると一礼し、アリアを一瞥すると、侮蔑を含んだ嘲笑を浮かべた。そして、聞こえるか聞こえないかという小さな声で、「半端者……」と呟く。


「…………」


 アリアは俯きながら、レシアの前を歩き、案内を続ける。

 それを側で見ていたレシアは、半端者という意味を自分なりに考えるのだった。


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やる気……出ます!

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