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十四話 昆虫食の乙女

 レシアがここから脱出するには、とにかく情報が必要だ。騙すようで心が痛むが、アリアと親交を深め、情報を引き出す他に手はない。

 そうと決まればと、レシアは採寸の準備をしているアリアに話しかけた。


「まだ体が動かせなくて暇ですし、話し相手になってくれませんか?」

「……私でよろしければ」


 アリアはやや警戒の色を含んだ視線をレシアに向ける。

 さて、まずは何から話したものかとレシアは思案する。

 思えば、ここ八年。勇者になるための英才教育を施されていたため、社交辞令的な会話はできても人と仲良くなるための会話などしたことがなかった。

 あれ? ガールズトークってどうすればよかったんだっけ?

 乙女レシア十六歳。まさかのコミュニーケーション不足に思考が固まる。


「ええっと……あ、そうだ。アリアさんはおいくつですか?」

「……お言葉ですが、初対面の女性に年齢を尋ねるのは失礼では……?」

「あー……まあ、あの。女同士ですし……ね?」

「…………二十一になります」


 どうやら魔族だからと言って突飛な年齢というわけではないらしい。


「あ、ちなみに私、十六歳です」

「聞いていません」

「あー……ですよね。すみません……」

「…………」

「…………」


 会話が終わってしまった。

 ここからどうしよう。

 レシアが困った笑みを浮かべると、アリアがポツリと口を開く。


「……レシア様は、虫が少し苦手と仰っていましたが、どういうことですか……?」


 まさかアリアの方から尋ねてくるとは思わず、レシアは虚をつかれた様子で答えた。


「えっと、私……その……子供の頃によく畑仕事をしていたので。虫は慣れっこなんです。たまに食べたりしましたから」


 レシアの出身は最下層――第1階層だ。

 食糧難なぞよくある話で、そういう時は食べられる虫を生で食べるなんてことがあった。それがあまりにも美味しくなかったことがきっかけで、虫は苦手だった――食べることが。

 と、そこでレシアは失言に気づく。


「あ、すみません……食べるとかそういうのは気を悪くさせましたよね……」

「いえ……世の中は弱肉強食。別にそこはどうとも……ただ、た、食べたのですか? 普通……食べられませんよ……ね? 人間は……」

「さあ? 私は食べましたよ。虫も美味しいのは、美味しいんですけどね。ミルクワームとか」

「…………」


 アリアはどこか興味深そうにレシアを眺めると、


「その……クモは食べたこととか……あるのですか?」

「え。それ、アリアさんの前で答えてもいいものですか?」

「その答えで分かりました……。もう答えなくて大丈夫です……」

「そ、そうですか……?」


 レシアは戸惑い首を傾げる。

 ただ、アリアの反応からして怒っている様子はなかったので、ひとまず安堵の息を吐いた。

 安心すると、途端にレシアの腹の虫が鳴く。丁度、ご飯の話をしていたことも相まって、レシアは天井を仰いで呟いた。


「そういえば……もうかれこれ八年も虫料理食べてないなあ……」


 上層の暮らしで、すっかり舌が肥えたレシアにとっては積極的に食べたい代物でもないが……。ふと、思い出すとともに食べたくなる代物ではあった。故郷の味とでも言えるだろうか。

 そんなレシアの呟きを側で聞いていたアリアは、苦笑交じりに口を開く。


「……虫料理をお作りいたしましょうか?」

「い、いいんですか? あ、変なものは入れないでくださいよ?」

「ふふ……おかしな方ですね。人間にとっては、虫が変なものな気がするのですが?」


 アリアはそう言って、「お食事の準備に行きます」と一礼して部屋を出た。残されたレシアは、ようやく四肢が動くようになってきたので体を起こした。


「ふう……少しは打ち解けたかもしれませんね」


 レシアは苦笑を浮かべ、窓の外に視線を送った。


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