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十三話 囚われの花嫁

「あんた……テレポートなんて使えたのかよ」

「魔人だからな。キュスターも使っていただろう?」


 俺は肩を竦めた。


「とにかく、そういうわけだから、向こうへ行くことはすぐにでも可能だ。ただ……」

「ただ?」

「テレポートの行き先は、自分が記憶している場所だ。それも強く印象に残っているな」

「何が言いたいんだ?」


 勿体ぶるので聞くと、アスファロストは笑みを浮かべる。


「私が第300階層に転移させられる場所は、敵の……蝿の王の根城だ。つまり、君達はテレポートで転移した瞬間、敵の本拠地の真っ只中に、置き去りにされるわけだ」

「…………ふええええ」


 想像したのかモニカが顔を青くさせる。

 エレシュリーゼも表情がを強張らせている。ラッセルも難しい表情を浮かべた。


「だから、行くのならしっかりと準備をするべきだろう。少なくとも、彼女はすぐにどうこうされる心配はないから、安心するといい」

「根拠は?」

「そういう未来を見た」


 暫く、アスファロストを見つめる。

 本当は今すぐにでもレシアを助けに行きたい。連れ去ったという蝿の王に、腹わたが煮えくりかえる思いだ。

 だが、冷静に考えろ。

 レシアは今、人質とも言える状況だ。下手に一人で突っ込んでも、レシアを助けられるか分からない。なら、少しでも準備を整えて、ラッセルやモニカ、エレシュリーゼ達の力を借りた方が得策だ。

 俺は自分を落ち着かせるために、深呼吸をした。


「すう……はあ……。よし、んじゃあてめえの話に乗っかる。だから、教えろ。蝿の王のこと」

「もちろんだ。蝿の王はもちろん、奴の根城の間取りまで教えやろう」





「…………ん、ここは……?」


 レシアが目を覚ますと、そこは見知らぬ天井だった。

 豪華な天井だった。視線を落とすと、見慣れない部屋が視界に写り込む。

 どうやら自分はベッドの上に横たわっているようだと気づき、体を起こそうと――。


「あ、れ……?」


 体が思うように動かない。

 ふと、そこで思い出す。蝿の王に襲われ、ここまで連れて来られたこと。そして、気を失う間際――ラッセルが……!


「くっ……! う、動けない……! まだ体が麻痺してる……!」


 どれだけ力を入れても体が動かない。

 麻痺しているせいか、ブリュンヒルデを呼んでも応答してくれなかった。


「もう……!」


 レシアは腹が立ち、声を荒げる。と、丁度そのタイミングで部屋の扉から蝿の王が現れた。その後ろに、下半身がクモで上半身が女性の姿をしたメイド服の魔族が追従する。


「やあ、我が愛しの花嫁。ああ、花嫁よ。お目覚めかい」

「誰が花嫁ですか。やめてください」

「つれないね。そこもまた、美しい」


 蝿の王は、朗らかに笑う。蟲に埋め尽くされた顔に表情なんてものはないが、そんな気がしたのだ。


「起きて早速だが、明後日結婚式を行おうと考えている。今日は、結婚式用のドレスを仕立てるために採寸をしてもらいたい。もちろん、まだ結婚もしておらず、初夜を迎えていない我がやるわけではないから安心して欲しい」

「誰もそんな心配はしていません。とにかく、私を解放してください」

「強気な子は好きだ。ああ、本当に美しい……今すぐにでも我の子を仕込みたい!」


 レシアは眉根を寄せて嫌悪感を露わにする。


「襲ったら舌を噛んで死にます」

「麻痺させれば問題ないことだ」

「であれば、神器の力で自爆します」

「そんなことはできないだろう?」

「どうでしょう?」


 もちろん、できない。

 体の麻痺に合わせてなのか、理由は定かではないものの、ブリュンヒルデがレシアの呼びかけに応えない。

 自爆しようにもできないのだ。だが、神器のことは使用者本人が最もよく知っている。蝿の王が、神器のことで使用者本人のレシアよりも詳しいかと言われれば……もちろん否だ。

 ハッタリであることも考えるが、リスクリターンが噛み合わない。蝿の王は、レシアに一目惚れして、自身の子を孕ませたいだけだ。殺したいわけではない。


「ははっ。なら、初夜まで我慢だ」

「初夜もなにもありません」

「さて、それはどうかな……?」

「…………?」


 初夜を迎えれば、レシアが従順になるとでも思っているのだろうか。

 ただ、蝿の王から妙な自信を感じ、レシアは不安になる。それを決して表に出すことなく、気丈に振る舞う。


「さて、では身の回りの世話はこのメイドに任せてある。なにか困ったことがあれば、彼女に聞くといい」


 蝿の王はそれだけ言って、部屋を後にする。残ったメイドは、美しい所作でお辞儀した。


「……これよりレシア様のメイドとなりました。アリアでございます。なにかありましたら、なんなりと……」


 レシアはアリアと名乗った魔族の女性をまじまじと見つめる。人間とは違う、クモの下半身に目が移る。

 それが気に障ったのか、アリアが顔を顰めた。


「……お見苦しいでしょうか?」

「え?」

「人間には気味の悪い姿なのは存じております。我々、蟲の魔族は……昔より、人間に毛嫌いされておりましたから。慣れていますのでお気になさらず」

「ええっと……別に気味が悪いとは思ってないですけど……」

「…………気持ち悪いとは、思わないのですか? 人間は虫が嫌いなのですよね?」

「それは人それぞれかと。少なくとも私は、ちょっと苦手なくらいで、クモはむしろ好きな方です」


 レシアは再び、アリアの脚に目を向ける。


「す、好き……? こんな……?」

「ええ、好きですよ。クモの脚って綺麗じゃないですか。上半身も人間的ですし。いい感じのバランスですよね。アリアさん」

「そんな……上半身は私が一番嫌いな部分なのですよね……! や、やめてください……!」

「そうですか。それはごめんなさい」


 レシアは素直に謝罪した、

 なにやら、色々と悩み事を抱えていそうな子だなと、レシアは苦笑を浮かべるのだった。


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やる気……出ます!

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