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十二話 先見の魔人

 レシアが所属しているノブレス騎士団の団長。その本性は、人間社会に溶け込んだ魔族の男。異名は『先見の魔人』。少し先の未来を無作為に見る能力を持つ。

 アスファロストは、全てを見透かしているが如き瞳で俺を見ていた。


「てめえ……!」


 その視線に苛立ちを覚えて、つい声を荒げてしまう。

 アスファロストは「フッ……」と笑みを浮かべ、


「知っていたならなぜ教えなかったという顔だな。責任転換は、昔から変わらないな」

「んぐっ……」


 言う通り過ぎて、ぐうの音も出ない。

 状況の分かっていないエレシュリーゼとモニカは、「えっと……」と似たような反応を示している。勘付いているらしいラッセルは、「ふむ……?」と小首を傾げている。

 俺は頭をガシガシと掻いた。


「で? なんの用なんだよ……」

「ここではなんだ。一先ず、私の執務室に来い。話はそれからだ」


 アスファロストはそう言って踵を返した。





 アスファロストに促され、彼の執務室へと足を運んだ。前に来た時よりも、書類が多くなっている。

 忙しそうだなと頭の片隅で思った。


「さて、四人ともわざわざすまない。楽にしてくれて構わない」


 アスファロストに言われるものの、悠長にしている場合ではない。俺は早く先を促すために口を開く。


「いいから早くしてくれ……時間がねえんだ」

「焦る気持ちは分かるが、今回は相手が相手だ。君がこの八年でどれほど強くなっているのか、よく理解しているつもりだ。しかし、その君でさえも死ぬ可能性がある」

「…………」


 未来を見る魔人が言うなら、その通りなのだろう。

 レシアを助けるために鍛え上げたこの体と剣術は、誰にも負けない自信がある。

 それでもと……アスファロストは言う。

 俺とアスファロストが視線を交じり合わせている中、戸惑った声があがる。


「その……まるでアスファロスト様が、敵の正体を知っているかのような口振りに聞こえるのですが? なにを知っていますの……?」


 アスファロストの正体を知らないエレシュリーゼから発せられた疑問の声。当然といえば当然だが――いちいち説明している時間が惜しい。

 そうこうしている間にもレシアは――それを考えただけで、胸が張り裂けそうだった。


「説明すると長くなるから……まあ、一言で言うなら、こいつは魔人なんだ。分かったか?」

「全く分からないのですけど!? なんですの!? その雑な説明は!」


 声を荒げたエレシュリーゼだが、一応は納得してくれたようだ。


「時間が惜しいのも焦るのも、わたくしも同じですから追及はしませんけれど……。その……信用はしてよろしいので?」


 俺に対しての問いではなかった。

 エレシュリーゼから問われたアスファロストは、顎に手を当てて唸る。


「……そこは信用してもらうしかない。一つだけ言えるとすれば……彼女を救うことは、私にも理があるとだけ言っておこう」

「どういうことですの……?」

「そのままの意味だ。君達を……いや、正確には彼女を助けることに理がある。細かな説明をしたところで、今の君達が理解できるとは思えない」


 アスファロストはふと、俺に視線を寄越す。すると、口角を吊り上げ、不敵に笑った。


「だから、建前ではなく本音を話そう。私はね、そこそこ彼女に対して情が湧いているのだよ。私は八年間、彼女の成長を見守り続けていたのでな。だから、彼女を救いたい」


――それだけさ


 俺は口を半開きにし、間抜けな表情を浮かべていたと思う。なぜなら、その言い方は――八年前、俺を奮い立たせた言葉に似ていたから。

 いや、もう本当に……昔からこいつの手のひらの上で踊らされてる感じがして癪だが、今は頼る他ない。


「それで? どうやったらレシアは助けられるんだ?」

「キュスターの時と同じさ。戦って、力で持って助け出す。大体、君にこちらの戦は向いたいないだろう?」


 アスファロストは俺を小馬鹿にしているのか、自分の額を人差し指でコツコツと叩く。

 この野郎。


「おい、俺はこう見えて頭脳派だからな?」

「…………」

「…………」

「…………」


 背中に仲間達から無言の圧力を感じる。


「話を戻そう。まずは、蝿の王についてだ。知っているだろうが、奴は無数の蟲を操る魔人だ。その異名は『死翔の魔将』」

「ましょう……奴もそう名乗っていたが、なんなのだ?」


 ラッセルが尋ねると、アスファロストは目を細めた。


「魔人の中にも序列がある。その中でも、強い力を持った七人の魔人を、我々は七魔将と呼んでいる。蝿の王はその魔将の一人だ」

「だから、魔将……ですのね」

「ふええ……なんだか、怖そう……」

「事実、魔将達は強い。それは戦って分かったと思うがね」


 アスファロストの言葉に、ラッセルが悔しそうに唸った。

 市街地という制約があるとは言え、ラッセルが殺されかけたというのは俺にとっても衝撃だ。確かに、並大抵の相手ではないのだろう。


「蝿の王の体は蟲でできている。物理攻撃は効かないわけではないが、ダメージを与えるのが難しい。魔法攻撃で燃やすのが一番手っ取り早い」

「あ、じゃあエレシュリーゼさんがその……蝿の王さんを……?」

「いや、はっきりと言うが、エレシュリーゼでは力不足だろう。この中で、蝿の王と戦えるのはオルトだけだ」

「ですわよね……」


 エレシュリーゼは悔しいのか肩を落としている。

 だが、俺としては安心したところもある。

 それより……と、俺は口を開いた。


「蝿の王の対策はいいけどよ。どうやって第300階層に行くんだ?」

「ああ、それか。それなら安心するといい。第300階層に一瞬で行ける方法が一つだけある」

「そりゃあなんだ?」

「簡単な話だ。私がテレポートで君達を転移させればいい」


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やる気……出ます!

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