七話 喧嘩
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ラッセルに唆され、前々から準備していた気合の入った下着を身に付けたレシア。鏡の前で確認し、「よし……」などと頷き、服を身に纏ってオルトの部屋に突撃する。
レシアはオルトの部屋の前で、深呼吸する。あまりの緊張で周りがよく見えず、何度か何もないところでこけた。
「すう……はあ…………お、オルト……います……か?」
ノックして声をかける。しかし、返事がない。
オルトがシェアハウスから出たのを見ていなかったので、不思議に思ったレシアは恐る恐る扉を開ける。
すると、ベッドの上でだらしなく眠りこけるオルトが視界に入った。
「ね、寝てる……」
レシアは苦笑を浮かべると同時に、安堵した。寝てしまっているのなら、夜這いは――いや、ここで引いてどうする。
「…………」
そうだ。自分は夜這いをしにきたのだ。
一度、覚悟を決めたのなら行けるところまでいってやるわよ!
レシアはそう思い、意を決してオルトのベッドに潜り込んだ。オルトは少しだけ身動ぎする。レシアはそっと、オルトの体側に寄り添い、ただオルトが起きるのを待つ。
オルトの寝顔を見つめ、彼の体温を肌で感じていると――レシアの鼓動が早鐘する。
「うう……やっぱり、やめればよかった……」
小声で後悔を口にする。
と、それがきっかけとなり、オルトはパチクリと目を覚ました。
※
目が覚めると、レシアが隣で寝ていた。
見ると、艶やかな装いをしており、もしや気づかぬうちに一線を超えてしまったのかと焦る。しかし、それは杞憂だったようだ。
「……お前、なにやってんだ?」
「…………み、見て分からないの……?」
もしかして、夜這い……?
い、いや、まさかレシアに限ってそんなこと……。だが、レシアの表情も、真っ赤な顔も、艶やかな装いも、柔らかい肌も、鼻腔をくすぐる良い匂いも――誘っているとしか思えない。
いや、いやいやいや……いいのか!?
悲しいかな、漢オルト十六歳。女性経験は皆無である。こんな時、男ならどうすれば……!
も、揉めばいいのか!? 揉んでいいのか!? どこを!?
「…………」
「……オルト」
レシアの濡れた瞳が俺を見上げる。
混乱。ただ、ひたすらに混乱する。
よし、揉もう。
俺は、もう己の欲望に全て任せて――とそこで、テーブルの上に置かれたある物に気がつき、思考を停止させた。文字通り石化し、俺の中で時間が止まる。
「オルト……?」
突然、俺の動きが止まったからだろうか。レシアが怪訝な表情で、俺の名前を呼ぶ。
しかし、そんなことを気にしている場合ではない。
あれはサプライズで渡すレシアへのプレゼント……もしも、見られていたら目も当てられない!
俺は慌てて、
「れ、レシア! み、見たか……?」
何をとは言わなかった。
「え? み、見た? えっと…………」
何を勘違いしたのか、レシアが俺の硬くなっている下腹部にチラチラと視線を向けている。当たっているから嫌でも気づいてしまったのだろう。
いや、もう、それはいい。いや、よくないけど。今はそれどころじゃない。
とりあえず、この反応だとあれがプレゼントであることは知らないようだ。そもそも、視界に入らなかったのかもしれない。運がよかった。
「よし……レシア。わ、悪いんだけど……ちょーっと、部屋から出てもらっていいか?」
「……え」
レシアは目を見開き、傷ついた表情を浮かべる。
なぜそんな表情を浮かべたのか分からなかったが、プレゼントを見られるわけにはいかない……!
バレてはサプライズではなくなってしまう!
その一心で、俺は口を開いた。
「その……ちょっと急用があって……」
「…………」
俺はとにかく口から出まかせで理由を付ける。
ふと……レシアの体から桃色のオーラが――。
「あ、あれ? ど、どうした……?」
「…………で」
「……ん?」
「……なんで!!」
なぜかブチ切れたレシアが、叫び上がりながら襲いかかってきた……!
※
「ちょ……いてえいてえ!」
「このっ! このっ! もう今日ばっかりは堪忍袋の緒がが切れたわ! オルトのバカ! 大バカ男!」
「なっ……ちょ……いって!? お前、俺に特攻効果あんだから手加減を――!?」
俺が何を言おうとも、レシアは手加減することなく、布団の中でとにかく殴ったり蹴ったりと――次第に俺もイライラが溜まり、レシア同様爆発する。
「だああああ! やめろっつんだよ! このアンポンタン!」
ガバッとベッドから立ち上がる。レシアも俺に続いて立ち上がった。
「誰がアンポンタンよ! バカ! 覚悟を決めた乙女を侮辱した大バカオルト! そんなに、あたしに魅力がないならハッキリ言いなさいよ!」
「なっ……んなこと一言も言ってねえだろうが! 勘違い女!」
レシアは目尻に涙を溜め、キッと俺を睨んだ。
「じゃあ、どうして今まで手を出さなかったのよ! あたし、待ってたのに……! 今日だって、あたしから頑張ったのに……! もうあたしに飽きちゃったんでしょ!? 無愛想で可愛げのないあたしよりも、エレシュリーゼさんやモニカさんの方がいいんでしょ!?」
「だから、そんなこと一言も言ってねえだろうがよ! ちったあ話を聞けってんだ!」
「うるさい! うるさい! もうオルトの話なんて聞きたくない! オルトなんて大っ嫌い!」
「っ……!?」
このっ……!
「言わせておけばつけあがりやがって! いい加減にしねえとマジで怒るぞ!?」
「もう怒ってるじゃないバカ! もう知らない!」
「こっちこそもう知るか!」
「出てく!!」
「勝手にしろ!!」
レシアは言って、小走りに俺の部屋から出ていく。
乱暴に閉じられた扉は、閉まらずに再びキィッと音を立てて開いてしまう。
その隙間からは、何事かと様子を見にきたのだろう。モニカとエレシュリーゼが顔を覗かせている。そして、一言。
「……オルトさんが悪いですわ」
「私も……そう思うかな……」
俺はベッドの上に力なく座り込んだ。
「はあ…………」
俺のバカ。
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やる気……出ます!




