六話 正義、お節介を焼く
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宝石店で買い物をした後、シェアハウスに戻った俺は――リビングで寛いでいたレシアと鉢合わせた。
咄嗟に購入した物を背中に隠す。
レシアは俺に気づくと、美しい碧眼を向けた。
「あ……オルト。お帰りなさい。どこへ行っていたのですか?」
長い金髪を一つに纏め、ゆったりとした服を着ている姿は――どこか新妻っぽくて興奮してしまう。
それを悟られないように、努めて冷静に返す。
「まあ……ちょっと野暮用だ」
「……? そうですか。それより、先ほど何か背に隠しましたか?」
「い、いや!? そんなことないぞ……?」
「そうですか……? そういえば――」
と、なにか言いかけたが用意したプレゼントを見られまいと焦った俺は、それを遮った。
「わ、悪いけど……ちょっとやることがあるんだ! 話はまた後でな!」
「え? は、はい……分かりました……?」
困惑するレシアを他所に、俺はすぐに二階にある自分の部屋へと駆け込んだ。
「ば、バレてねえよな……?」
とりあえず、誕生日プレゼントを部屋の隅にあったテーブルの上に置いておく。変なところに隠して、当日見つかれば、世話ないからな!
一仕事を終えた気分で、ふかふかなベッドに顔面から飛び込む。柔らかな枕に顔を押し付け、深呼吸をする。
顔を上げると、窓ガラスから光が差し込んでいるのが見える。
「…………」
数秒考えた結果、カーテンを閉めて光を遮り、一眠りすることにした。
頭を働かせすぎて疲れた……。
※
オルトが部屋で眠りこけている頃――彼の態度にどこか釈然していない様子のレシアは、リビングのソファに深く座り込んだ。
「……今日のオルト、様子がおかしい」
疑っているわけではない。
オルトがレシアのことを大事に思っていることは、当の本人が一番理解していることだ。
わざわざ、八年という長い時間、自分のことを想ってくれていた相手をどう疑えと言うのか。いや、できるはずがない。
しかし、女心――もといレシア心は複雑なもので……どれだけ信じていても、不安というものは拭いきれない。特に、オルトの周りにはエレシュリーゼやモニカを筆頭に、魅力的な女性が集まりやすい。
パン屋のお姉さん。宿屋の看板娘。貴族令嬢の面々。
とにかく、ライバルが多い。そんな中、自分のように素直ではなく、無愛想で、可愛げのない女が、いつまでもオルトの心を射止められるかと言ったら――。
「…………はあ」
そんな自信、レシアにはなかった。だから、ため息。
丁度、そのタイミングでラッセルがリビングに現れた。お節介焼きなラッセルは、ため息を吐いたレシアに声をかけた。
「どうしたのだレシア殿? ため息など吐いて」
「あ……ラッセルさん。いえ……その……オルトは、私のことをどう想っているのかと思いまして」
「…………ええっと?」
いや、そりゃあもう大好きなのでは?
ラッセルは内心で疑う余地もなく、そう確信する。
だが、レシアがそう言うからには何かしらの根拠があるのだろうと、ラッセルは彼女の話に耳を傾ける。
「なんだが今日のオルトの様子がおかしくて……ついに、私に愛想が尽きたのかと……」
「そんな……たった一度であろう? 心配することはないと思うのだが?」
「そう……でしょうか。妙に避けられている感じがするのです」
レシアは哀調を含んだ声音で続ける。
「もう付き合って半年……特に恋人らしい進展はなく、全くこう……手を出されないと言いますか。私、女としての魅力がないのかと……自信がないと言いますか。なんと言いますか……」
「あー……なるほど」
ついにその問題が浮き彫りになってしまったかと、ラッセルは額に手を当てた。
据え膳食わぬは男の恥。
オルトはがさつで、大雑把で、傲慢なように見える。だが、本当は繊細で誰よりも小心者だということを、ラッセルはよく分かっていた。
故に、あのチキン男――もといオルトは、今日までレシアに手を出せなかったのだろう。オルトの葛藤が目に浮かぶ……。
「ま、まあ……俺が言うことではないが、レシア殿は魅力的な女性。そこら辺は……あれだ。オルトともっと話し合った方がいいのではないかな!」
「話し合い……ですか?」
「うむ! なんなら、夜這いでもかけてみたらいかがか?」
「よ、よばっ……!?」
想像したのか、レシアの顔が真っ赤に染まる。
「夜這い……夜這いかあ……。よ、よし……頑張れ! あたし……!」
一人気合いを入れたレシアを、ラッセルは微笑ましげに眺めて苦笑する。
「恋か……いや、恋というのは良いものだな……」
オルトやレシアを見ていると、つくづくそう思う。
ラッセルはレシアに、「では頑張ってくれ!」とだけ言って、シェアハウスを後にした。
日課の巡回のためだ。
「はっはっはっ! 今日も正義! 正義! だ! この街の安全は俺が守る! はっはっはっ!」
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やる気……出ます!




