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四話 最強剣士、ワイバーンを奪う

1



 遂に、第90階層へ到達した俺は少しだけ肩を落とした。


「なんかあれだな。あんまり、他の階層と変わんねえのな」


 見上げれば硬そうな天井。階層全体を照らす太陽は、およそ12時間でエネルギーを失う。そして、12時間のエネルギー補充が行われ、再び稼働する。

 これが一日のサイクルであり、塔の世界の昼と夜である。


「さて、まずは現在地だなっと……」


 俺は第89階層で手に入れた、この階層の地図を懐から取り出す。

 現在地は第90階層の最南端。ここから、真っ直ぐ北上すると、俺の目的地である第90階層首都フェルゼンだ。

 聞いた話だと、フェルゼンに勇者養成学校があるというが……。


「レシアは……来るのかね」


 所詮は騎士の言う事だ。どこまで信じられるか……だが、今の俺に他の当てがあるという事もない。

 仕方ない……。


「しっかし、あれだなあ……。ちっとばかし、距離があるな。こりゃあ、歩いて行くには、骨が折れそうだ」


 何か足になる様なものがないか、俺は周囲を見渡す。

 見渡すばかり草原で、動物どころかモンスターすらいやしない。

 これはもう諦めて楽をせず、歩いて行くかと考えたところで、上空から接近する気配を感じ取る。

 空を仰ぐと、白亜の鎧に身を包んだ騎士が、ワイバーンに乗って空を飛んでいた。

 見回りか何か分からないが、間の悪い事に騎士は俺を見つけて、こちらに向かって来る。

 ワイバーンは俺の目の前で着地した。


「私は、ノブリス騎士団所属の騎士だ。貴様、この様な所で何をしている?」


 ワイバーンに跨っていたのは女の子だった。青い髪を一つに結んだ綺麗な顔の騎士である。

 普段なら、これだけ綺麗な女を前にしたらならデレデレとするところだが――俺は額に青筋を立てた。


「ノブリス騎士団……だと? 悪いが、俺は騎士様って人種がこの世で一番嫌いなもんでね。答えてやる義理はねえよ」

「なっ……貴様、なんだその態度は! 私は騎士であると同時に伯爵位を授かる貴族だぞ! 無礼な!」


 言われなくても、貴族なのは知っている。ノブリス騎士団の構成員は、その全てが貴族だ。上層至上主義とか言う、巫山戯た思想を掲げた奴らの集まりだ。

 何が騎士だ。笑わせるな。


「無礼? ワイバーンの上から俺を見下ろして話し掛けてる、あんたの方が無礼だろうがよ」

「ふんっ! 上層に住み、貴族位を持つ私が貴様よりも上に立つのは必然。見下されるのは、貴様が私より下だからだ。それよりも、その不遜な態度……許せぬな!」


 女騎士は腰に携えていた剣を抜き、切っ先を俺の喉元へ向ける。


「おい、貴様! 今から泣いて謝るというのなら、打ち首で勘弁してやる! でなければ、極刑にしてやってもいいのだぞ? 薬漬け、火炙り……さあ、楽に死にたければ懇願せよ!」

「死ぬ事は確定なのかよ……。ったく、器の小さな女だな」


 まあ、俺も人の事は言えないけど。


「ちなみに、あんた……自分が返り討ちに遭うって考えない訳?」


 俺が腰の剣を強調させると、女騎士は鼻で笑う。


「ハッ! 私は卓越した剣術、その実力でノブリス騎士団への入団を認められているのだ! 貴様如き下賎の民に負ける訳がなかろう!」

「なるほどな。まあ、女だろうがなんだろうが……剣を向けてきた時点で、死ぬ覚悟があるって解釈させて貰うぜ?」

「何を馬鹿な事を……まさか、この私に勝てる見込みがあるとでも?」


 いつまでも下に見てくる。だから、騎士団の連中は嫌いなんだ。


「んじゃまあ、しっかりと構えておけよ。言い訳されても面倒だしな」

「戯言を!」


 女騎士は突き付けていた剣を、そのまま俺に突き刺してくる。俺は首を曲げて避け、がら空きの懐に一閃。女騎士の鎧を微塵に刻む。


「へ……?」


 鎧を脱がされ、薄着な女騎士の姿が露わとなる。鍛えているのか、中々引き締まった体をしている。

 女騎士は何が起こったのか、分からなかった様で呆然としている。


「まだやるなら、相手になるぞ?」

「なっ……な、舐めるな!」


 女騎士は俺の挑発に怒り、ワイバーンの背から飛び降りる。そして、俺に向かって安直にも正面から挑んで来た。


「馬鹿正直なのは、ラッセルだけで十分だっての」


 俺は女騎士が間合いを詰める前に、片手に握る剣を下から振り上げる。

 振り上げた剣の軌道上は、衝撃波が飛んで一直線に切断。衝撃はそのまま前進し、少し遠くに見えていた山を一刀両断する。


「かっ!?」


 女騎士には当たらない様に放った一撃だったのでダメージはない。しかし、山が一刀両断されたのを見て、愕然としていた。

 俺は剣を肩に担ぐ。


「で? まだやるなら、次は当てるぞ?」

「ひ……ひいいいい!?」


 女騎士は腰を抜かし、あそこから……っといかんいかん。

 俺は女騎士の粗相を見なかった事にする。


「んじゃ、まあ、俺の勝ちって事で。このワイバーンは借りてくぞー」


 俺は腰が抜けて動けずにいる女騎士を放り、ワイバーンの背に跨る。初めは俺が背に乗るのを拒んだワイバーンだったが、殺気を放ったら大人しくなった。

 そうして、俺はワイバーンを騎士から奪い、首都フェルゼンを目指した。




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