三十六話 謎
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パーティーが行われた城で、充てがわれた客間を使って一夜を明かした。
俺は澄んだ朝に一人、城を抜け出しある所へと向かっていた。
城を歩き回り、時折すれ違う使用人の人に道を尋ねながら――俺はある人物が居るという部屋の前へやって来た。
「エレシュリーゼに聞いた場所って、ここで合ってるよな?」
とりあえず、扉を叩くと中から『開いている』という淡白な返答があった。ドアノブを回して入る。
部屋の中は執務室の様で、室内には書類が多い。奥には執務机が置かれ、そこで一人の男が黙々と書類に目を通していた。
「よお、久しぶりだな」
「ふむ……そろそろ、来る頃だろうと思っていた」
男は書類から俺に視線を切り替える。鋭い眼光が眼鏡のレンズ越しから俺を射抜いた。
「8年振りと言った所だな。少年」
「もう少年なんて歳じゃあねえよ」
俺が会いに来た人物は――8年前、俺に例の書状を渡してくれた騎士だった。
長い白髪を後ろで一括りに縛っている。
俺は肩を竦める。
「少し老けたか?」
「8年だからな。彼も老けていただろう?」
「キュスターの事言ってんのか? 興味無くて覚えてねえわ。あいつの顔」
そう言うと、男が肩を竦めた。
「……それで? 世間話をしに来た訳ではないだろう?」
「まあな。つっても、あの時の礼を言いに来ただけどな」
「礼などいらないさ。君はキュスターを倒してくれただろう?」
「そりゃあ、俺が俺の意思でやった事だ」
「だとしてもさ。キュスターが消えたのは、私にとって何かと都合が良くてね」
「ふうん? んじゃまあ、礼は言わないでおくわ」
男は「そうすると良い」と口にし、不敵に笑いながら続けた。
「それで……他にもあるのだろう? 朝早くに来たんだ。あまり人に聞かせたくない話があるのだろう」
「……察しがいいな。じゃあ、単刀直入に言うが――あんたも魔人なんだろ?」
俺が問い掛けると、男は暫く沈黙した後にゆっくりと頷いた。
「何故そう思った?」
「別に。キュスターが魔人だったから何となくな」
「なるほどな……」
「隠さないのな」
「君にバレてもどうと言う事は無い。君は……彼女以外どうでも良い筈だ」
男が不敵に笑ったので、俺は肩を竦めた。
「なあ、何であの時……俺を煽る様な事言って、あの羊皮紙を渡してくれたんだ?」
「理由は……話した筈だが?」
「そりゃあ、本音はな。だが、建前の方を聞いてねえんだよ」
「建前は所詮、建前にしか過ぎない。キュスターが嫌いだというのは事実だったからな」
「だとしても腑に落ちねえ。俺は結果としてここまで登って来たけどよ。8歳の餓鬼が、迷宮を生きて来れる訳ねえだろ。普通は。なんでそんな確実性のねえ事したんだ?」
男は再び沈黙した。
それから、座っていた椅子から立ち上がり背後の窓へ身を寄せる。窓からは光が差し込んでいる。男は何を見ているのだろうか。
「確実性……か。違うな。私は君がここまで来る事を、そしてキュスターを打倒する事を知っていた」
「そりゃあ、またなんで」
「私が――『先見の魔人』アスファロストだからだ」
「アスファロスト……それが、魔人としてのてめえの名前って事か」
人間としての名前は、アスファロスト・レーゼン。ノブリス騎士団の団長――。
「私は少し未来を見る事が出来るのさ。君は必ずここまで来る。そして、キュスターを打倒する未来を、私は見た」
「だからってか……」
「ああ、そうだ。だから、私は君を煽った」
そうすれば、俺が迷宮を攻略しながら登って来るから――。俺は溜息を吐く。
「全部、てめえの手の平の上だったってのへ……ちと面白くねえな」
「いいや、それは違うな。私の未来視もそこまで便利では無い。私が見えた未来は、君がキュスターを倒す所さ」
「……まあ、そういう事にしておくわ」
「そうしてくれ」
一応、それで納得しておく。
そこで一度、会話が途切れた。
「…………ふむ。まだ、君は私に聞きたい事があるのだろうな」
「まあな。こうして普通に魔人が人間の生活圏に居るってのも気になる……だが、まああれだな。今日の所は、聞きたい事は全部聞いたしな。また、必要になった時にでも来るわ」
「あまり……忙しい時には来ないで貰いたいのだが」
「おいおい? 俺は天下の勇者様だぜ? 今じゃてめえより偉いんだ。仕事より、俺を優先させてもらうぜ?」
ニヤニヤと言ってやると、アスファロストが苦笑した。
「まあ……程々に頼む」
「考えとくわ」
俺はアスファロストに背を向け、手をヒラヒラさせながら言った。そして、彼の執務室から立ち去った。
満身創痍なので今回少なめです……。
あ、ブックマーク、ポイント評価を頂けると……疲労が回復するかもしれません。




