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三十五話 結成

20



 俺は正装の袖に腕を通す。

 首元が妙に落ち着かず、襟に指を引っ掛けながらぼやく。


「こういう服は、俺には合わねえよな……」

「はっはっはっ! 豚に真珠だな!」

「……褒め言葉ありがとよ」


 ラッセルの皮肉に渋面で返す。

 そんなラッセルも俺と同じ正装を身に纏っていた。

 俺は黒を基調とした色合いで、金色の模様で彩られている。対してラッセルは白色を基調としており、プラチナブロンドの髪に良く映えていた。


「てめえは良く似合ってるのな」

「そうか? 俺もこういった服はあまり着ないのでな。似合うかどうか不安だったのだが」


 俺はそう言ったラッセルを尻目に天井を仰いだ。

 俺達が居るのは第100階層にある認定の間という所だ。

 10万のモンスターを退け、上級悪魔含め……魔人の討伐という功績を称えられた俺とラッセルは、第100階層へ招かれた。そこで、俺とラッセルは勇者として認められる事となるそうだ。

 そういう理由で、あの戦いから数日経った今日――認定の間へ足を運んでいた。

 特に、勇者に興味は無かったが――勇者になれば便利――というエレシュリーゼの言葉に乗っかり、勇者になる事にした。

 俺は対して深く考えなかったが、ラッセルはまた違った目的を持って勇者になるそうだ。


『俺の正義を貫く為に、力は手に入れた。しかし、俺には財力と権力が足りない事に気付いたのだ! 勇者になって権力と財力を得る! はっはっはっ!』


 ラッセルにはラッセルの道がある。俺は深く聞かなかった。

 暫く認定の間の前で待っていると、


「あら……お二人ともお早いですわね」

「はわわ……わ、私変じゃないよね……?」

「…………」


 認定の間に続く赤いカーペットの敷かれた廊下を、3人の美女が歩いてきた。

 紅蓮の髪に合わせた赤いドレスを着たエレシュリーゼ。その隣で自身の青いドレスを気にしているのはモニカ。そして、2人の背後で恥ずかしそうにしているのは――こちらも金髪の髪に合わせた金色のドレスを纏ったレシアだった。

 俺は思わずあんぐりと口を開けた。


「おおっ! 3人共綺麗ですな! はっはっはっ!」

「ありがとうございますわ。ラッセルさんも似合っていらっしゃいますわ」

「は、はい……。私もそう思います……!」

「それは嬉しいですな! ……ぬ? どうかしたか? オルト」

「……はっ」


 おっと……いかんいかん。レシアが可愛過ぎて意識が飛んでいた。

 俺は改めてレシアに目を向ける。


「…………」

「…………」


 レシアとはあの戦い以降、会えていなかった。

 戦闘終了後、妙に気恥ずかしくて声を掛けらなかったのもあるが……俺もレシアも事後処理に追い回されていた所為で、ゆっくりと話す時間が取れなかった。

 暫く俺とレシアは目を合わせる。沈黙を破ったのは……レシアの咳払いからだった。


「んんっ……おりゅと…………。こ、こほん……オルト。何か用ですか?」

「え……あ、いや……別に」

「そうですか……」


 場に妙な空気が流れる。

 モニカが首を傾げ、エレシュリーゼが面白くなさそうに腕を組む。ラッセルは俺を嘲笑う様にやれやれと両手を挙げた。


「男が廃るな!」

「……うるせえ」


 その後、準備が整ったとの事で、俺達5人は認定の間へと通される。

 代々、勇者の認定が行われているというそこは厳かな雰囲気に包まれていた。巨大なホールに何人もの貴族達が立ち並び、国王が奥に控えている。

 その国王の近くには、セインやダルマメット、オスコットが控えていた。


「良く来たな。そなたら5人の活躍……しかと見ていた」


 そういえば、国王。影が薄かったが、あの時選抜戦を見に来ていたのだった。

 俺達は国王の前で膝を付く。

 それから長々とした国王の話が続いた後、勇者の認定が始まる――。


「まず……モニカ」

「は、はい!」


 国王に名前を呼ばれたモニカが、声をかけて上擦らせながら返事をする。


「そなたは、此度の件で多くの者をその圧倒的な治癒術で救った。そなたに救われた命は数知れず、勇者3人の承認により、そなたを勇者と認定する」

「あ、ありがたき幸せにございます!」

「うむ……。戦って救える命は、確かにある。しかし、そなたの様に戦では救えない命を救える者は、必ず必要となるであろう……。そなたには、『治癒の勇者』の名を授ける」

「はい!」


 モニカは国王から首飾りを掛けられる。

 因みに、後で聞いた話だが……。人類連合軍が前線を押していた一因がモニカだったそうだ。

 負傷しても負傷しても、モニカの回復魔法によって一瞬で傷の癒えた兵士達が、直ぐ様前線に復帰していたのだという。

 負傷者の救護をしていた回復魔法師も、思わず舌を巻くレベルの回復力であり、それが勇者として認められた実力だという。

 続いて呼ばれたのはレシアだった。


「レシア・アルテーゼ……いや、レシア。そなたは、ベヒーモス討伐の功績に加え、国王である私の承認により、勇者として認める」

「……はい」


 レシアは一瞬、俺に目配せする。

 俺は目を逸らした。


「そなたには……『黄金の勇者』の名を授ける」

「身に余る光栄にございます」


 レシアも首に首飾りを掛けられる。

 あの戦い――キュスターが魔人であった事は、既に周知となっている。それに関して、レシアに多くの嫌疑がかけられたりもしたが――その全てをエレシュリーゼが一蹴してくれた。

 そもそも、現勇者達が手こずっていたベヒーモスを討伐した功績もあり、レシアにかけられた嫌疑の殆どは直ぐに晴れた。

 そして、キュスターとの戦いに関しては――おれとレシアしか知らない。

 レシアの表情から少し複雑そうな想いは汲み取れたが、彼女はまた目標へと一歩近付いた。その事を俺は嬉しく思う。

 次に呼ばれたのはラッセルだ。


「そなたは魔人討伐に加え、モンスターの大群を討伐した。そなたの要望を聞き、そなたには『正義の勇者』を授けよう」

「はっ! ありがたき幸せ!」


 ラッセルも首飾りを掛けられる。

 そういえば、こうして複数人が一度に勇者認定される事は――今回が初めての事だそうだ。史上初という訳だ。


「最後に……オルト」

「はい」


 名前を呼ばれ、俺は面を上げる。


「そなたも魔人の討伐、並びにモンスターの大群の討伐をした。選抜戦で見せた冴え渡る剣技……実に見事であった。それを称え、そなたには『剣聖の勇者』を授ける」

「身に余る光栄。ありがたく頂戴致します」


 俺にも国王から首飾りが掛けられる。


「さて、『紅蓮の勇者』エレシュリーゼ・フレアムよ。そなたを筆頭に、本日より5人でパーティーを組むのだ。未開拓領域での、より一層の活躍を期待している!」

「畏まりました……」


 エレシュリーゼが頭を垂れ、式典は終わった。

 その後、盛大なパーティーが執り行われた。

 俺やラッセルは、パーティーで騒がれる様な柄でもなかった為、軽く挨拶を済ませると、直ぐに席を外した。

 俺達は息苦しい襟を緩め、パーティーが行われている城の屋根上で並び座る。

 天井の太陽はエネルギーを失い、仄かに光っている。月明かり――。


「しっかし、俺とてめえが勇者なんてな」

「はっはっはっ! 俺としては、ある意味では丁度良かったのかも知れない。憲兵では、本当に守りたいものは守れなかったからな」

「ああ、そういえば……そっちの仕事はどうすんだよ」

「勿論、辞めるさ! これからは勇者として未開拓領域の調査を行い、成果を上げる! そうすれば、平民の俺でも爵位が与えられる。そしたら、俺は自分の領地を得たいと思っているのだ!」

「領地?」

「うむ。上も下もない。正しい法に守られた、正しい街! 俺が目指す正義を形にしたいのだ!」

「へえ……」


 ラッセルらしいと思った。




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