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三十二話 ロード・ジャスティス

 ラッセルに殴り飛ばされたグローテは、屋敷の屋根を突き破って吹き飛ぶ。そのまま地面に向かって放物線を描くが、激突する直前で受け身を取って立ち上がる。

 ラッセルはグローテを逃さず、追撃にもう一発……その顔に拳を打ち込む。


「でりゃあああ!!」

「ホーホホーっ!?」


 再び直撃――。

 グローテの上体が大きく仰け反りながら地面を滑る。

 付近に生えていた木々が衝撃で薙ぎ倒される。

 グローテは暫くして停止し、体幹を屈曲させた。


「ほ……ホーホホーホーホホーホーホホー……。人間にしては、良いパンチ……デス。結構、効いたデスぞ?」


 グローテは口の端から垂れた血を拭う。

 これにラッセルは思わず驚いてしまう。自分のパンチを受けて、普通に立っている相手は数少ない。そういう自信があった。

 グローテも全くダメージが無い訳ではない様だが……しかし、やはり魔人。油断ならない相手だと、ラッセルは目を細めた。


「ホーホホー……今度は、ワタシから行くデス! ホーホホー!!」

「『アーマメント』!」


 グローテはラッセルを真似る様に、ラッセルの顔面に右から拳を振るう。ラッセルが顔を硬化させた後、直ぐ様グローテの拳が直撃。

 体が浮かぬ様に、足の裏で地面にしがみ付いていたラッセルの体が――大きく跳ね上がる。しがみ付いていた地面も一緒に捲れ上がりながら、ラッセルは後方に吹き飛ばされる。


「ホーホホー!」

「っ!」


 グローテの追撃――宙を飛ぶラッセルの上から両手を合わせて振り下ろす。ラッセルは身を攀じる事でそれを避け、カウンターに硬化させた右下腿で、グローテの左側頭部を叩く。

 グローテは斜め下に吹き飛び、地面に激突――爆発が起こり、土埃が遥か上空まで上る。

 その間に着地し、体勢を立て直すラッセル。


「厄介な相手であるな……魔人!」

「それはお互い様デスぞ。人間。ホーホホー!」


 土埃から飛び出したグローテは、背中から羽を伸ばし、宙を浮いてラッセルと相対する。


「魔人であるワタシと互角に渡り合う身体能力……。反射速度も、人間ではないデスな? 一体、何者デス? 神器使いでもない様デスし、勇者でも無いデス?」

「その通り。俺は神器使いでも、勇者でもない! 俺は……ただの憲兵だ!」

「ホーホホー? 憲兵? 単なる治安部隊の童が、ワタシと互角デス? 面白くない冗談デスぞ?」

「いや、嘘ではない」

「飽くまでも本当の事は言わないと……なら、アナタを倒して吐かせるとするデス! ホーホホー!」


 まさかグローテも、本当にラッセルがただの憲兵であるなどと思っていない様で……馬鹿にされたと勘違いし、額に青筋を立てている。

 ラッセルとしては、本当の事を言っているだけなのだが……。


「『悪魔の爪』!」

「ぬ」


 グローテは宙で爪を伸ばす。伸びた爪は、鋭く尖り、舞う木の葉がスルリと切断された。グローテは滑空しながらラッセルとの距離を詰める。

 ラッセルは剣に手を置き、グローテの爪が振り下ろされたと同時に鞘から抜き放つ。

 刹那――グローテとラッセルの爪と剣が衝突。衝撃波で周囲100メートルが吹き飛び、地形が変形する。


「ホーホホー!?」

「ぐぐぐっ!?」


 互いにパワーは互角……スピードと力に差が無い事に、2人とも驚く。


「魔人であるワタシとここまで張り合うとは驚きデス!」

「こっちはライバルのお墨付きだったのだがな!」


 暫く鍔迫り合いの様な状態が続き、最初に動いたのラッセルだった。

 ラッセルはグローテの力が向いているベクトルを、自身の身体技術で逸らす。グローテの体が大きく前のめりに崩れ、その隙を逃さず剣を横薙ぎに振るう。

 グローテは羽ばたかせ上へ逃げる。グローテの顎先をラッセルの刃が通り過ぎる。

 返す剣で、ラッセルは再度グローテを狙う。少し分が悪いと悟ったか、グローテは再び羽ばたかせて宙へ逃げてラッセルの追撃を回避する。

 一瞬の立ち合い――。


「ホーホホー……。避けても直ぐに攻撃が来るから、疲れるデスな。アナタ、人間にしておくには惜しいくらい強いデスな」

「はっはっはっ! …………魔人に褒められても嬉しくはないな」

「ホーホホー! 傷付くデス!」


 などと、グローテは態とらしく肩を竦める。

 ふと……グローテはニタリと笑った。


「ホーホホー。ホーホホー。茶番は……もう終わりにするデス」

「何……?」


 ラッセルは不気味な気配を感じ、身構える。

 それを嘲笑うが如く、グローテは口を開く。


「『ペインジェネレイト』!」

「ぬおおおっ!?」


 グローテが叫ぶのに合わせて、ラッセルの体に耐え難い"苦痛"が降り注ぐ。なんの前触れもなく、ラッセルの体が引き裂かれんばかりの激痛を帯びる。


「ホーホホー! 『ペインジェネレイト』を受けて、意識を保っていられるとは……普通の精神ではないデスな!」

「き、貴様……何をした……」


 尋常ならざる激痛に、ラッセルは膝をついて聞く。

 グローテは嗤う。


「アナタ、魔人の事をあまり知らないのデスな? ホーホホー! いいデス。教えるデスよ。これは、ワタシの能力デス! ワタシは――『苦痛の魔人』グローテ! 今まで、他者に与えた苦痛を、対象に与える事が出来るのデス!」

「『苦痛の魔人』……能力だと?」


 ラッセルが地下で見た惨劇――つまりは、あの場にいた人々が感じた苦痛の全てをラッセルの身に与えたという事だろう。

 腹を割かれ、臓物を引き摺り出され、頭をかち割られ、生きたまま脳を啜られ――拷問という拷問の苦痛を、一瞬に凝縮し、防ぐ間も無く与えられたのだ。

 ラッセルはもはや、意識を保っていられるのがやっとだった。


「ホーホホー! さあさあ、先程までの威勢はどうしたのデス! ホーホホーホーホホーホーホホー!!」

「これ……は、貴様が今まで苦しめて来た人達の痛み……という事か。貴様はっ……今まで、こんなに沢山の苦痛を、与えて来たという……事かっ!」


 ラッセルは定まらない視界でグローテを捉える。

 グローテは余裕な笑みを浮かべ、


「ホーホホー! だから、どうしたというのデス? アナタに何が出来るのデス?」

「お、れの正義に賭けて……貴様は許さん!」


 ラッセルは自らを奮い立たせ、グローテに剣を向ける。


「その体で良くもまあ……人間とはいえ、感心デス! しかし……癪に触るデスな!」


 グローテは一気に勝負を決め様と、ラッセルとの距離を詰める。そして、両手の爪でラッセルを上下左右から引っ掻く……!

 ラッセルは見えない目を捨て、気配のみを頼りにグローテの猛攻を剣で弾く。


「ホーホホー!」

「とおりゃあああ!!」


 ラッセルとグローテの攻撃がぶつかり、衝撃波を撒き散らしながら互いの腕が上方に弾け飛ぶ。

 2人は直ぐに腕を引き戻し、己の武器を振るう。

 圧倒的にグローテが有利な状況――だが、


「ば、馬鹿な! これだけの手数……目も真面に見えていない筈なのに防いでいるデス!?」

「…………おりゃあああ!!」

「ホーホホー!?」


 ラッセルは一瞬の隙を突き、グローテの腹部を剣で突く。魔力の塊である魔人の皮膚を貫く事は出来なかったが、ラッセルの剣は斬れずとも、パワーだけで大地を割る。その直撃を受けたグローテは、腹部を抑えて蹲り、悶絶する。


「ぐおお……デス! こんな……し、死に損ないにワタシがっ……!」

「はあ……はあ…今のは俺が受けた痛みの分だ……。そして、これは……貴様が今まで苦しめて来た人々の分だ……! 征くぞ! 『正義執行』!」


 ラッセルを中心に大気が震え出し、グローテはその場から身動きが出来なくなる。


「なっ……か、体が動かないデス!?」

「貴様の行いは……俺の正義にとって邪道だ! そして、正義こそ! 我が王道! 我が正道!」


 ラッセルは剣を上段に構える。

 ラッセルの剣に大気が纏わりつく様に集まっていく――。


「な、何をするつもりデス!?」

「これが、今まで貴様が苦しめて来た人々の分だああああ!! 喰らえ! 『ロード・ジャスティス』!」


 ラッセルが剣を振り下ろすと、剣に集まっていた膨大なエネルギーが白い巨大な光線となって発射――振り下ろした直線上の全てが消滅。グローテもその存在そのものが消滅する。

 直線距離数キロの大地が、そこだけ何かに抉り取られたかの様に消え去った。残ったのは、地面が焼け焦げる臭いと熱のみ……。

 ラッセルは大の字に寝転がり、呼吸を荒くさせている。


「ぜえ……ぜえ……。これだけ辛い戦いは、オルト以来だった! ぜえ……ぜえ……はっはっはっ! オルトには負けたが、魔人には勝てた! はっはっはっ! はっはっはっ! ごほっ!?」


 流石に、ダメージを受け過ぎたラッセルは笑い過ぎて血を吐いた。

 とはいえ、直接的なダメージは殆ど受けていない為、外傷は無かった。『ペインジェネレイト』……ほぼ無条件に与えられた莫大な苦痛。チート過ぎる能力だった。


「気を付けろ……オルト。どうやら、魔人は……思っていたよりもやるぞおお! ごほっ!?」


 オルトに聞こえる様に、大声で叫んだラッセルは……やはり、口から血を吐いた。





沢山の感想ありがとうございます!

ちょっと、返し切れなくなって来てしまったので……あまり返信出来ず申し訳ありません!(汗

しかし、感想はしっかりと見させていただいておりますので、今後ともよろしくお願いします!


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