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三話 正義、現る

4



 上層を目指して、迷宮の上へ上へと登る俺はモンスターと対峙していた。


「ったく……次から次へと。しかも、上に行く毎に強くなりやがって」


 モンスター達は階を追う毎に強さを増していた。この第89階層のモンスター達は、そういう意味で今まで戦ってきたモンスター達よりも強い。

 俺が対峙していたのは、巨大な体躯で二本の脚で立つ牛の様なモンスターだ。


『モー!』

「おっと」


 牛モンスターは突進を繰り出す。頭から生えている角に当たったら痛そうだ、

 俺は横っ跳びに突進を避け、すれ違い様に牛モンスターの腹部を裂く。


『モー!?』

「ふう……」


 牛モンスターはそれで倒れ、俺は剣を肩に担ぐ。

 一度、一息入れようかと考えた所で声が聞こえた。


「オルトー! ここにいるんだろー!? 出て来い!」

「んあ?」


 声のした方向へ目を向けると、誰かが下から登って来ているのが見えた。俺は溜息を吐く。


「はあ……ラッセルだな。ありゃあ」


 登って来ていたのは、俺が知っている人物だった。ラッセルという名の男は、「うおおおお!!」と叫びながら、俺の立つ回廊まで走って来た。


「ぜえぜえ……やっと追い付いたぞ! オルト!」


 息を切らして現れたのは、単純な皮鎧を身に付けた俺と同じくらい若い男だった。プラチナブロンドのサラサラな髪をした、如何にも真面目そうな面構えをした美男子である。


「毎度懲りねえ奴だな。こんな所までご苦労な事で」

「当たり前だ! 俺は正義を遂行する為に、憲兵となったのだ! 貴様の様な犯罪者を逃す筈がないであろう!」

「犯罪者ねえ……」


 自覚は無かったが、どうやらそうらしい。


「お前と会ったのって、第50階層だったけか?」

「違う! 第52階層だ! そこで、不法階層移動をしていた貴様に会ったのだ!」

「不法階層移動ねえ……」

「そうだ! 本来、階層の移動は正式な手続きを経て、通行証を提示し、ゲートを通る! 迷宮やその他の移動手段は、法律で禁じられている!」


 そう、それを理由に熱心な憲兵であるラッセルは第52階層からずっと俺を追いかけ回している。


「さあ! ここで会ったが100年目! 今日こそ貴様を取っ捕まえて、法の裁きを受けさせてやる!」

「面倒くせえ……」


 とは言ったものの、実はラッセルの事を気に入っている。こういう愚直で真面目な人間は、嫌いじゃあない。

 それに、ラッセルは口だけの男じゃない。


「行くぞ! オルト! せいやあ!!」

「っと……!」


 ラッセルは宣言した後に、馬鹿正直に真正面から剣を抜いて間合いを詰める。ラッセルは腰から抜いた剣を、そのまま居合いの様な形で振るう。

 読み易い、単純な攻撃……。故に、防御は容易かったが……しかし、そのパワーは尋常ではない。


「ちっ……相変わらず、速えし重いな」

「はっはっはっ! 正義を貫く為には、力が必要だった……。正義は口だけで語れるものじゃあないからな!」

「本当に、てめえとは気が合いそうだぜ……!」

「ぬお!?」


 俺は受け止めたラッセルの剣を、己の剣で弾き、ラッセルの急所に剣を突き刺す。その攻撃を紙一重で、ラッセルの剣が弾く。そして、同時に剣を上から振るうと、刃が衝突して鍔迫り合いになる。


「ぐうっ……犯罪者の癖に良くやる。どうして、その力を正しい事に使わないのだ!」

「こちとら事情があってね。悪いが、正義なんて崇高なもんの為に使うつもりは……ねえ!」

「うぎゃ!?」


 俺は無理矢理ラッセルを押し返し、ラッセルの腹に蹴りを入れる。

 瞬間、俺の膂力によって生じた衝撃波が迷宮を震わせ、ラッセルは遥か前方へ吹き飛び、迷宮の壁に衝突した。


「もう、俺の目的地は直ぐ目の前なんでね。そろそろ、てめえとの決着を付けさせてもらうぜ」

「ぐう……さすが、オルト。犯罪者ながら我がライバルと認めただけはある……。はっはっはっ! 今のは効いたぞ!」


 いつから俺はお前のライバルになったんだよ……。


「はっはっはっ! さあ、行くぞ!」


 ラッセルは壁に減り込んでいたが、何事もなかったかの様子で壁から飛び出してくる。ラッセルの剣先が煌めき、一瞬にして俺と肉迫する距離へ……!


「はあ!」

「そいやああ!!」


 俺とラッセルは再び剣を交える。その度に、迷宮全体が揺れる程の衝撃が生まれ、俺達の立つ回廊にヒビが入る。

 俺は剣を交えつつ、ラッセルに言った。


「確かにてめえは強い。けど、悪いが俺の方が強い」

「なんだと!?」


 憤慨したラッセルだったが、しかし、これは本当の事だ。


「だから……少し本気を出すぞ!」


 俺はラッセルにそう宣言する。

 俺とラッセルは刃を再び交える、そのタイミングで、ラッセルの剣を強く弾く。ラッセルの剣は、腕ごと大きく上方に跳ね上がる。だが、強靭な体幹を持つラッセルは、直ぐに剣を振り下ろそうとする。


「おりゃああ!」

「よっと」


 俺はバック回転してラッセルと距離を置く。そして、少しだけ力を込めて剣を回廊の床面に向かって振るう。


 スパンッ


 剣を振るった延長線上が綺麗に切断され、橋の様になっていた回廊が半ばから崩れ落ちる。


「なっ……あ、足場が!?」


 それでラッセルの足場が崩れ出す。


「悪いなラッセル。俺は先に行ってる。まあ、生きてたら上でまた会おうぜ」

「お、オルトおおおおお!! ぎゃああああああ!!」


 ラッセルの足場は完全に崩れ落ち、迷宮の下へと落ちて行った。その間、ラッセルの断末魔が延々と木霊していた。


「まあ、この程度死ぬ奴じゃあねえからな……」


 色々な所でラッセルと戦ったが、雪雪崩に遭っても、海で溺れそうになっても、溶岩の煮えたぎる火山の中でも、ピンピンとしている様な奴だ。

 高い所から落ちた所で問題ないだろう。その証拠に――。


『オルトおおおおお! 覚えておけえええ! 次は絶対に捕まえてやるからなああああ!!』

「いやあ……本当にしぶといなあ。あいつは」


 俺は苦笑を浮かべつつ、ラッセルが第90階層に上がる前に、さっさと上を目指す事にした。


 と、それから暫く。上を目指してモンスターを斬り伏せて進んでいた俺は、遂に第90階層へと続く階段に辿り着く――。






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