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二十七話 VS上級悪魔

 エレシュリーゼとレシアは幾度と無く、眼前に突き出された光景を疑う。しかし、何度見てもモンスターは全て倒されていた。

 4万というモンスターの大軍勢が、たったの10分足らずで駆逐された。そして、それを成したのは……客観的に見て、死骸の山に立つラッセルで間違い無いだろう。

 エレシュリーゼは外壁上で監視していた兵士を見つける。

 兵士は外壁下で起きた出来事を見ていた様で、腰を抜かして震えていた。


「お怪我はありませんこと……?」


 エレシュリーゼが声を掛けると、初めて存在に気付いたかの様に、兵士は身を強張らせる。


「あ、なたは……フレアム公爵令嬢様!? し、失礼致しました……その、計測器が故障していたのか、モンスターの大群に気が付かず……」

「それは……いえ、それよりも一体、何があったんですの?」

「それが……」


 兵士の話によると……。

 モンスターの大群が接近している事を報せた後、ベヒーモスを中心に、モンスター達が物凄い勢いで侵攻して来ていたのだという。

 現場に、エレシュリーゼやレシアが到着していた頃には……街にモンスター達が入り込んでいた可能性があった。

 しかし、どういう訳か、モンスター達は何かに怯えた様子で、踵を返し始めたのだという。そこへタイミングを見計らったかの様に、ラッセルが現れ――。


「あの男が……その……一振りで大群の殆どを倒し……たのです」

「一振り……」


 俄かには信じられない事だった。

 レシアは遠目から、死骸の山に立っているのがラッセルである事を確認する。


「あれは……ラッセルさん……?」


 ぽつりと呟くレシアに、エレシュリーゼが反応を示す。


「ラッセルさん……? 彼を知っていますの?」

「は、はい……同じ養成学校の学生です。成績優秀で人当たりも良く……1年生の間では有名です」

「あれ程の実力者が……」


 何故、選抜戦に出場しなかったのか。

 エレシュリーゼもレシアも、ラッセルが今まで無名である意味が全く分からなかった。

 もっと名前が知り渡っていても良い筈だが、ラッセルの名はあまり知られていない。


「何者なのでしょうか……」

「…………」


 2人とも戦慄し、驚きを隠せなかった。

 エレシュリーゼは頭を振ると、外壁上から降りる。レシアもそれに続いて降り、ラッセルの元へ向かう。

 ラッセルは近付いて来る2人に気付き、目だけを向けた。


「む? フレアム公爵令嬢様と……アルテーゼ侯爵夫人……」

「ふ、夫人はやめて下さい……」


 レシアは苦虫を噛み潰した顔で抗議する。ラッセルはきょとんとした顔で首を傾げたが、直ぐに頷いた。


「分かった……いや、分かりました! はっはっはっ! それで、お二人とも如何したのですか?」


 この死骸の山に似つかわしくない笑い声に、エレシュリーゼもレシアも調子を狂わされる。

 エレシュリーゼは気を保つ為に、咳払いする。


「んんっ……1つお尋ねしたいのですが、このモンスター達はあなたが……?」

「倒したという事でしたら、俺が倒しましたとも!」


 ラッセルは胸を張って答える。

 エレシュリーゼは「そ、そうですの……」と戸惑いを隠せていない。

 ふと、ラッセルは瞬く。


「…………少し厄介な相手の様だ」

「え……? 今、何か仰いまして?」

「あーいえいえ、こちらの話です! それより、ここは少し危ないので、下がっていた方がいいかと!」

「それは……どういう意味ですか?」


 レシアが尋ねると、ラッセルは人当たりの良い笑みを浮かべて答える。


「あいつ、加減を知らないので! はっはっはっ!」


 ラッセルが口にした瞬間――直ぐ近くを何かが高速で通り過ぎ、白亜の外壁に衝突。外壁に巨大なクレーターとヒビが生まれ、土埃が舞う。


「なっ……何事ですの!?」

「今のは……」


 エレシュリーゼとレシアは同時に外壁へ目を向ける。

 徐々に晴れていく土埃の中から、黒い影がゆらりと蠢く。

 その姿が露わになると、2人は息を呑んだ。

 黒い肌、蝙蝠が如き禍々しい翼と湾曲した角――間違いない。


「あれは……悪魔!」

「何故悪魔がここに飛んで……!?」


 戦慄する2人を他所に、ラッセルは腕を組んで吹っ飛んできた悪魔を見据える。


「ううむ……上級悪魔か。オルトにしては、随分と時間が掛かっていると思えば、そういう事か。なるほど……なるほど……」


 などと、ラッセルが頷いていると空から人が落ちてきた。

 誰かと思えば、オルトだった。

 オルトが着地した地面は衝撃でクレーターができる。どれだけ高い所から落ちてきたのだろうか。


「おい、オルト……5万のモンスターはどうしたのだ!」

「んあ? ああ、誰かと思えばラッセルかよ……。んなもん、とっくに片付けた」

「なら良い! それより、あれが首謀者なのか?」

「ああ、ありゃあ上級悪魔だ」

「見れば分かる」


 オルトは肩に刀を担ぎ、地面に跪く悪魔を見据える。

 上級悪魔――人類の敵対者とされる魔族は、幾らかに分類されている。

 下から、下級悪魔、上級悪魔、魔人とされている。

 下級悪魔でも高い戦闘力と知能を持っており、勇者1人と互角とされる。上級悪魔は勇者数十人分と言われている。魔人クラスになると、現状対抗手段が無い。

 上級悪魔――ガルメラは、地面に膝を付き、息も絶え絶えとしていた。


「くっ……に、人間如きに、この我が……!」


 オルトは、ガルメラが率いていた10万のモンスターを……その内の半数を一瞬で葬り去った。

 ガルメラは直ぐに、オルトが探していた深淵大地を作り出した通称――ブラックだと確信した。


『貴様……一瞬で5万を……。一体、何者だ?』

『んあ? 俺か? 俺は、ただの……あれだ。通りすがりの剣士さ』


 勇者でもなんでもない、ただの剣士……そんな訳は無かったが……。しかし、人間如きに負ける訳がないと、ガルメラは高を括っていた。

 塔の世界エルダーツリーは、高い階層で生まれると、高い魔力量を持った生物が生まれる。故に、高い階層のモンスターは強く、人間もまた強力な個体が生まれる。

 魔族も例外ではない。

 ガルメラが生まれたのは、ここよりも遥かに上の階層……未開拓領域第500階層だ。魔力量だけで言えば、魔人クラスの怪物だった。

 だから、ガルメラは不思議でならなかった。

 今、こうして自分が下等生物と思っていた人間の……しかも、勇者でもなんでもない人間を相手に、膝をついている事が――!


「舐めるなよ……人間!」

「んあ?」


 ガルメラは体内の魔力を一気に放出させる。

 それだけで大気が震える。それ程の魔力量を持っていた。


「『エレメンタルアスペクト』!」


 ガルメラは自身の体を雷へと変質させる。

 オルトが選抜戦で戦ったクロスよりも、遥かに高レベルで高出力な雷属性の流動化――。

 周囲に走る電撃のエネルギーだけで地面が割れ、膨大な熱量により、岩が融解する。


「オオオオオッ!!」


 ガルメラは咆哮しながら、決して人間では反応できない速度でオルトとの間合いを詰める。

 稲妻が走り、オルトの眼前には拳を握るガルメラが現れる。電撃を纏った上、雷速で振り抜かせるガルメラの拳は、簡単に山一つを吹き飛ばせるパワーを持つ。

 ガルメラは勝利を確信した――だが、


「があああっ!?」


 気付いた時には、ガルメラは天を仰ぎ見ていた。

 四肢は別たれ、宙を舞っていた。




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