二十三話 開戦の予感
ダルマメットは難しい表情を浮かべ、重い口を開く。
「ううむ……まあ、今すぐにというのも気が急いた。また後日、改めて尋ねる事にする」
「なんど来ても、変わらねえと思うけどな」
「しかし、貴殿の力があれば、未開拓領域の調査が今よりもずっと早く行われる。我輩としては、貴殿に勇者として力を振るって貰いたいのだ」
俺は肩を竦める事で、返答の代わりとする。
ダルマメットは苦笑し、オスコットは顔を顰めた。2人は踵を返し、残ったセインは少しだけ俺との距離を詰める。
「ねえ、今度お茶しようよ! オルトの事、結構気に入った!」
「へえ……俺の溢れんばかりの魅力に惹かれちまったようだなあ……ふっ」
「あはは! 面白い事言うね〜。それじゃあ、またねー!」
言って、セインも手を振りながら2人の後を追う。
俺は腰に手を当てて苦笑した。
「いやあ、モテる男は辛いぜえ……」
完全にナルシスト。だが、これで良い。俺は自分の事がかなり好きだから。
やれやれと、格好を付けて首を横に振る。と、俺は妙な気配を感じ、天を仰ぐ。
「……? 上からすげえ量の、モンスターの気配が……」
こっちに向かって来ている……?
速度から考えて、明日の朝方には第90階層まで降りて来るだろう。モンスター達は全て、第90階層より上の階層からやって来ている。かなり強いモンスター達で、数は10万程だろうか。
「…………」
俺は1人、迎撃に向かおうかと考えたが……放置する事にした。
「これ程の大群ってなると、どっかの馬鹿たれが指揮取ってんだろうな」
早くから対応してしまっては、敵も警戒して姿を現さないかもしれない。なら、ここで迎撃した方が早いだろう。
そう判断し、俺は養成学校の寮に戻ろうと足を進める。すると、道中で壁に背を預けて立つラッセルに遭遇した。
「おい、オルト。上からモンスターの大群が迫ってるが、どうするつもりなのだ?」
「……俺はとりあえず放っておくつもりだけど、てめえは?」
「貴様と同じだ。なら、特に意思疎通も必要は無さそうだな……。他の連中は特に気付いていない様だが、そこはどうする?」
「言っても信じねえ……ああ、いや、1人だけ便利な奴がいたっけか」
俺はエレシュリーゼの顔を思い浮かべる。
エレシュリーゼなら俺の事を信じてくれるかもしれない。
しかし……。
「まあ、報せる必要はねえわな」
「そうだな。それで敵が警戒して出て来なければ意味が無い……とはいえ、万が一にでも街に被害があれば、一緒に自首するぞ」
「いやだなあ……」
何が悲しくてラッセルと自首なんてしないといけないのか。
俺は肩を竦める。
「まあ、あれだ。俺が5万片付けて、てめえが5万片付けりゃあ問題ねえだろ。多分。知らんけど」
「適当過ぎるだろう……。しかし、それが確実ではある」
ラッセルは言いながら頷く。
「明日の朝方……か。丁度、決勝と被りそうだ」
「そうだなあ。まあ、対戦相手が予想外の小物だったんでな。別に不戦敗でも構いやしねえ」
「そうか」
ラッセルは満足げに頷く。それから、数秒の沈黙を挟む。
「……俺は、貴様なら迷わず10万のモンスター達と戦うと思っていたぞ。前にも言ったが、貴様は悪い奴ではない」
「そりゃあ嬉しい評価だな」
「ああ、人々の為に力を振るうのなら、どうして勇者になる事を拒むのだ?」
ラッセルの問いに、俺は押し黙る。
「……なあ、ラッセル。てめえは俺が、他人の為に剣を振る様な善人に見えんのか?」
「……まあ、貴様がそう言うなら、そう言う事にしておく。はっはっはっ! それより、惚れた女とは、どうなっているのだ?」
「急に話が変わりやがるな……。まあ、特に進展はねえよ」
げんなりとした顔で言うと、「情けない奴だな!」とラッセルがいつも通り鬱陶しい笑い声を上げた。
俺はイラッとして、ラッセルの脇腹をど突いた。
それから翌日、寮で目を覚ました俺は1人……階層都市フェルゼンを後にした。
12
翌日。
勇者選抜戦本戦の第1回戦が朝方始まった。
オルトVSバルサの試合――特にオルトの噂を聞き付けた観客達が会場を埋め尽くしていた。
既に対戦相手であるバルサは、肩を震わせてオルトを待っていた。
そして、試合の開始時間になったが……幾ら待ってもオルトが会場に現れる事は無かった。
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