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二十二話 最強剣士、勧誘される

「おい、貴様……最下層の下民が。なんだ、その態度は?」


 『旋風の勇者』は鋭い視線を向けて来る。

 それを諌める様に、『剛拳の勇者』が口を挟む。


「ちょっと、オスコット……そんな態度しちゃダメだよー?」

「お前は黙っていろ平民。俺はな、自分よりも下の人間が偉そうにしているのが気に食わんのだ。立場を弁えろ。下民」


 『旋風の勇者』――オスコットは、俺を見下した目で見る。

 なるほど。

 俺は薄く笑みを浮かべる。


「奇遇だなあ。俺も、そういう輩は好きじゃあねえな。だが、態度を改めるつもりはねえよ」


 オスコットは思いっきり顔を顰め、不快感を隠そうとしない。対して俺は、浮かべた笑みを絶やさない。

 俺とオスコットの睨み合いに、『鉄壁の勇者』が割って入る。


「落ち着くのだ2人とも……。オスコットよ。我らは、この者と争いに来た訳ではない筈だ」

「ちっ……」


 『鉄壁の勇者』の言葉に、オスコットは舌打ちしながらも従った。

 剛拳と鉄壁は溜息を吐きつつ、俺に向き直る。


「すまぬな。悪い奴ではないのだ」

「別に構わねえよ」

「うむ……助かる。我輩は『鉄壁の勇者』ダルマメット・イルカンダル。先の男は『旋風の勇者』オスコット・エヌワールと申す」

「あたしは『剛拳の勇者』セインだよ! よろしく!」

「ああ、俺はオルト。よろしく頼むわ」


 俺達は自己紹介を済ませる。

 こいつらは、今日行われていた勇者選抜戦に来ていた。何故、俺に声を掛けて来たのだろうか。

 俺は手早く終わらせようと、こちらから切り出す。


「それで、一体俺になんの用なんだ?」

「うむ……単刀直入に言おう。オルト。勇者となり、我らと共に戦わぬか?」

「断る。それで、なんでだ?」

「理由聞く前に断った!? ちょ……な、なんでなんで!?」


 俺が誘いを断ったのがそんなに驚く事だったのか、セインと名乗った女が声を荒げた。

 溜息を吐き、簡潔に答える。


「興味ねえから」

「きょ、興味って……。勇者になったら、沢山お金も貰えるし、みんなから褒められるよ? 本当にいいのー?」

「いらん」

「ふんっ! 下民が……見栄を張るんじゃない。お前の様な貧乏人が金に困っていない訳がない! そういえば……お前はエレシュリーゼ・フレアムの推薦だったな? 武力の高さを買われて養われているのか? 恥知らずめ!」


 いや、そんな事実はない訳だが……。

 俺は面倒臭く思って頭を掻く。


「俺は別に金になんざ困ってねえよ。いいから、理由を話せ。理由を」


 オスコットは再び舌打ちする。それから何か言い掛けたが、ダルマメットが目で制した。


「話が進まんな……。それで、理由であったな。簡単な話だ。我ら3人が束になっても防げない一撃……無論、普通の手合いではどうなるか分からんが、少なくとも勇者と同等の能力があるだろう。貴殿程の逸材を、いつまでも学生のままでいさせるのは宝の持ち腐れだ」


 だから、俺をさっさと勇者にしたいらしい。断るけど。


「勇者に興味がないなら、どうして養成学校に入ったのさ?」


 セインが口を尖らせて尋ねる。


「まあ、そりゃあ、俺の事情だからな。態々、話す必要も義務もねえわな」

「ぶーケチ!」


 餓鬼か。この女……。

 ダルマメットは手を顎に当て、逡巡する素振りを見せる。


「ふむ……。本人にその気がないのなら、こちらも無理にとは言わぬが……。しかし、セインが指摘した通り解せぬ。貴殿が、養成学校に入った理由を話す必要も義務も確かにない」

「しかし、変な勘繰りをされたくなけりゃあ話せってか? 悪いがプライベートな事なんでな。会ったばっかのてめえらに話す内容じゃあ――」


 そう言い掛けて、何やらセインの髪に生えていたアホ毛がピンっと立った。


「分かった! 恋だね? 恋でしょ? 恋だよね?」

「ぶっ!?」


 思わず吹き出してしまうと、セインがニヤニヤした顔を付きで迫る。


「おやおや少年〜青春だね〜。ふっふっふ〜」

「う、うるせえ……」

「お相手は誰よ? も、もしかして……エレちゃん!?」

「いや、誰だそいつは……。エレシュリーゼの事言ってんなら違うからな? おいなんだその目は……違うからな!?」

「恋っていうのは否定しないんだ?」

「…………」


 しまったというのが顔に出ただろう。セインはニヤニヤと腹立たしい表情を浮かべたまま、うんうん頷く。


「そっかそっか……なら、ここはお姉さんが君の身の潔白を保証してあげよう! だから、2人とも! オルトくんはだいじょーぶ!」

「おいおい……そんなんで大丈夫って本気か?」


 オスコットが頬を引きつらせて問い掛ける。セインは「ノープロブレムだよ!」と親指を立てた。

 オスコットは肩を落とした。


「ふむ……。我輩としても大丈夫かどうか、はなはだ疑問ではあるが……しかしだ。セインの勘は良く当たる。きっと、大丈夫なのだろう」

「そう! ノープロブレム! 青春する男の子に悪い子はいないのさー」


 果てしなくうざかった。

 俺がげんなりした表情を浮かべると、セインが肩を竦めて口を開く。


「あーあー。でも、残念だなー。凄い強くて将来有望だから、唾つけておこうと思ったんだけど……」

「んあ? そりゃあ、悪いな。俺は10年以上の片想いでね。簡単には諦めるつもりねえぜ?」

「うわお……すっごい一途だ。……うん! 頑張ってね!」





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