表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/72

十九話 最強剣士と紅蓮の勇者

「それで? 俺に何か用か?」


 エレシュリーゼに問い掛ける。彼女は不敵な笑みを浮かべる。


「……場所を移しませんか? 街から出て東に広い荒野がありますの」

「ん? 街から出んのか?」

「ダメ……でしょうか?」


 エレシュリーゼの俺を見る瞳が不安げに揺れる。

 特に断る理由は無い。


「いや、まあいいけど……何すんだ?」

「ふふ……まずは移動致しましょう。話はそれから……」


 エレシュリーゼはそう言いながら、先導する様に控え室に背を向ける。俺もその背中を追って、控え室を後にする。

 暫く2人で歩き、闘技場に出るとエレシュリーゼが呟く。


「『エレメンタルアスペクト』……」


 エレシュリーゼの体が炎に包まれたかと思うと、四肢から炎を噴射。それを推進力にし、エレシュリーゼは空を飛ぶ。

 遥か上空まで飛び上がった彼女は、空に赤い軌跡を残しながら東に向かって飛ぶ。


「おお、すげえな……」


 俺も感心しつつ、エレシュリーゼを追って移動する。

 そして、俺は指定の荒野でエレシュリーゼと落ち合った。


「流石は、オルト様。早かったですわね」

「……様? いや、まあ、この程度の距離ならな……んで? こんな所に呼び出して、一体どうしたよ?」

「ええ、簡単な事ですわ。オルト様……わたくしと、勝負して下さらないかしら?」

「は? 勝負?」


 訳が分からず首を傾げた俺だったが……エレシュリーゼの顔を見て、肩を竦める。

 冗談で言っている訳では無さそうだ。


「本気でやんのか?」

「命のやり取りは、流石に考えておりませんわ。ただ、わたくしは確かめたい事がございますの……」

「ふうん? まあ、別に構わねえよ。俺も歴代最強勇者にゃあ興味があったもんでな」


 不敵な笑みを浮かべて言うと、エレシュリーゼは嬉しそうに微笑む。


「嬉しいですわ……。それでは、早速参りますわ」


 エレシュリーゼは言いながら、自らの手の平に炎の塊を生成する。その中から、一本の剣が出てきた。

 俺は刀を鞘から抜かず、棒立ちのままエレシュリーゼと相対する。


「準備は宜しくて?」

「ああ、いつでも構わねえ」

「では……行きますわ!」


 エレシュリーゼの掛け声と共に戦闘が開始される。

 俺はエレシュリーゼの出方を伺う。

 彼女は鋭い踏み込みと共に、俺と肉迫する距離まで接近する。

 お互いの獲物は、近接戦を間合いとする。俺は刀、エレシュリーゼは片手直剣で、間合いによる差は殆ど無い。だというのに、エレシュリーゼはお互いの間合いを完全に無視し、クロスレンジでの戦闘を仕掛けて来たのだった。


「おいおい……格闘戦をご所望ってか?」

「わたくしは炎属性の流動化……触れれば大火傷ですわよ!」


 エレシュリーゼの言う通り、触れていないにも関わらず、妙な熱気を感じる。

 エレシュリーゼは迷いなく俺のテンプルにハイキックを繰り出す。

 俺は上体を逸らしてハイキックを躱す。直ぐに反撃の一手として、掌底を繰り出す。無論、触れればこちらもダメージを受けるのは分かっている為、寸止めする。それでも衝撃波が飛び、エレシュリーゼにダメージを与える事は可能だろう。

 俺の反撃は、エレシュリーゼの胸部に直撃――した様に見えたが、俺の手には全く手ごたえが無い。見ると、彼女の胸には手の平サイズの穴が空いており、穴の周囲に炎が纏わり付いていた。


「……流動化で体の形を変えたか」

「その通りですわ。オルト様が流動化を何らかの方法で無効化出来るのは承知済み。ならば、こちらもその対策をするまでの事!」

「っと……」


 今度は剣を下から突き上げる様に振るって来た。俺はバックステップして回避したが、エレシュリーゼは追撃に炎を背中から噴射し、その勢いで突っ込んでくる。

 俺は突っ込んで来るエレシュリーゼの剣先に、手の甲で弾く。『建御雷』で硬化している為、ダメージは無い。

 剣先を弾いて、エレシュリーゼの軌道を逸らし、俺とエレシュリーゼはそのまま立ち位置を入れ替える。

 エレシュリーゼは振り返り様に、剣を横薙ぎに払う。炎を纏った刃をしゃがんでやり過ごすと、炎が一帯に撒き散らせる。

 彼女が剣を振るった延長線上が爆発する。物凄い火力だった。


「っぶねえ……」

「わたくしも少しはやりますでしょう?」


 剣を構えて直すエレシュリーゼは不敵に笑いながら言った。


「ああ、驚いた。魔法だけじゃなくて、剣も中々なもんだな。こりゃあ、俺も刀を抜かなきゃ失礼ってもんだわな……」


 俺は思った事をそのまま口にし、刀を鞘から抜いた。



9



 身にかかる重圧が、一気に高まった事をエレシュリーゼは感じ取った。

 目の前に立つのは、かつて自分が師事した剣士の少年。

 普段からその剣気を微塵も隠そうとしていないオルトだが、刀を抜いた今――今までとは比べ物にならないプレッシャーが襲う。


「オルト様もようやくその気になった様ですわね……」

「俺は初めからやる気だったけど?」


 などと言っているが、オルトが本気で無いのは明らかだった。

 エレシュリーゼは苦笑しつつ、刀を抜いてくれた事に嬉しく思った。

 エレシュリーゼがオルトに勝負を申し込んだのは、思い出して欲しかったからだった。自分から「お久しぶりですわ」などと言って、「は? いや、誰?」と言われたら――。


「…………」


 エレシュリーゼは想像しただけで泣きたくなった。

 ならば、戦ってオルトに思い出して貰うしかない。この世界に、オルトと同じ絶剣流を使う剣士はいない。

 きっと、オルトは自分を思い出してくれる……そう信じて、エレシュリーゼはこの剣での立ち会いに臨む。


「では、行きますわ!」


 エレシュリーゼは鋭く踏み込み、オルトに向かって剣を振り下ろす。


「ん?」


 オルトは一瞬、首を傾げたが――直ぐにエレシュリーゼの剣を刀で受け止める。

 金属同士が衝突し、甲高い音が鳴り響く。

 それからお互いに一歩も引く事無く、足を止めて刃と刃を打ち合う。


「はあ!」

「っとと……」


 第三者から見れば、攻めているのはエレシュリーゼであった。優勢に見える。だが、戦っている当人からすれば、実際は逆だ。

 エレシュリーゼは、「これだけ攻めているのに有効打が無い」という事に気付いていた。実際、激しい攻防が繰り広げられているが、オルトは一太刀も受けていない。

 だが、逆も然り。

 エレシュリーゼも、一太刀も浴びていない。


「くっ……」


 エレシュリーゼはなんとしても一太刀浴びせる為、オルトの隙を突き、加速――剣を水平に薙ぐ。

 絶対に躱す事が困難な一振り。

 エレシュリーゼの剣は、完全にオルトの首筋を捉えていたが――直ぐにエレシュリーゼは驚愕した。

 先程まで、目の前にいたオルトの姿が、忽然と消えてしまった。

 エレシュリーゼは人1人が目の前から消える現象に驚いた。と、その直後――全身に走った悪寒に対し、エレシュリーゼは殆ど反射的に反応。

 全身を炎として霧散させる。と、先程までエレシュリーゼの体があった空間に刀が振るわれた。


「なっ……!?」


 エレシュリーゼは直ぐ様距離を取り、肉体を再構築する。

 エレシュリーゼの視線の先には、姿を消したオルトが泰然と刀を肩に担いで立っていた。凄まじい剣速だった。本来なら、エレシュリーゼでは避ける事は出来ない一振り。

 避けられたのは一重に運と勘が良かったからだ。


「流石は……オルト様ですわね」


 エレシュリーゼがぽつりと賞賛の言葉を口にすると、オルトは顎に手を当てる。


「んー……なんか、お前の剣。どっかで見た事あるんだよなあ……」

「っ!?」


 気付いた!?

 エレシュリーゼはその言葉を待ってましたと言わんばかりに、瞳を輝かせる。もしも彼女に尻尾があったら、それはきっと嬉しそうにブンブン振っていた事だろう。

 オルトは暫く思い出す素振りを見せた後、


「…………まあいいか」

「良くありませんわよ!」


 結局、エレシュリーゼは自らカミングアウトした。




ブックマーク、ポイント評価をして頂けるとやる気が……出ます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ