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十八話 胎動する未知

7



 更に時を同じくして、第100階層の王宮にて。1人の男がワイングラスを片手に、不敵な笑みを浮かべていた。


「ふむ……もうかなり上まで登って来たみたいだねえ」


 男は道化師の様な顔で、少しばかり派手な恰好をしている。


「前は第78階層だったねえ。今回は、第90階層……」


 男は深淵大地を作った相手が、上へ上へと登って来ている気配を敏感に感じ取っていた。

 男はワイングラスをテーブルに置く。

 男には1つだけ、普通の人間には無いものがあった。


「深淵大地を作った奴らは、私にとって脅威となる……。早めに潰すのが吉だよねえ……」


 男は座っていた椅子から立ち上がる。

 その時、窓から差し込む陽光によって、頭から生えていた黒光りする角が煌めいた。

 男の名は――キュスター。

 ふと、キュスターの居る部屋の闇が蠢く。


「……キュスター様」


 闇からは全身の肌が真っ黒に染め上げられた人ならざる存在が現れる。背中からは蝙蝠の翼が生え、その者にも角が生えていた。


「ああ、ガルメラか」

「はっ……ご報告に参りました」

「任せていた例の件だねえ? あの深淵大地を作った正体が分かったのかな?」

「いえ……その件で調査に向かった部下達は、みな殺されています。敵の実力は、少なくとも我々、上級悪魔クラスかと」

「ふうん? まあ、そうだろうねえ……」


 キュスターの配下の者は、主の様子を伺う。

 キュスターは顎に手を当てて考えを巡らせる。


「いや、丁度その件について君に任せたい事ができたんだよねえ」

「と、言うと……?」

「さっき、第90階層で第78階層で感じたのと同じ波動を感じた。恐らく、奴だろうねえ。今から、君にモンスターと下級悪魔を――そうだねえ。10万貸すから、そいつ毎第90階層の人間を皆殺しにしろ」


 それなら、深淵大地を作った者が誰であろうとも問題無い。皆殺しにすれば、その者も死ぬからだ。

 配下の者は思わず驚く。


「じゅ、10万でございますか!?」

「おや、不服かな?」

「い、いえ! その様な事は決して! し、しかし……それ程大規模な戦力が必要……なのでしょうか?」


 配下の問いにキュスターは笑う。


「皆殺しにするんだ。10万いれば早いだろう?」


 配下の者は「なるほど」と頷く。

 キュスターも頷いて続ける。


「それと、レシアには手を出さない様に、細心の注意を払うんだ。彼女だけは必ず生きてここに連れて来るんだ」

「はっ……承知しました」


 キュスターの指示に従い、配下は再び闇へと消える。

 キュスターは窓からテラスへと足を運ぶ。

 テラスからは眺めの良い景色が見える。美しい緑と遠方には山々。天を仰げば、天井が――。


「さて、どうでるかな。深淵大地を作った者――ブラック」


 キュスターは、泰然とそう口にした。



8



「不毛な争いだ……」

「そうですね。無駄な体力を使いました……」


 俺とレシアは、あれから数十分程幼稚で低レベルな言い争いを繰り広げていた。

 傍で聞いていたモニカは、苦笑している。


「あは……あはは……はは……。その、もっと仲良くしません……か?」

「ごめんなさい、モニカさん。モニカさんとはなかよくしたいと思います。しかし、この男はダメです。生理的に」


 生理的……流石に傷付くんだが。

 モニカはきょとんと首を傾げる。


「あ、でもでも、レシアさんって言う程オルトくんの事嫌いじゃないですよね?」

「なっ……そ、そんな事無いです」


 否定するレシア。モニカは何か気になったのか、


「お二人って、接点無さそうなんですけど……。どう言う関係なんです?」

「どういう……」

「関係……」


 俺とレシアは数巡考え込む。

 簡潔に答えるのなら、幼馴染で済む。だが、それはレシアも第1階層出身だという事を、間接的に教える事になる。

 俺はゆっくりと口を開いた。


「……別に。赤の他人だよ。他人」

「――ッ!」

「うわ……ちょっ……おい! いてえ、いてえ! 俺の耳を引っ張るな!」


 レシアが突然、俺の右耳を引っ張って来たので抗議する。

 避ける事も出来たが――避けるまでも無いと高を括った事に後悔した。痛い。


「ええ、そうです。この男と私は赤の他人……他人です。ええ、そうですとも!」

「ちょっ……取れる取れる! なんでてめえ怒ってんだよ!」

「お、怒ってなどいません!」


 レシアはようやく俺の耳を離した。

 耳がヒリヒリと痛む。

 俺は右耳を摩りながら、レシアを鋭く睨む。対してレシアも俺を睨み付ける。

 両者共に暫くの間、睨み合いが続く。そんな中、モニカが瞬く。


「えっと、もしかして仲良し?」

「仲良しじゃねえ」

「仲良しじゃない」

「ふええええ……」


 俺とレシアが同時に否定すると、モニカが奇妙な悲鳴を発する。


「はあ……まあ、もういいわ。なんか疲れた」

「ええ、私も誰かさんの相手に無駄な時間を割きすぎました……。これで失礼します。モニカさんは、私の次のブロックでしたね。頑張って下さい」

「あ、は、はい! ありがとうございます!」


 レシアはそのまま微笑すると、まるで俺が視界に入っていないかの様な足取りで立ち去った。


「…………心が折れそうだぜ」

「……? ど、どうしたの? オルトくん?」

「いや、なんつーかねえ。惚れた女に、告白するって難しいなと思ってな」

「ふええええ!? お、オルトくんってレシアさんの事好きなの!?」


 驚くモニカに俺は、「そういえば言ってなかったっけか?」と天井を仰ぐ。


「そ、そうなんだ……。だから、あの時屋上に誘って欲しいって……。そ、その時は告白できなかったの?」

「喧嘩になっちまってなあ。中々、上手く行かねえや」


 モニカは再び瞬く。


「私、上手く行かないのってオルトくんが悪いとおもうんだけど……」

「…………」


 俺はモニカから目を逸らす。


「オルトくん、早く告白しなよ」

「だ、だけどよお……振られたらって言うか……。なんか、レシアの俺に対する好感度ってぶっちゃけ……」

「ない……かな?」

「ですよねえ……」


 婚約者だって居るというのに、俺を好きになる理由が無い。しかも、顔を合わせれば喧嘩ばかり。軽く死にたい。

 ふと、モニカが頬を赤らめる。


「でも、振られちゃっても大丈夫だよ……? そ、その……その時は私が……」

「いや、振られた時の事なんて考えたくねえ」


 俺はモニカが何か言うのを遮った。


「あ、そ、そう……だよね! ごめんね?」

「いや、別に。まあ、やるだけやるしかねえわな……」


 俺は腕を組み、これからどうするのかを考える。


「どうすっかなあ」

「何をどうするおつもりで?」


 ふと、声がした方へ目を向けると、エレシュリーゼが控え室の出入り口から、こちらへ向かって来ているのが見えた。


「おお、なんだ? 態々こんな所まで」

「あ、あ、フレアム公爵令嬢様! し、失礼します!」


 モニカは、「はわわわ」と怯えた様子で脱兎の如く逃げ出した。

 俺は首を傾げる。


「どうしたんだ? あいつ?」

「あれだけ怯えられると……傷付きますわね」


 見ると、困った笑みを浮かべていた。

 俺は肩を竦める事で同意した。



 

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