表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/72

十七話 紅蓮の勇者、焦がれる

5



 オルトの破壊した会場の修復作業が行われている。

 そんな中、最年少にして歴代最強と謳われる勇者――『紅蓮の勇者』エレシュリーゼ・フレアムは、今だ驚愕で固まっていた。

 オルトから放たれた常軌を逸脱した一撃。それを前に、3人の勇者が動いた。だというのに、歴代最強勇者であるエレシュリーゼが動けなかった。

 それは何故か――。


「…………オルト……?」


 エレシュリーゼは彼の名前を呟き、特等席に深く座り、頭を抑える。

 彼女――エレシュリーゼ・フレアムが歴代最強と呼ばれる所以は、いくつかある。まずは、類い稀ない圧倒的な魔法の才能。

 魔法使いが強いとされているのは、『エレメンタルアスペクト』――流動化があるからだ。エレシュリーゼの流動化は、火属性である。雷属性の様に、特別強力という訳でも無いが……桁違いな魔力量を誇る彼女の流動化は、他を圧倒する火力を持っていた。

 勿論、高い魔法センスだけでは無い。相手を見極める観察眼や洞察力。彼女の根幹を支えているのは、知力だった。

 だが、他にも彼女の強さを支えているものがある。

 魔法使いとしての資質、ずば抜けた知力。それに加えて、彼女は群を抜いた剣術の才があったのだ。


「…………」


 エレシュリーゼは、先の戦闘で見たオルトの剣を思い出す。

 剣術の才があったと言っても、最初からその才能が開花していた訳ではない。そもそも、魔法使いとして圧倒的な素質を持っているのに、態々剣術の才を見出す必要が無かった。

 しかし、遠い昔に居たのだ。

 魔法使いとして天才的な能力を持ったエレシュリーゼを、粗雑な剣一本で救った少年が――。


「あの剣、変わらない……。どこか懐かしく感じたのは、そういう事でしたのね……」


 初めてオルトを見た時、何故か懐かしい気配を感じた。

 だからだろうか。

 エレシュリーゼは、門の前で学校を見上げているオルトに声を掛けた。そして、オルトを推薦し、面倒な手続きも引き受けたのは――そういう懐かしい気配を感じたからだった。


「もう、6年も前の事……ですわね」


 エレシュリーゼは遠い目をして、自分の腕を抱く。

 まだ、エレシュリーゼが12歳の頃。彼女は、10歳のオルトと出会っていた。



6



 フレアム公爵家の当主――エレシュリーゼの父の仕事で、彼女は一緒に上層から中層まで降りて来ていた。

 当時、魔法の才能に絶対の自信を持っていたエレシュリーゼは、父親の言う事を聞かず、好き勝手に中層の街を歩き回っていた。

 言わずもがな、貴族の令嬢が1人で歩いていたら攫われるのは必然だった。

 エレシュリーゼは抵抗する間も無く、中層で人攫いに遭った。

 それから彼女は、中層よりもずっと下の階層まで連れ去られる。そこは、下層も下層――第5階層だった。

 彼女は奴隷市で売りに出される事になった。手足には魔法が使えない様に特殊な枷が嵌められた。抵抗も出来ず、ただ泣きじゃくるしか無かった。


「おとう……さん……おとうさん! うう……」


 無論、父親が助けに来れる訳が無い。

 全ては父親の言う事を聞かなかった自分の責任なのだから。

 もはや、助かる事は無いと諦めかけていた折。オルトは現れた。


「クソ人攫い共があああ!!」


 当時、レシアを連れ去られた怒りや悲しみからか、オルトは人攫いに対して尋常ではない敵意を向けていた。

 無論、エレシュリーゼがそんな事を知っている筈もなく、彼女は奴隷市をたった1人で潰した少年に感謝し憧れた。

 僅か10歳、自分よりも幼いのに、自分よりも強い少年。


「君は、どうしてそんなに強いの? 魔法使いでもないのに……」


 助けられて暫く経った時の事。

 エレシュリーゼは気になって尋ねた。

 事実、10歳という幼さで奴隷市を壊滅させる程の腕前だ。普通の10歳児ではない。聡明な彼女は、直ぐにその異常さを見抜いた。

 対してオルトは、ただこれだけ述べた。


「強くねえよ」


 どんな意味が込められていたのか、12歳のエレシュリーゼに理解する事は出来なかった。

 言ったオルトも10歳だ。深い意味は無かったのだろう……しかし、エレシュリーゼはそれから慢心を捨てた。


「あ、の……わたしに、剣を……教えて!」

「剣を? お前、魔法使いだろ?」

「それでも……わたし、もっと強くなりたいの」

「…………分かった」


 それから1ヶ月間。エレシュリーゼは、オルトに師事した。

 オルトの剣は、特に流派は無かった。それでは不便だとエレシュリーゼが言ったが、オルトは「いらん」の一点張り。

 エレシュリーゼはそれを無視し、勝手に『絶剣流』などと命名した。

 絶剣――絶える事の無い不屈の剣という意味だった。

 エレシュリーゼは1ヶ月という僅かな期間で成長し、剣術の才能を開花させる事となる。

 そして、1ヶ月――エレシュリーゼを見つけた公爵家の関係者によって彼女は保護される。


「あ、師匠……?」


 エレシュリーゼはそのままオルトを自分の師とし、公爵家に迎え入れようとしたが――オルトの姿はどこにも無かった。


 これがエレシュリーゼとオルトの出会い――。


「この数年間で記憶は大分色褪せてしまいましたけれど……まだ、わたくしはあなた様の剣だけは覚えていましたわ」


――ああ、我が師よ。


 エレシュリーゼは恋い焦がれる乙女の様に、頬を上気させた。



ブックマーク、ポイント評価をして頂いけるとやる気が……出ます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ