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十三話 勇者選抜戦

1



 レシアと再会を果たしてからというもの――特に進展というか、むしろ後退したというか。

 廊下ですれ違っても知らん顔をされ、とにかくレシアに徹底されて無視される生活が、およそ1ヶ月程続いた。


「あー今日もダメだったなあ。ありゃあ」


 俺は椅子を横に並べてた上に、仰向けに寝転がりながらぼやく。

 今日もレシアのいるAクラスに行ってみたが、顔すら合わせて貰えなかった。しかも、クラスの連中から追い払われる始末。アタフタとしていたモニカに、少し申し訳ない事をした。


「ったく、俺はなーにやってんだか」


 これでは態々上に登って来た意味が無くなってしまう。

 とりあえず、俺がこれからやらなくてはいけない事を纏めるとだ。最優先事項として、アルテーゼ侯爵をぶっ殺――じゃなかった――見極める事だ。

 もしも、良い奴なら……俺は血の涙を流しつつ認めるつもりだ。だが、少しでもアルテーゼ侯爵とやらが、気に食わない野郎なら……例えレシアに嫌われる可能性があっても、アルテーゼ侯爵を斬る。

 俺が1人、Fクラスの教室で物騒な事を考えていると、


「おーい、いるかーい? ああ、いたいた。あんたも暇だねえ。授業もないのに」

「ああ、レオノーラか」


 担任のレオノーラが教室に入ってくるや否や、そんな事を口にした。

 俺は体を起こしながら肩を竦める。


「逆だ。逆……。他にやる事がねえから学校に来てんだよ」

「ほう? そういえば、最近あんた噂になってるよ。あのレシア・アルテーゼにちょっかい掛けてるそうじゃないか」

「まあな」

「近頃、あの金髪の機嫌が悪いらしいけど。あんたの所為かいね」

「…………」


 機嫌……悪いんだ……。

 俺は肩を落とす。

 レオノーラは苦笑を浮かべる。俺の近くに椅子を置いて座り、机上に広げた羊皮紙を置く。


「なんだそりゃあ」

「見てみな」


 羊皮紙に視線を落とすと、勇者選抜戦の申し込みと書かれていた。


「勇者選抜戦だあ?」

「そう。これはその参加申込書さ」


 レオノーラは簡単に、勇者選抜戦について説明をする。


「まあ、その名前の通り1人の勇者を選抜するための催しさ。勿論、この選抜戦に勝ったからって勇者になれる訳じゃあない。勇者になるには、現役勇者3名からの承認、または現国王の承認が必要だ」


 どちらにしても、勇者や国王に自分の存在を知られていないとできない事だ。

 勇者としての素質があっても知られなければ意味がない。


「つまり、あれか。これは勇者とか国王とか、その辺の奴らにアピールできる機会って訳か」

「そういう事……ふう」


 レオノーラは葉巻を吸い、煙を吐く。


「選抜戦には現役勇者3名と国王陛下がお越しになる。これを機に名を上げようという学生は多い」

「参加者も多い訳だな」

「例年は、ね……申込書を良くご覧」

「ん?」


 言われて、再度申込書を眺める。すると、ある一文が目に留まった。


「……なお、この選抜戦で死亡した場合の責任は、自己責任とする。へえ、面白いな」

「だろう? とはいえ、例年殆ど死者なんて出る程の事はないんだ。去年は、エレシュリーゼ・フレアムが圧倒的だったしねえ」

「今年は違うってか?」

「そういう事さ。今年は、勇者候補筆頭と呼ばれる学生が多い。しかも、その全員がハイレベル。お陰で今年は参加者が例年よりも少なくなっててねえ」


 その勇者候補筆頭とやらに勝つ自信がないからだろう。最悪の場合は死ぬ訳だしな。

 レアオノーラは指を4本立てる。


「まずは、3年Aクラス。首席のエレシュリーゼは出場しないけど、次席が出る。そして、2年Aクラスの首席と次席。最後に1年Aクラス首席。あんたがご執心のレシア・アルテーゼさ。この4人が強すぎて、Aクラス以外の参加者がかなり少ない」

「まあ、そうなるわな」


 実力順で分けられたクラスだ。Aクラス連中に劣るBクラス以下のクラスが、命を張ってまで出場する訳がない。

 レオノーラは葉巻を吸いながら、


「それで? あんたはどうするんだい?」

「あ? 俺か? そうだなあ……別に、勇者になる気とかねえしな……」

「だろうねえ。出場はしないかい?」

「……いんや、出るよ」

「ほう? それはまたどうして?」


 俺は不敵な笑みを浮かべる。


「まあ、単純な興味本位だわなあ。つっても、本当に勇者になりたい様な奴らの邪魔はしねえよ。適当な所で辞退するつもりだ」

「随分と腕に自信があるみたいだねえ。まあ、エレシュリーゼ・フレアムの推薦だしね。あんたは強いんだろうねえ」

「んな事より、選抜戦は具体的にどんなルールなんだ?」


 尋ねると、レオノーラは肩を竦める。


「予選は4ブロックに分かれてバトルロイヤルを行う。いつもなら50人くらいで行われるけど、今回は少ないだろうねえ。それから、各ブロックで生き残った1人が本選に出場する。本選はトーナメント形式さ」

「なるほどな」


 中々、面白そうな行事だ。

 最近はレシアの事で色々と考え込んでストレスが溜まっていた。丁度良い機会だ。憂さ晴らしに付き合ってもらおう。


「で、いつからなんだ?」

「明日からだ」


 俺は眉を寄せる。


「随分と急だなあ……」

「いやあ、本当はもっと前から告知されていたんだけどね。あたしがうっかり忘れていたのさ」

「この野郎……」

「でもまあ、いつからなんてのはそこまで問題じゃあらないだろう?」


 そう言われれば、全くその通りだった。

 俺は溜息を吐く。


「しっかし、明日からね……」


 俺は窓の外へ目を向ける。

 勇者選抜戦を上手く使って、レシアにお近づき出来ないだろうか……。

 例えば、本気で優勝してみれば、レシアも俺を認めてくれるかもしれない。

 もしかしたら、「オルト、格好良い……」みたいになって、アルテーゼとかいういけ好かない野郎から乗り換えてくれるかもしれない……!


「よし……俺、ちょっと優勝狙おうかな」

「え? あんたさっき、適当にって……まあ、あたしはなんでも構わないけどねえ」


 俺は勇者選抜戦に闘志を燃やした。

 ふっふっふっ……見てろよ、レシア!

 この俺の格好良い姿を見せて、惚れさせてやる!

 って、あれ……なんか、当初の目的忘れてねえか? 俺……。





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