十二話 愛する者を穿つ槍
こんにちは！
宜しければ、ブックマーク、ポイント評価をお願い致します！
やる気が――出ます！！
黒尽くめが襲い掛かるのと同時に、俺とレシアは動き出す。
「ったく、突然襲い掛かってくるったあ穏やかじゃあねえなあ」
「無駄口を叩いている暇があるのなら戦って下さい」
俺とレシアは黒尽くめの攻撃を避けながら会話する。
奴らの武器は小型の刃物だ。大振りなナイフといった所で、それを両手に装備し、素早い攻撃を繰り出している。
俺は『建御雷』で右腕の前腕を硬化させて攻撃を受ける。そして、左下腿を硬化させて黒尽くめの1人を蹴り飛ばす。
その際、金属質な音が響く。
「んあ？」
「どうかしましたか？」
「いや、蹴った時に変な感触しやがった。こいつら鉄みてえに硬いぞ」
「鉄……はあ！」
レシアも黒尽くめの1人に対し、顎に掌底を放って後退させる。
バックステップで黒尽くめ達から距離を取ったレシアは、手をヒラヒラと振る。
「確かに、些か頑丈ですね」
「クールぶってっけど、本当は痛かったんだろ？」
「そ、そんな事ありません。んんっ……お喋りはここまでにしましょう。ブリュンヒルデ――」
レシアが言いながら手を空に翳すと、レシアの手の平に光が収束し、槍の形状を型どる。
レシアの手に現れたのは一本の槍。素槍に近い形状だが、刃の部分がどこか禍々しい様な――。
「お、おい……なんだその禍々しい槍」
「禍々しい……？ 失礼な。この槍は、私が授かった神器です。神々しいと感じる事があっても、禍々しいなど……」
黒尽くめを無視して会話をしていると、黒尽くめ達が襲い掛かって来る。
レシアは見事な槍捌きで黒尽くめの攻撃をいなし、槍を横薙ぎに払って黒尽くめ達を一掃する。
俺も腰の刀を抜き放ち、黒尽くめ達を吹き飛ばす。一応、この後事情聴取をする必要があるため、殺す訳には行かない。殺さない程度に手加減しねえと……。
「多少は、やる様ですね。オルト」
「てめえも、中々の腕前だな。レシア」
ふと、吹き飛ばされた黒尽くめ達はゆらりと立ち上がったかと思うと、次の瞬間にその体を土塊に変えた。
「んあ？」
「これは……土魔法の様ですね。あれらは操られている人形というだけで、術者は別の場所にいる様です」
「なんだよ。んじゃあ、手加減する必要はねえわな」
「ええ、そうですね」
10人分の土塊は1つに合体し、巨大なゴーレムへと変貌する。
俺がそれを真っ二つに斬ろうとした所、先にレシアがゴーレムに向かって槍を突き刺した。
「はあ！」
地面を抉って跳んだレシアは、勢いそのままゴーレムの体に風穴をあける。ゴーレムは動かなくなってしまい、暫くして土塊に還った。
「ふう……手応えがありませんね」
「まあ、ただの土塊だからなあ」
とはいえ、さっきの感じだとあのゴーレムも相当な硬さの筈だ。それにいとも容易く風穴をあけるというのは異常だ。
ブリュンヒルデ……確か、神器だとか言ってたな。あの禍々しい槍の事。
「おい、その槍は一体どんな代物なんだ？」
「ん……まあ、教えて困る事ではないのでいいでしょう。この神器ブリュンヒルデは、愛する者に対して特攻を持つ特殊な槍なのです。そして、所持者の愛の大きさによって、所持者に力を与える愛の槍と呼ばれています」
「へえ、つまり、何か？ てめえの強さがそのまま愛の大きさっつー訳か？」
「ええ、そ、その通りですね……ええ」
顔を赤くさせるレシアを他所に、俺は頭の中で情報を整理する。
愛の大きさで強くなる槍ねえ……つまり、あれか？ 鉄のゴーレムに風穴をあけられるくらい強いレシアは、それくらいアルテーゼっつー奴が好き――。
「かはっ！？」
想像して吐血してしまった。
い、いや、落ち着け……。そうだ、とりあえず、今はこの事は置いておこう。
「そ、そうだ……！ 今、襲って来た相手の事、知ってるみてえだったが？」
「はい。恐らく、評議会からの刺客でしょうね」
レシアは溜息を吐きつつ、ブリュンヒルデを再び光の粒子へと戻した。
「刺客ねえ……」
「私とアルテーゼ侯爵との婚約は、ノブリス騎士団と王家が友好関係を築き、更に力を増す政略結婚ですから。そういう意味では、評議会としては面白くないのでしょうね。こうして度々、私を殺そうと襲って来るのです」
「へえ……中々気が合いそうだな」
「何か言いましたか？」
「いんやあ、なーんも言ってねえよ」
気は合うだろうが、やり方は気に食わねえ。
まあ、狙う相手がアルテーゼ侯爵の方であれば、俺も何もせず、むしろ協力までしただろう。
「はあ……。まあ、この話はオルトに関係の無い事です。とにかく、あなたは……もう、私には関わらないで下さい」
「だから、さっきも言っただろ？ てめえの指図は受けねえ。俺は俺のしたい事をする」
「…………勝手にして下さい」
レシアはやはり辛そうな表情を浮かべ、俺の横を通り過ぎて屋上から立ち去る。
屋上に1人残された俺は、頭を掻いた。
「はあ……大失敗だな。こりゃあ」
俺は大きな溜息を吐いた。
神器・愛する者を穿つ槍『ブリュンヒルデ』
所持者の愛する者に対して特攻効果を持つ槍。
所持者の、その人物に対する愛の大きさが所持者の力に還元される。所持者の強さは愛の大きさそのものという事になる。
槍は見た者を魅了する程に美しく、神々しい姿形をしていると言われる。
