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十話 へなちょこ剣士、衝撃の事実に我を忘れる

8



 強姦されそうになっていた女子学生――モニカをFクラスに招くと、大層驚いていた。


「え、えと……なんですか。ここは……」

「ああ、同期なんだし、タメで構わねえぞー。っと、とりあえず、ここに座ってくれ。今、茶を淹れてやるよ」

「え、あ、はい……じゃなくて、うん。あ、ありがとう……」


 モニカは文字通り、ほけーっと教室をキョロキョロ見回している。

 ふっ……この俺が施した天才的なリフォームに驚いている様だな。


「これ……私物化じゃ……」

「…………」


 ぼそっと呟いたモニカの一言に、俺は目を逸らした。

 とりあえず、口封じの為にお茶とお茶菓子をモニカに与えて共犯に仕立て上げた所で本題へ入る。


「さて、まずは、そうだな……。あの男達はどうする? とりあえず、死刑か?」

「それは……どうせ、私は平民だし。あの人達、大貴族の子息だから、どうしようもないよ……」

「いや、そうでもないぞ? 俺、エレシュリーゼっつー公爵と顔見知りだからよ。多分、あの程度の輩ならちょちょいとやってくれんだろ」


 ついでに、役に立つか知らないが憲兵隊所属のラッセルも居るし。

 俺がそう言うと、モニカは目を丸くさせている。


「す、すごいんだね……。あのフレアム公爵令嬢様と顔見知りって噂、本当だったんだ」

「まあ、成り行き上? 俺、結構運が良くてな。ともかく、てめえが望むんなら、それなりの罪にもできるってえ訳だな。どうするよ?」

「そ、そんな事、急に言われても……」


 まあ、確かに。だが、モニカの中に許せないという気持ちはある様で、表情を暗くさせている。まあ、あいつらの処遇なんて後でもいいか。


「直ぐには答えられないってんなら、後にすっか。つーかよ、ああいうのって結構あんのか?」

「うん。やっぱり、この学校は貴族が沢山通ってるから。平民いびりは良くあるよ」

「へえ……俺はいびられた事ねえなあ」


 冷めた目は向けられるけど。

 そう言うと、モニカは苦笑交じりに、


「えっと、オルトくんは一応、フレアム公爵令嬢様と顔見知りって噂だから……簡単には手を出せないんじゃないかな」

「ああ、そう言う事か……」


 なるほど納得。

 俺は淹れたお茶を一口飲んだ。すると、モニカも思い出した様にティーカップをソーサーから取り、ゆっくりと口に含む。


「あ、美味しい……」

「お、そいつは良かった」

「これどういうお茶なの? なんか、飲んだ事ない感じ……」

「ああ、自家製のハーブティーだ。そこの庭で作ってる」


 俺は顎で育てているハーブを示す。授業が無くて暇なもんだからハーブを育てる事にした。

 モニカは困った表情を浮かべる。


「ええっと……いいのかな?」

「別に構わねえだろ。知らんけど」


 何か言われたら適当にエレシュリーゼの名前でも出しておこうかな。

 それから、お茶と菓子を飲み食いしながら歓談した後に、俺は意を決して口を開く。


「あ、あのよお……。モニカって、レシアと同じクラスだよな?」

「え? あ、うん。アルテーゼ侯爵夫人……じゃないや。ええっと……アルテーゼ様とは同じクラスだよ」

「ある、てーぜ……ああ、レシアの家名か」


 俺はレシアがそう名乗っている事に、未だ馴染みが無く理解するのに数秒を要した。

 って、おやおや? 今、俺は何か聞き捨てならない単語をモニカから聞いた気がする。


「おい、その侯爵夫人ってのは……な、なんだ?」

「え? アルテーゼ侯爵様の婚約者ってお話で、もう結婚する事は確定だろうって……だから、周りはみんな侯爵夫人って呼んでるの」

「へえ、それで侯爵夫人か……」


 俺は腕を組んで頷いた後、椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がる。


「こ、婚約だあああ!?」

「ひゃああ!?」


 俺が叫び上がったからか、モニカが悲鳴を上げる。しかし、今の俺に気遣う余裕はない。


「おい、そりゃあどういう事だ!? う、嘘だよな? ったく、冗談きついぜ……」

「う、嘘じゃないよ……? 確か、王家とノブリス騎士団の友好関係を築く為の結婚だって……」


 聞けば、レシアはノブリス騎士団に所属する勇者候補筆頭なのだという。

 四大勢力の内、王家、ノブリス騎士団、評議会は、勇者を輩出してさらに勢力を増そうと画策しているという。

 だから、毎年それぞれの勢力から一人は尋常ではない実力を持った学生が送り込まれるらしい。


「王家は、フレアム公爵令嬢様以来、有望な勇者候補を出せてないし、騎士団も王家と友好関係を結ぶ事で政治に関わろうとしてるみたい」

「な、なんだよ……じゃあ、政略結婚って訳か?」

「うん。でも、2人は仲睦まじくしてるって噂が――」

「かはっ!?」


 俺は心臓が持たず、その場に倒れる。


「わあああ!? だ、大丈夫!?」

「馬鹿な……そんな馬鹿な……。れ、レシアが……レシアが結婚……はは……ははは」

「え、あ、え? その……大丈夫?」


 大丈夫な訳がない。

 この8年間、レシアにそういう相手ができているかもしれないなんて、一切考えた事がなかった。だが、良く考えればあの顔だ。あんなに可愛いレシアに、男が寄り付かない訳がない!


「くそおおお! 俺の馬鹿野郎! 意気地無し! アンポンタン! 俺がうだうだしてた所為でレシアがあああ!?」

「ええっと……ねえ、オルトくんってアルテーゼ様とどんな関係なの?」


 床に頭を抱えて転がる俺に、モニカが尋ねる。

 平たく言えば、幼馴染。しかし、そんな事を言えばレシアが俺と同じ出身である事が周囲に知れ渡ってしまう。

 そうなると、レシアに迷惑が掛かってしまう。それは俺の本意ではない。俺は混乱して良く回らない頭で、モニカの問いに答えた。


「……あー、あれだ。ちょっとした縁があってな。俺はレシアのストーカーをやってる」

「ストーカー!?」


 この後、俺は自分が馬鹿なんじゃないかと猛省した。俺はモニカの誤解を解き、頭を抱えながら、


「くそっ……! そうだ……レシアに確認するんだ!」


 それが一番手っ取り早い!

 俺はモニカに向かって、


「モニカ! 早速で悪いが協力してくれ!」

「え、あ、うん。何かな?」

「レシアを放課後に、教室棟の屋上へ来る様に言っておいてくれ!」


 俺はもう腹を括ったぞ!

 も、もし……これでレシアが本当の本気で婚約者の事が好きなら――俺はその婚約者を斬るかもしれない。







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