再び爆弾投下
モエの家名を変更しました。
ジハノ王国には四季があり、アナスタシアがやって来た時期は青龍といって一年でも過ごしやすい季節だった。
そこから季節はユージンの精霊であるアケボシの種属である朱雀の季節に入ろうとしていた。朱雀は火の化身と呼ばれている精霊で、その名前を冠している季節もやはり火のように暑い気温と照りつける陽射しが特徴的である。
かわってアナスタシアの住んでいたマノフ王国は、年の半分は極寒それ以外は青龍の時期に近い過ごしやすい気候をしているのだから、慣れない暑さと終始好奇の視線を向けられているプレッシャーによる心労もあってアナスタシアは体がオーバーヒートを起こしてしまった。
屋敷の者たちは学園での様子を知っているからこそ、熱が下がり次第学園に行こうとしたアナスタシアをなだめすかして、1週間ほど屋敷にて静養をさせることにしたのだった。
そんなわけでターニャの提案を汲んだかのようにアナスタシアは学園を休む羽目になっていた。
アナスタシアが体調を崩した知らせをうけたことで公爵がやってくるのでは無いかと屋敷の者たちが頭を悩ませていたのは余談である。
体調が良くなって再び学園に通い始めた頃には、アナスタシアの姿が見えなかったことによって噂が下火になっており、浮ついていた周辺も落ち着きを見せ始めていた。
そして、アナスタシアも学園に入って以来の平穏な日々を過ごしているのだった。最近はモエと共に学園で過ごすことが多く、周りも変な気をまわさなくなったことも要因かもしれない。
モエとは屋敷で静養している間に、心配して暑気払いに良いという果物をもって見舞いにやってきたことで、色々な話をしている間にお互いの似た境遇がわかり急速に仲を深めていた。
「う〜ん、癒される。」
今日もモエと一緒にカフェテリアで、サンリ特産の季節の果物のパフェ(朱雀の季節はブドウか桃をお選び頂けます。)のブドウのパフェを選んで、色とりどりの宝石のようなブドウを口に運びながらたわいもない話をしている。
「そういえば、もうじき長期休暇があるでしょ。マノフ王国へ帰国なさるのかしら?」
「無理だと思います・・・まだあれから3ヶ月もたってないですから。」
アナスタシアの寂しそうな顔をみて、モエは何か気分をあげることは無いだろうかと少し考えて良いことを思いついたと
「ねぇ、私の両親の領地へ来てみませんこと?」
「モエ様の領地ですか?たしか、サンリ・・・あぁ、頂いた果物やブドウが特産の!」
「アナスタシアは、勉強家なのに少し抜けてますわよね。そこが可愛いのだけど。そ・れ・に、私の事もモエって呼んで下さらないと!さぁ、もう1度!」
「モ、モエの領地のサンリには果物を頂いてから一度は行きたいと思ってましたの、お言葉に甘えてお伺いしますわ。」
「決まりですわね。では・・・」
ホーーーー
甲高い鳴き声が頭上から聞こえ思わず見あげると、そこには鮮やかな朱色を纏ったアケボシが、アナスタシアめがけて降りてきているところだった。
「わっぷ」
慌てて椅子を引いたが胸元近くに降りて来たアケボシの羽が顔にあたり淑女にあるまじき声が出たのであったが、アケボシはそんなことは気にもせず久しぶりにあったアナスタシアにほおずりをはじめていた。
アケボシの羽から解放されたアナスタシアは、居るはずのユージンを探して辺りを見回したが居もしなければ来そうな気配すらもなく。
「ねぇ、アケボシ。ユージン殿下はどちらへいらっしゃるの?」
アナスタシアの問いかけに、アケボシは思い出したわ!とういう感じで膝から飛び立ち口から球体のものを出し始めた。
カフェテラスが騒然とし始めたのに気がついて在中している警備兵が慌ててやってきたものの王太子の精霊に手を出していいものかと逡巡している間にそれは始まった。
玉は少しずつ人の形へと姿をかえてユージンの上半身を模した形になり話はじめる。
「アナスタシア嬢、伏せっていたと聞いている。出来れば元気になったか直接確認に行きたいが、ままならず残念だ。病み上がりの癒しになればとアケボシにこのような形で伝言を託した。長期休暇に入る頃にはひと段落がつきそうだ逢えるのを楽しみにしている。」
そしてユージンを模した何かはアナスタシアの頬へ手をのばし、とても辛そうな表情を浮かべ、
「・・・どうか無理をしないでくれ。今はそばに居れないが貴女がここで健やかに過ごせる事を祈っている。」
そう告げて薄くなり消えたのだった。
とても賑やかだったカフェテラスはアケボシが現れてから、とても静まりかえっていた。まるで息をすることも出来ないような緊張感がユージンを模した何かが消えても薄れない。
そんな緊迫感のなか、モエがその何かがあった空間を睨みつけた。それは側からみたらアナスタシアを睨みつけているかのように見えていたのだが。
「ユ〜〜ジ〜〜ン〜〜〜なんて事を。せっかく落ち着いて居たのに、水の泡ですわっっ。」
(やっぱりモエはユージン殿下の事が・・・)
ユージンの伝言、特に最後の言葉をうけて胸の奥がこそばいような、ほわっとするような不思議な感じがしていたアナスタシアは、何を言っていたか覚えてないがモエの様子を見て反対に締め付けられるような感覚を味わっていた。
そんなアナスタシアに気づくこともなくモエはアナスタシアのそばに寄り、しっかり見据えて語気を強めに手を取り。
「あんなバカは捨ておけばいいのですわ。女子会ですわ女子会!セルゲイ殿下もご一緒に我が領地へおいでになって。」
「へ?」
「なんですの、まさかまた私がユージンの事を思っているとか勘違いなさってます?・・・そうですわね。」
モエは少し考え、意を決したようにアナスタシアの耳もとでささやいた。
「私は別にお慕いしてる方がいますの。まだ誰かはお教え出来ませんが・・・いつかアナスタシアにもお伝えしたいわ。」
そう言って、恥ずかしそうに頬を染めながらモエが言うので、アナスタシアもつられて微笑んでいた。
微笑ましい2人の様子に、ここで婚約者候補同士の戦いが行われるのかと思っていた生徒たちはほっと息を吐き再びお茶を飲み始めたのだが、先程の出来事を思い出して再び騒然となっていた。
「精霊様が伝言をされるのを初めてみたぞ。」
「やはりアナスタシア様は巫女様の生まれ変わり。」
「ほら、精霊さまが再びお膝で寛いでいらっしゃるわ。」
周りから前よりも熱の帯びた視線を受け、席を外そうにもアケボシが居て動きも出来ないという状態にアナスタシアよりもモエが今にも爆発しそうになっていた。
そして助けはカフェテラスの入り口から現れた。
「何があったのだ!もうじき午後の授業が行われる。各々教室へ戻られるがよい。」
そう声をかけたのは、難癖をつけてきた令嬢から助けてくれたあのユートだった。
ユートの言葉をうけて生徒たちは後ろ髪を引かれながらも、カフェテラスから席を外していく。ある程度人がはけていくのを身終えたあと、ユートは周囲の視線の中心にいたモエとアナスタシアに向き直り。
「御二方はアケボシ様がいらっしゃるので、私のほうで授業に遅れることを伝えておく。それにしても・・・ユージン殿下には一言申し上げる必要がありそうだ。」
「ありがとう、ユート殿。私もユージンには一言どころではなく一発・・・。」
「モエったら。ユート様、先日だけでなく、再びお助け頂いてありがとうございます。」
「いえ、執行部の長としてするべき事をしたまでです。」
「ユート様は執行部の方だったのですね。申し訳ないわ、学園に来たばかりなのに問題を起こしてばかりで・・・。」
「アナスタシアが気を病む事ではないですわ。すべてユージンが至らないのよ。」
「・・・私も授業がありますので失礼させていただく。」
2人を残して生徒が居なくなったのを見計らい、ユートは踵をかえしてカフェテラスから出ていった。
長期休暇まであと半月、アナスタシアは再びストレスの溜まりそうな日々が始まりそうだった。今はただアケボシの気持ちの良い羽に癒されようと堪能するのだった。
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