ジハネ王国の伝承
少し短めですが、区切りが良かったので。
「モエ様の優しさに付け入るとは、マノフ王国の令嬢とははしたないのですね。」
「自国の王子と一緒に住まわれているとか...あぁユージン殿下は見かけに騙されてらっしゃるのよ。」
こちらに聞こえる様に、昨日の男爵令嬢とその友人達が話している。
(これって物語で良くある悪役令嬢かしら、でも公爵令嬢にたてつく悪役令嬢はないわよね。何って言うのかしら...)
昨日ユートが忠告したように、他国の公爵令嬢をいじめるなど国際問題になる。それにマノフは大国なのだ、精霊に守られてようが経済制裁が有効な可能性もあるということに思い至らないらしい。思わず彼女たちの態度に呆気にとられる。
(ここは泣いて逃げていくのが様式美だったりするのかしら)
おもわず立ち止まってしまったので変に動けず迷っているところに、
「教室へ参りましょう。くだらないことにお耳を汚されてはいけないわ。」
モエが現れて、アナスタシアを引っ張っていく。男爵令嬢たちは、さすがにまずいと感じたのか口を閉ざして顔を青くしていた。
「私はユージンの婚約者候補だったけど、興味は無いの。どちらかというと、いけすかない弟って感じなのよ。」
「そうでしたの...」
モエが急に止まって振り返り、アナスタシアを見つめて言う。
「だから、貴女の心の思うままになさってね。それに、嫌な時は嫌って言うのよ! 」
「えぇ、助けていただいてありがとうございます。」
「もうっ、そう言うことじゃないんだけど。はぁ、早く気づくといいわね。」
先ほどのことかと思って返事をしたアナスタシアを見て呆れた様に言うのだった。何を気づくのだろうと思ったのだが、彼女達を見て思い出したことを聞くことにした。
「モエ様、伝承ってなんですの?」
(ユージンがたらたらしているのが悪いのよね。)
「ジハネの子供達は聞かされて大きくなる話で...
ーーー世界中に精霊がいた時代。異なる世界から呼ばれた男がいた。そして彼の精霊の契約の為に贄となる娘がいた。しかし、大精霊は娘を大層気に入り巫女とした。ヒロトと巫女はいつしか愛を育み、それを許さなかった世界を敵とした。ヒロトは巫女と子供を守る為、広大なる海の真ん中に自分たちが暮らしていける世界を大精霊とつくりました。大精霊は力を使い果たし、ヒロトと巫女の子供達を守ることを約束して眠りにつきました。ーーー
と言う話で、島を守っているのはその大精霊で、王家に訪れている精霊達は眷属ってことみたいね。王家には、王位継承1位以外の女子がいると巫女として大精霊の社を守る役に着くの。ユージンの妹もいまそこにいるのよ。
で、私たち貴族は巫女に連なるものとして一緒に島に渡ってきた子孫なんですって。
...それで、公然の話として王の伴侶は精霊に嫌われてるとなれないとも言われてるの。私が婚約者候補だったのはアケボシが嫌がらなかったからなのよ。」
「そんな話があったのですか...ですので、私の膝にアケボシが乗ったことに皆さん驚かれたのですね。でも、アケボシは人懐っこいと思ってたのだけど...。」
アケボシは社交的で、生徒会の仲間達とも仲が良く、シエラにもちょっかいをかけていた記憶がったからだ。
「アナスタシアの周りは心根の良い方ばかりでしたのね。羨ましいことだわ。」
モエは少し遠い目をして何かを思っている様だった。頭を降って何かを吹っ切り、再びアナスタシアを見て爆弾発言をした。
「だから貴女も立派な婚約者候補ですわ。」
「他国の人間ですが...。」
「関係ないわ。この国は精霊が一番ですのよ。」
急にそんな事を言われても困るのだった。なにしろ、自国で第1王子から婚約破棄を言い渡された公爵令嬢なのだから。
読んでいただきありがとうございます。たまに気合を入れてください!