4人の婚約者候補と2人の王子
遅くなりました〜。ブックマーク及び評価ありがとうございます。宣言通り、少し改訂しました。
霊宮から戻って数日後、王宮から正式な使者がお茶会の招待をアナスタシアとセルゲイに送って来た。
アナスタシア達は正式な婚約についての意志確認のために呼ばれたと思って王宮へ向かったが、案内されたお茶会を行う庭園には数人の女性達がいた。それも明らかに自分と同じくらいの上流貴族と思われる令嬢達が。
困惑しながらテーブルに向かおうと歩を進めようとしたとき、後ろからよく知った声から声をかけられる。振り返ると予想どおりモエが居た。簡単な挨拶をした後、モエはアナスタシアに寄り添って小声で語りかける。
「アナスタシア、貴方このお茶会が何かユージンから聞いているかしら?」
「いえ、ユージンからは何も。それに一緒に来たセルゲイも途中で案内が別になりましたの。」
「私のところもよ。義父が別室に案内されるようだったわ。それにしても・・・気になるわね。」
そう言って、すでにテーブルに付いている女性たちについて話し始める。
「あちらの方はホソカワ公爵のお嬢様よ。セルゲイ殿下より少し上くらいかしら、まだ社交界に出る年齢でも無いのに・・・なにより何故ここにヒヨシ男爵の娘が居るのかしらね。」
そう言って厳しい目を向ける。ヒヨシ男爵の娘は学園でアナスタシアに辛くあたっている筆頭である。側には何かに怯えているような小動物をほうふつとさせる栗毛の少女が座っている。
「もうひと方は私も知らない方だわ。アナスタシアはご存知?」
「いえ、私も。ただ、あの印象的な赤毛をお持ちになった方をどちらかで見かけたことがありますわ。どちらの方だったかしら・・・。」
アナスタシアはあの炎のように煌めく印象的な髪の色を自国で行われた、他国を招待した催しで見かけた気がした。自分より高貴な立場のものだった気がして居るがなかなか思い出せない。
そんな思案も吹き飛ばすかのように、席についた2人に向こうから声を掛けてきた。
「貴女はアナスタシア様かな?」
「は、はい。」
「あぁ、失礼した。我はグランドリア公国のエリザベスだ。よしなに。」
「エリザベス様・・・もしや、次代の大公!失礼しました。こちらからご挨拶をしなければいけない所を。」
「よい。今は見聞を広めるために、我が国の前身が召喚したと言われている勇者の興した国に参ったのだ。」
「そうなんですの?」
そう言ってモエを見る。確か、モエから聞いた話では勇者は世界を敵としている。ということは召喚された国と友好的とは思えなかったのだ。しかしモエは表情をとくに変えず。
「グランドリア公国の大公家は巫女に近しい家系の者だったそうですの。国を出る際に手助けをした事により独立したとも言われているのですわ。」
「さよう。わらわのように女大公になる場合は婿取りの意味もあって訪問しているのだがな。あぁ、心配しなくてもよいぞ。わらわは第一王子ねらいだ。ユージン殿下は銀の髪の妖精に心を奪われていると聞いておったのでな。」
「そんな噂がっ。」
アナスタシアは自分が銀の妖精などという大層な呼び名をされている事も恥ずかしいが、ユージンとの仲がすでに周知されていることに言いようのない、誰もいなければベットで転がり回ってしまいそうな気分に陥っている。
「ふふっ、初々しい。わらわでも抱きしめたくなるのう。しかし、気をつけるがよいぞ。無駄な足掻きをしようとしている輩もそこにおるようだ。」
そう言って、小動物のような少女が座っているほうに目線をちらりと向けた。彼女達は我関せずとこちらに構わず、少女に何やら言い聞かせているようだった。
「主人を主人と思わぬものを侍女に据えるとは何を考えておるのかのう・・・」
エルザベスはそうこぼしたが、独り言をあえて気に留めるものは居なかった。
「というわけで、モエ様とはライバルということでお手柔らかに頼むぞ。」
「モエ?」
モエはやや顔色を悪くしながら、何とか笑顔を保とうとしている。いつにない様子にアナスタシアはただならぬものを感じたが、なぜモエがそうなっているのかは思いつかなかった。
「エリザベス様、もしやこのお茶会は婚約者候補の集まりでしょうか?」
「おや?知らずにこの場におるのか・・・何やら面白い事になっておるようだな。」
そういってエリザベスはとても楽しそうに微笑んだ。
ーーーーお茶会の前日。
「父上、どういう事でしょうか?婚約者は私の思う妃を選んで良いはずです。最低限アケボシが気に入れば問題ないと許可を下さったはずですが。」
ユージンが息を切らせて、執務室に入ってきた。いつもなら公的な事を行なっているこの場で、父などと呼ばない息子の切迫つまった様子に、やはり来たかと思ったのだった。
「そうも言っていられない状況になった。自国の令嬢なら問題なかったのだが、他国の公爵令嬢のアナスタシアを選んだことで我もと言ってくる自他国の貴族がおってな・・・。いまのジハネは精霊の守りも弱い、ましてや白虎の転生がいつあってもおかしくないだろう。そうなっては争いを呼ぶのは避けたいのだ。」
「しかしっ、アナスタシアは他国とはいえ大国の公爵令嬢、ましてや我が国を救う希望の種ですよ!!」
国王はユージンの目を見すえ、誠実に王としての考えを伝えていく。それでも食い下がるユージンに一喝する。
「一国の王となる身を忘れるな。聖霊様に依存するだけの国など嘆かわしいと思わないのか。私は今の現状はいい機会だと思っているのだ。欲しいものは自らの手でもぎ取るがよい。祖の王もまた自らの手で大事なものを守り切ったのだ、これもまた我らが血に流れる運命だ。」
その言葉に、頭が沸騰しそうなほどの怒りを蓄えながらもユージンは外面的には落ち着きを取り戻したように見える。
「わかりました。私の気持ちは変わりません。必ずアナスタシアを王妃として迎えます。」
「それでよい。しかし儂も父親として息子達にいい縁を結んで欲しいと思っておるのだ。それにだ、アナスタシア殿が大国の公爵令嬢、しかも何度も王家の血が入っている宰相家という事を知った他国の貴族達は早々に消えたので安心するがよい。」
ただ起こりうるだろう災いに進んでいた頃より希望は生まれたが、転生による災いが抑えられる確実がない現状に、王は過酷な運命を背負うだろう息子に唯一と言って良い願いを叶えてやりたかった。だからこそ自らのでき得る妥協点までは確保していた。
ーーーーーそして再び庭園。
「本日はご足労いただきありがとうございます。こちらにお集まり頂いた訳は、こちらにいらっしゃる王太子ユージン様とレン様の婚約者候補としての正式な顔合わせになります。お二人とも正式な婚約者を選ばないまま過ごしてまいりましたが、妙齢となりましたので選定の儀へと入らせていただきました。これから半年の間、お互いを知り将来の伴侶を選んでいただければと思っております。」
そう言って始まったのは、世にも珍しい2人の王子によるそれぞれの配偶者を同じ婚約者候補の中から選ぶという不思議な選定の場であった。
赤毛の人についてアナスタシアがどこであったかという場面を少し変えました。




