聖霊の巫女(5)
奥の宮から戻ってきて、人払いをしてから待っていたモエ達に巫女の託宣や大精霊の転生があることなどを話して聞かせた。
「奥の宮でのことはわかったわ。私も持てうる力で協力するわよ。それにしても、叔母様そんなにお体の調子が悪いのね・・・。」
「奥の宮に居れば大丈夫といってはいたが、あまり残された時間は無いのかもしれない。なんとしても『雨を呼ぶ鳥』を探さないと。」
「いまさらだけど僕が聞いて良かったのかな?本国に連絡するかもよ。」
「そんな風に言っている時点で大丈夫だと思ってるよ。それにセルゲイ王子、貴方はアナスタシアを傷つけることはないと信頼している。」
「ふんっ。お姉様がこの国から出られない以上、僕も愚かなことをする気はない。それにそんな事すると厄介なのがやってくるんだよ。」
そう言ったセルゲイはとても嫌な顔をした。彼がここまで嫌な顔をするのは珍しく、例のアナスタシアの父親のことだろうかとユージン達は思っている。そのことでユージンは思い立ったように話し始めた。
「そうか、公爵にも伝えないといけないな。アナスタシアが俺の婚約者になってくれると了承してくれたんだ。」
そう言ってアナスタシアの手を握り、彼女の顔を見て幸せそうに微笑む。突然の行動にアナスタシアは一度ユージンを見つめた後、おそるおそる皆んなの様子をみる。
「えっと、その目はちょっとひどいと思いますの。」
「国の一大事の話をしていたのに、急に色ボケなんですもの!今更ですわ、誰からみても婚約まで秒読みでしたわよ。」
周りから、生暖かい目を向けられてアナスタシアは恥ずかしさに繋がれたままの手の反対の袖で顔を隠す。
「正式には王都にもどってからの話になるがな。出来るだけ早くアナスタシアの身の回りの警護もしっかりさせたい。」
「そうね。巫女様も心配されてたし。今のままでは心許ないわね。」
「そろそろ時間のようだね。いいかい?」
入り口付近に陣取っていたハットリが、人が近づく気配を感じたのか口を挟んだ。その数瞬後、戸を叩く音が聞こえ移動を促す声がかけられたのだった。
その日の深夜ーーーー
「来ると思っていたわ。昼はごめんなさいね、ユージンとアナスタシアだけだとは想定外だったかしら?」
フウカの言葉に静かに首をふる人影がいる。その人物はどこからともなく巫女と白虎の前に現れた。
「ふふっ。ユージンのあんなに惚気た顔をみると思わなかったわ。昔はどこか達観しているというか、面白みのない子供だったもの。」
『第2王子の身で朱雀の恩恵を受けているからな。色々思うことがあるんだろう。』
「そうね・・・いつ失われてもおかしくない命だったわ。あなた達が守ってくれたからここまで大きくなったのね。感謝しているわ。」
そう言って、人影に向かって頭を下げる。
「ありがたいお言葉です。ですが、第1王子の素行のおかげで最近は無いといってもいいくらいです。」
「そう・・・。レンも難儀な子よね。」
フウカは哀れみの表情を浮かべて、フウガによりかかる。
『そうだ、キヨカの様子はどうだ?』
「王都の大精霊の杜にうつられて半年経ちましたが、ようやく落ち着かれたようです。」
「まだ、幼いのに親元を離させて可哀想だわ。私の次の巫女の為に側室まで入れて生ませる必要なんてあったのかしら・・・。」
「巫女は民の最後の拠り所でございますれば致し方なきかと。」
「もうまもなく7歳だったかしら?彼女の心の支えになるような精霊に出会ってほしわね、私とフウガみたいに。」
『そうだな。』
ユージンの妹のキヨカはまだ幼く、精霊も彼女のもとに訪れていない。しかし、7歳前後に精霊が訪れることが多い為、1年前より次代の巫女としての修行を王都の分社で行っているのである。
「アナスタシアのこと、守ってちょうだいね。彼女がすべての鍵になるの。国王も手を打ってくれているけど、それは彼女が王妃候補だからよ。でも私たちは最良の未来をもぎとる為に守ってほしいの、だから貴方に頼むのよ。聖霊の護人である貴方に。」
「承知しました。私の全身全霊をもって護ります。」
「お願いよ。」
『フウカもう休んだ方がいい。任せたぞ。2人の周りがきな臭くなりそうだとういうことは知っておいてくれ。』
「聖霊の御為に・・・」
人影は現れたときと同じように闇に消えていく。
次から新しい章になります。




