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温泉あれこれ

ちょっとしたお話。

別邸の温泉は乳白色でとろりとした肌触りをしていて、保湿効果、疲労回復そして子宝の湯としても一部で有名である。


「流石に恥ずかしいですわね。一緒にお風呂に入るなんてことはありませんもの。お湯が白くて良かったですわ。」


「同意ですわ。迂闊な自分を恥じておりますの、家族と同じように考えていましたわ・・・お友達をサンリへお誘いしたのが初めてで浮かれておりましたわ。」


「ですから、後で後悔されますと申し上げましたのに・・・」


侍女に世話をされながらお風呂に入っている令嬢達とはいえ、同じ湯に浸かるとこなど無いのである。そのことをすっかり考えないままターニャを含め侍女数人と共に浸かりながら話していた。


それに彼女達はジハネの伝統的なキモノのように袖をつけた布を前合わせにした湯着を着ている。湯着が用意されていたからこそアナスタシアも恥ずかしさのハードルが下がっていたのだ。


それでもターニャは最後まで本当にご一緒に入られるのですかと抵抗していたが、郷に入れば郷にしたがえと昔の方がおっしゃっているのよと謎理論で押しきられたのである。


「私も友人といえばシエラだけだったでしょ。モエとお友達になれて一緒に楽しめるのがうれしいのよ、これも楽しい思い出だわ。」


「お嬢様がそうおっしゃるなら・・・それにしてもこのお湯は本当に肌に良さそうですね。」


景色や会話を楽しみながらどのくらい浸かっていただろうか、アナスタシアは温泉の熱さに我慢できなくなってきたようで、顔を火照らせ立ち上がり湯から出ようとした。


「・・・これは・・・女性の私でもドキドキするわね。」


「えぇ、アウトでございます。」


「そうねこれを気づかなかった過去の自分をしばきたいわ。」


モエは何やら遠い目をしてアナスタシアを見ている。


「えっと、見つめられると恥ずかしいですわ。」


「お嬢様、私何か羽織るものをお持ちします。」


「ターニャすぐそこだから大丈夫よ。」


そういって急いで湯から出て行くターニャの背中にアナスタシアは声をかけたが聞いていないようだった。


「アナスタシア、ターニャを待った方がいいわ。・・・ふう。」


「モエも暑いのでしょ?一緒に参りましょう。」


「大丈夫。ちょっと世の不条理というか何故ここだけ育ての母に似たのかとか思っただけだから。」


そう言っているモエは無意識に胸に手をあてている。それが気分が悪いのかと思ったアナスタシアはやっぱり一緒に戻ったほうがいいわと言おうとして、ターニャが戻ってきた。


「やっぱり湯当たり起こして・「お嬢様、お待たせしました。ささ参りましょう。」


モエはアナスタシアに身振りで大丈夫だから早く行くよう促した。


「・・・では先に失礼しますわ。無理なさらないでね。」


ターニャから渡されたバスタオルを羽織ったアナスタシアはモエを残して室内へと戻っていく。


「はぁ、ここが子宝の湯って呼ばれるのはアレのせいね。湯の薬効じゃないわよ・・・。そりゃ別邸にくるたびに兄弟が増えるのもおかしくないわね。」


裸よりも、より艶めかしいアナスタシアの姿は同性すらも魅了するもので、モエはそのついでに自らの心の深淵にちょっと触れてしまっただけである。


さて、仕切りを挟んだ隣ではユートとセルゲイもまた湯に入って居た。


「ユート殿、ここまで声が漏れてくるとは異常だとおもうのだけど・・・」


「そうですね、なにやらカラクリがありそうですが・・・それよりもユージン殿下がご存知になったら私の首は物理的に無くなりませんかね。」


ユートの言葉にセルゲイは励ますように、いい笑顔で微笑んでがんばれと言うのだった。


そんな二人が脱衣所に戻ると執事服を着込んだ初老の男が待ち構えて居た。


「何者ですか。」


そう言ってセルゲイを背中へと隠すユージンだったが、セルゲイは顔見知りの様だった。


「セバスチアンなぜここに?たしか学園都市の屋敷で仕事をしているはずでは。」

「お嬢様の安全を影より見回っておりました。これも仕事でございます。」


「それで、僕たちに用なんでしょ?」


「えぇ、お風呂で聞き耳をたててしまった内容を忘れていただきたくて姿を現した次第でございます。」


「心配せずとも、僕もユート殿も決して外に出さないと約束できますよ。」


「いえ、それでは不確かですので失礼ですが刈り取らせていただきます。」


2人はその場で崩れ落ち、脱衣所の椅子で寝ているところを起こされるのだった。


「何か忘れている気がする。殿下に知られると都合が悪い事だったきがするのだが。」


「えぇ僕も、この場で会うはずのない人に会ったきがするんだけど。」


なにやらスッキリしない寝起きの2人がいた。


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