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いざ別邸へ

マノフ王国は寒さが厳しい国のため、どうしても果物が少ない。近隣の国から輸入しているが、貴族であっても特別な時や病気のときに食べれるような高級品と言ってもいいのである。


「ぶどうだけでこれ程の種類があるとは、思いませんでしたわ。」


視察という名のぶどう狩りを体験しているアナスタシアは、いつになくテンションが高い。


「こんなに生き生きとしたアナスタシアを見たのは初めてですわ。・・・そういえば夕食でもよくデザートに果物を選んでましたわね。」


色々な品種のぶどうを一房ずつかごに入れ、我慢できずひと粒口に入れている。いつもは淑女の鏡のようなアナスタシアらしからぬ行いである。


セルゲイはアナスタシアのそんな姿をみて幸せそうに微笑んでいる。いつかは義姉になるはずだったアナスタシアのことが大好きで、自分の兄が起こした一件から常に儚さが際立っていた彼女を幼心に心配していたのである。


「うん、甘い。これはマスカットなんだっけ?王家でも果物は貴重だからね〜。マノフでもお姉様はケーキもベリー系をよく選んでたなぁ。」


「ベリー系ですか、確かにイチゴのケーキはジハネでも人気ですわね。」


「イチゴってベリーがあるんだね。初めて聞いたよ。」


「ストロベリーってご存じありませんの?このくらいの赤くて三角なベリーですわ。」


モエが指で輪っかをつくってセルゲイに説明していたが、セルゲイは首を傾げている。


「もっと小さい赤い小さいのが集まったのじゃなくて?それに丸くて。」


「赤い小さい・・・丸い・・・」


モエは思いついたのか、手をたたいて


「それはラズベリーですわね!ストロベリーはもっと甘いベリーですわ。」


「へぇ、お姉様に食べさせてあげたいなぁ。手に入る?」


「残念ながら時期ではございませんの。それにここでは作っておりませんわ・・・数ヶ月先ですけど、手に入る頃にお知らせしますね。」


「ありがとう。」


「あわてて大人になる必要などないと思いますわよ。今のように子供らしく笑われているほうがいいですわ。」


「・・・だからといって頭を撫でるのはやめて欲しい。」


いつもと違った子供らしい無邪気な笑顔で喜んでいるセルゲイをみて、モエは思わず弟達にやるように頭をなでるのだった。そしてやはり、弟達と同じように嫌がられるのだった。



更に数日経った頃、別邸に向かうことになった。屋敷から馬車で半日で着くとのことで軽食を作って貰って出発した。


サンリを囲んでいる山のひとつを馬車でゆっくりと登って行く。昼食を取るために停車した場所は有名な滝がある場所だった。


「話には聞いたことはあるが、心が洗われるような荘厳な滝だな。」


ユートが滝の近くの柵まで寄って、幾重にも水が薄く重なるように流れている様子をみて言った。


「精霊の住むパワースポットだと言われてるのもわかるでしょう?アナスタシアは精霊が住んでそうだと思う?」


「えぇ・・・」


「アナスタシア?」


「ごめんなさい、とても涼しくて気持ち良くて。」


モエの問いかけに反応の遅れたアナスタシアは、舞踏会の夜の出来事を思い出してバレットを触っていた。


(ここでも精霊の卵は見れるのかしら、そういえば結局川は見てないわ・・・。ユージン殿下はお元気かしら、ずっとお忙しそうなのよね。)


そうして流れていく水を見つめていると、金色の何かが目の端にうつった。それに惹かれるようにアナスタシアは岩場を慣れない足取りで渡っていく。着いた先には、生まれたばかりの赤ちゃんくらいのサイズの金色の魚が、岩に挟まって川に戻れず息も絶え絶えになっていた。


「私の力だけでいけるかしら・・・」


なぜかこの魚をここで死なせてはいけない気がして、アナスタシアは岩の間に手を入れ大きさに見合わない軽さの魚を川へと戻す。

川に浸かった魚は金色の輝きを増し、そして口元近くにあったアナスタシアの左の小指を噛んだ。


「痛っ・・・」


あわてて手を離して指を見ると指輪のように輪っかに赤く内出血している。そして目を離した間に魚は消えていたのだ。


「アナスタシア〜どちらへいらっしゃるの?」


「アナスタシア様ーーー」


そんなに遠くへ行った気がしていなかったアナスタシアだが、皆から見えないところまで来てしまっていたようだった。声をかけて皆のもとへ足元に気をつけながら戻った。


「どちらへいらしてたの?ターニャが顔を真っ青にして探していますわよ。」


「ごめんなさい。金色に光っていたので思わず行ってしまいまして・・・このくらいの大きさの金色の魚がいましたのよ。」


そう言って手を肩幅くらいに広げて説明したアナスタシアの指に衝撃がはしる。


「お嬢様の指に傷がっっ。これは急いで冷やさないと、あぁ私が目を離したばかりに・・・」


左を見ると目の血走ったターニャがアナスタシアの指に出来た内出血を見て、発狂しそうになっていた。


「ターニャ大袈裟ね。魚に少し噛まれただけだからすぐ引くわよ。」


「お嬢様、その魚はどちらに。私がすみやかに3枚に下ろして焼いたり煮たりいたします。」


「もうっ、助けたのに食べるなんて、ターニャひどいわ。」


「助けたお嬢様を噛んだのですかっ。お嬢様こちらでモエ様と離れずいらしてください。私はちょっと恩知らずなその魚を探して始ま・・・お説教してまいります。」


「ターニャったら、本音が漏れてますわよ。ほら美肌の湯を楽しみにしてたでしょ。遅くなる前に出発しましょう。」


ターニャはしぶしぶながらお嬢様がそうおっしゃるならと、アナスタシアについて別邸へ向かう馬車に乗り込むのだった。


その後は特に何もなく、大きな湖のそばに建っている別邸にたどり着いた。

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