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救えなかった。儚い命

作者: 運河

彼岸花が枯れ始めて、桜の咲く頃。

慶は、小学生になった。

4月20日、午後15時09分。

慶はサッカーボールを持って、玄関で出掛ける準備をしていた。

 

「ん~と、ボールと、、あと何か必要だったかなー?」


靴紐を結びながら考えていると後ろから「けい!!」

と、誰かに声をかけられた。

後ろを振り返ってみるとエプロン姿のお母さんだった。

さっきまで料理をしていて、外し忘れたのだろう。

右手には何かを持っている、、、

お母さんの隣には5歳になる妹が一緒だった。妹は甘えん坊だからいつもお母さんのそばにいる。

お母さんの手を小さな手で妹は繋いでいた。

左手には茶色の熊のぬいぐるみを抱きしめている。

おばあちゃんから誕生日に貰ったものだ。


「傘持っていきなさい!雨降るみたいだから」


「わかった!もってくー」


お母さんから傘を慶は受け取った。右手に持っていたのは傘だったようだ。

目が悪かった慶は傘を野球のバットかと勘違いしていた。

お父さんも目が悪いから遺伝なのかもしれない。


「じゃあ、いってきまーす」


「おにいちゃん、いってらっしゃい!」


「遅くならないようにね」


「うん、わかった!」


慶は返事をして、玄関を勢いよく飛び出した。

公園に向かうため慶は走った。

家から公園までは徒歩で約10分。走れば5分くらいだ。そこまで遠くはない。

公園の近くには駅があり、駅前は多くの人で溢れかえっている。

駅周辺にはスーパーや喫茶店、コンビニなどが並んでいる。

駅前のスーパーには、お夕飯の買い物にお母さんとよく行くことがある。

田舎にしてはこの町は栄えているほうだと慶は思っている。


「かさ持っていきなさい!ってママに言われたけど降るのかな?」

「ボールの空気、入れてくればよかったかなー」

「ちょっとぶよぶよしてるけど大丈夫だよね!」


公園に向かう最中、慶は考えていた。

公園の前まで来て、空を見上げてみた。空は少し曇っている。


「まだ雨降らないよね」


空を見上げながらつぶやき、慶は前を向き直して公園に足を踏み入れた。

公園に入ると、友達2人がベンチに座って何か話をしていた。

奥の方ではブランコで遊ぶ子連れのお母さんがいた。

慶は公園にある時計を確認した。時刻は、午後15時20分。


「けい!はやくあそぼー」


とベンチに座っている一人の友達が話しかけてきた。

話しかけてきたのは健一だった。

健一は、クラスは違うが、幼稚園の頃からの友達でよく遊んでいる幼馴染だ。

身長は130cmもあり、一年生にしては高い。僕より5cmも高い。

クラブチームでサッカーをしていて、僕よりサッカーがうまい。


「ボール、ちゃんと持ってきたー?」


もう一人座っていたのは、めいだった。

めいとは同じクラスで席が近く、昼休みはよく一緒に遊んでいる。

僕と健一より背が小さく、クラスの背の順で前の方だ。

可愛い顔をしているため。初めて会う人は女の子と間違えることがよくある。


「うん!持ってきたよ!」


慶はボールを地面に置いて、僕たちは遊び始めた。

しばらくサッカーをして、飽きたら滑り台で遊び、ブランコや鉄棒で遊んだ。


暗くなってきた頃、ぽつぽつと雨が降ってきた。

驟雨のようだ。


「ほんとに雨がふったー」

「かさ忘れたー 」と健一。

「ぼくもー」とめいがいった。


二人は傘を忘れたようだ。ひどくならないうちに帰らないと慶は思った。

公園の時計を確認すると、時刻は17時02分。

もう春とはいえ日が沈むのは早い。


「もう帰るかー」と健一がいい、

「うん、もう5時だもん」と僕はいった。

「風邪ひいちゃったら、おかあさんに怒られるもんね」とめいが寒そうにいった。


遊びをやめて、公園前で二人と別れた。二人の家は僕とは違う方角にある。

慶は、青い傘をさして歩き始めた。


「お母さんの言う通りだったなー」


と慶は呟きながら歩いていた。

帰り道の最中、前から見覚えのある人が歩いてきて話しかけられた。


「けいちゃん、こんにちは。どこか行ってたの?」


前から歩いて来たのは、近所に住む黒髪で髪の長い中学生の美琴お姉ちゃんだった。

赤い傘をさして、くるくる回している。

ミニスカートを履いていて、脚が長く、いつもオシャレで可愛いお姉さん。

よく妹と一緒に遊んでくれる優しくて美人なお姉ちゃんだ。

いつも散歩をしている柴犬のめありーは一緒じゃない。今日は一人のようだった。

雨だからお留守番なのかな?と慶は思った。

美琴お姉ちゃんは、なんか。。。どこか悲しそうな顔をしていた。。。


「あ、おねえちゃんだ!」

「うん!ともだちとサッカーしてたの」

「おねえちゃん、どうしたの?悲しいことがあったの??」


「けいちゃんは優しいね。」

「めありーとお母さんがね遠くに行っちゃたの、、、」

「お姉ちゃんも今からそこに行くのよ」


「とおいーところ?」

「おでかけ?」

「おねえちゃんもおでかけするの?」


「そうよ。ずっと遠くに行くの、、、もう帰ってこないの」

「最後にけいちゃんに会えてよかった。」

「じゃあね。。。」  


「うん!おねえちゃん、ばいばい!」


別れた後、彼女は駅の方へ歩いて行った。

彼女の後ろ姿を眺めながら、慶はその場に立ち尽くしていた。

次第に雨粒が大きくなってきた。

霧が出てきて、一瞬にして視界がぼやけた。

彼女の姿は小さな赤いネオンとなり見えなくなった。


慶は踵を返して、家の方角へ歩き始めた。。。。。。。。。。。。





カーテンの隙間からの日差しで僕は目を覚ました。

布団から起き上がり、机の上の携帯電話で時間を確認する。

時刻は、午前7時20分。


「また、同じ夢か。。。」


あれから10年、僕はもうすぐ18歳になる。最近、あの頃の夢を見るようになった。。。

僕がまだ小学生だった頃に起こった出来事だ。


あの日、彼女は、、美琴おねえちゃんは、、、母親と愛犬を殺害した。

仕事から帰宅した父親が遺体を発見し、すぐに警察に電話をした。

あとから聞いた話によると1階のリビングに血だらけの遺体があったそうだ。

そこには遺体と一緒に血で染まった白いワンピースが脱ぎ捨てられていた。

母親は絞殺で、愛犬は刃物で無残に切断されていた。

凶器は、倉庫にしまってあった縄とキッチンにあった包丁らしい。

あの日、彼女と会ったのは僕が最後だった。

服を着替えてから僕に会ったのだろう。

雨の降る帰り道で別れた後、彼女は電車に飛び込み、自殺をした。

どうして家族を殺したのか、その理由はわからないままだ。

小学生だった僕はまだ幼かった。

もう少し僕が大人だったら、あの時彼女を救えたのかもしれない。

あの日、彼女は泣いていた。目に涙を浮かべていた。

涙で濡れたその瞳を見て、美しく綺麗とさえ僕は思った。

赤い彼岸花の花言葉のような気持ちに僕はなった。


どこか悲しそうな彼女を。。。救えなかった。。。

                  悲しくて切ない。。初恋となった。。。


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