お前は…鬼なのか
それは咲の声だった。
咲の顔をしていた。
咲の姿をしていた。
咲に間違いないはずだった。
けど、彼女の言葉遣いや着ている物は咲のものじゃなかった。
「咲……どうして……、咲じゃないのか?」
咲に間違いないはずだった。
けれど彼女は咲ではなかった。
そんな混乱する俺の頭を彼女はギュッと抱き締めて言った。
「翔…、此方は咲じゃ。
咲は此方ではないが、此方は咲じゃ。
あの鬼切頼光の剣に封じられて、漸く抜け出せた此方の欠片が咲。
言葉にすれば上手く伝えるのも難しいが、簡単に言えばそういう事じゃ。」
「じゃあ、やっぱり、咲は……鬼……なのか。」
髪を撫でる咲の手がピクリと止まった。
ああ、俺はなんでこんな事を言ったんだろう。
ゴメンの代わりに俺は咲の背中に手を回し、そっと抱き締めた。
「咲は……咲だ。
鬼でも欠片でも関係ない。
咲は、咲だから……。
だから、一緒に……帰ろ。」
咲の手がまた優しく俺の髪を撫でる。
言葉の代わりに何度も何度も。
けれどついにその手は止まって、咲は小さく言葉を吐いた。
「すまぬな翔。そして……兄様。
此方はもう疲れた。
兄様との思い出も遠い古の記憶の果てに掠り消え。
この地もかよう変わり果ててしまうた。
もう此方は……此方が此処におる意味が分からなくなったのじゃ。」
「咲……」
嫌な予感がした。
雨音は増々大きくなり、雷鳴は絶え間なく鳴り響いていた。
そんな中で呟いた咲の言葉はこの世の終わりを告げる声のようだった。
「翔。
兄様の裔の子よ。
もう此方は其方らと共には居れぬ。
この地は後十日の内に雨に沈のじゃ。
だから其方は、早うこの地を捨て、どこかに逃げ延びるが良い。」




