第47話 囚われの咲
天には果てしなく広がる星空。
地にはただ波立たぬ水面だけが広がっておった。
仄かに明かりの灯る水面。
その他には此方がおるばかりで、どれだけ目を凝らしても他に何一つ目には映らぬ。
仕方なく、水面の上に膝を崩して坐れば、水面は此方の姿を逆さに映し出した。
ただ此方の姿を映し出すばかりでさざ波一つ立つ事はない。
天の星々も幾星霜を経ても一寸も動かぬ。
ここが何処なのか此方にも分からぬ。
が、現世の地で無い事は明らかであった。
此処は黄泉の世の入り口か。はたまた六道輪廻の狭間に落ちたか。
あるいは鬼切り頼光の内の世であるやも知れぬ。
あの鬼切り頼光の刃に貫かれて、此方はずっとこの地に囚われておる。
空も時もなく、無限に満ちたこの地に延々と此方は一人でおる。…筈だった。
あれは、兄様であったか。
いや、そのような筈がない。
兄様は遙か昔に人の身となり黄泉路へ立った。
そうじゃ、確かに背は違ごうておうた。顔も違ごうておうた。声も違ごうておうた。
しかし、あの魂魄の色は兄様の色であった。
そうじゃ、兄様の魂魄はあのような色であった。
…翔。
まるで夢のようじゃった。
再び兄様と、その裔の子とあのように共に暮らす日々が来ようとは。
まるで悪夢のようじゃった。
兄様とおった彼の地が、巨大な墓標が如き石建ての家棟に埋め尽くされておったとは。
しかし、あれは夢などでは無かった。
夢と悪夢が玉石混交しておる事が正に現世の証。
此方が此処に囚われておるうちに変わり果ててしまった現世に間違いなかった。
そうであるならば、もう迷う事はない。
兄様…翔…
此方は此処におりまする。




