第46話 咲を助けなきゃ
「咲が……」キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。
三琴の言葉の意味が分かって、それでも理解できなくて、なんとか絞り出した言葉を学校のチャイムが掻き消した。
「おぉ~い、お前ら何してんだ。」
その声の主は渡部先生だった。
チャイムが鳴り止まない内から職員室を出て来た先生が、「早く教室へ帰れ。」と急かしてくる。
「詳しい話は後でするから。」
三琴は逃げるかのようにクルリと身を翻すとタッタと階段を駆け上がって行った。
「おい、ちょっと……」
「おい、早くしろ。」
まだまだ頭の整理が出来なくて、とっさに三琴を呼び止めようとした声を先生が遮った。
ノッソノッソと階段を上がってくる先生。
仕方なく俺も教室へと向かった。
カツカツと複雑な方程式を黒板に書くチョークの音が聞こえる。
ペラペラと教科書やノートを捲る音に混じって、ファ~と誰かの欠伸が聞こえた。
けどその中にお喋りの声はなく、みんなマジメに授業を受けていた。
けど、俺のペン先はさっきからずっとノートの同じ所を叩くばかりで、ノートにはいくつもの黒い点々ができている
だけだった。
「咲ちゃんは鬼なの。」
そう言った三琴の言葉が耳から離れない。
「咲ちゃんは鬼なの。」
何の意味か分からない。
「咲ちゃんは鬼なの。」
分からないはずはない。
三琴は首を傾げ続けた俺に、何度も何度も同じ説明をしてくれた。
けど、その言葉の意味が理解できない。心に入ってこない。
「咲ちゃんは鬼なの。」
分かってる。
だって、そうでもないと、あんな風に突然現れて記憶の中に姿を出して、そうして姿をくらませて、みんなの記憶の中から姿を消してしまうなんてことはできない。
でも、それでも、咲が鬼だなんて……。
ノートの上に点々が増えていく。
もう黒板を書き写す事も忘れて、教壇の先生の声も聞こえない。
咲が鬼なのか。
そうじゃないのか。
鬼なのか。
そうじゃないのか。
心の振り子が揺れる度、まるで花ビラを一枚ずつ一摘まみする花ビラ占いをするかのように、ノート点々を打っていく。
ただ、花ビラには限りがあってノートには際限が無い。
ノートの片隅が点々で埋め尽くされたあと、俺はその隙間をグリグリと塗りつぶした。
そうだ。
何かの間違いだ。
例え咲が鬼だったとしても、あの咲が人を襲ったり苦しめたりするはずがない。
そうだ、そんなことあの咲がするはずがない。
だから、封印されたなんて何かの間違いだ。
間違いで、咲は封印されたんだ。
そうだ。きっとそうに違いない。
グリグリグリグリとノートの端が黒く塗りつぶされていく。
助けなきゃ。
咲を助けなきゃ。
間違いで封印された咲を助けなきゃ。
グリグリグリグリグリグリグリグリ。
真っ黒に塗り潰されたノートの端を、更にグリグリグリグリ塗り潰していく。
咲は、今、どこにいるんだ。
どこに封印されているんだ。
そうだ!櫻井神社だ!
答えは三琴が教えてくれていた。
あの時、三琴は和田川のお社の御神体を櫻井神社に遷座するって教えてくれた。
もし、その御神体が封印された咲だったなら、今は予定の通り櫻井神社に遷座されているはず。
櫻井神社で封印されているに違いない。
それは想像でも予想でもなく確信だった。




