風に押されて
私には幼馴染がいる。
彼はイケメンで、頭がよくて、運動もできる。
彼はさながら主人公の様だ。
でも、可もなく不可もなくの、普通の私は、物語のヒロインになれるわけでもないし、私が主人公になることもない。
私はそう言う人種。
シンデレラのように灰にまみれているわけでも、白雪姫のように美しいわけでもない。
恐らく、大半の人間はそうなのだろう。私だけが特別悲劇に見舞われているわけでもない。
友達はちゃんといるし、学力も普通。
そんな人は、きっと星の数ほどいる。
でも、私には完璧な幼馴染がいる。
それがかえって私を苦しめているのかもしれない。
近くにいたから、私は普通であることにコンプレックスを抱いてしまった。
それはきっと誰が悪いわけでもない。
誰も悪くないし、どうしようもない。ありきたりな言葉だけど、運命や神様のいたずらというのが一番しっくりくると思う。
この状況の一番の解決策は、私が彼から離れることだと思う。
でも、それを拒む自分がいる。
彼が好きだと言う自分がいる。
ここがいいと言う自分がいる。
その矛盾が、今も私を苦しめる。
いつも笑いかけてくれた彼、優しくしてくれた彼、かっこいい彼、すべてを手放すには私は彼の近くにいすぎて。
でも、本当は彼ともっと一緒に居たい。
彼と二人でいろいろな話をしたい。
あの綺麗な唇とキスをしてみたい。
彼に私の為に生きてほしい。
私の為だけにいてほしい。
でも、それを言ってしまったら、きっと彼との距離は変わってしまう。
それが怖い。
拒絶されるのが、会えないのが、話せないのが、全てが怖い。
でも、もうあきらめようと思う。
「好きです!」
去年同じクラスだった男子に告白された。
彼と付き合えば、あの完璧な幼馴染のことを諦められる。
そう思った。
嫌だという自分を押し殺した。
もう、疲れたんだ、片思いに、叶わない恋に。
疲れてしまったんだ。
ここで告白を受ければ、幼馴染との関係は終わる。私の勘がそう言っている。
――それでもいい。もう、それでもいい。
本当はよくない。忘れられないのに、私に告白されても彼が困るとか、適当な理由をつけて、諦める。
もういい。
私はその言葉を紡ぐために口を開く。
いいと言ったら、目の前の少年はどんな顔をするのだろう。彼を好きになれるのかな?
「は……」
「待って!!」
そう、私の言葉は聞き覚えのある声にさえぎられた。
私は思わず振り返る。
そこには、肩で息をしている私の幼馴染がいた。
「あのさ、君ばっかり言って俺にチャンスをくれないのは不公平なんじゃないかな?」
幼馴染はそう同級生の彼に微笑を浮かべて言う。そして私のほうを向いて、一度深呼吸をして息を整える。
「俺、ずっと言えなかったことがあるんだ。
んで、お前が告白されるって聞いて、居ても立っても居られなくなって、それで、お前に言うために、急いでここに来たんだ。」
彼はそう言うと、胸に手を置き、一度深く息を吐く。そして、まっすぐその夜の空のように美しい瞳でこちらを見る。
風が吹き、彼の柔らかそうな髪が揺れる。
彼は一度その風を受けるように、風上に顔を向け、目を瞑る。
風が止んだ。
彼はゆっくり目を開くと、私のほうに向きなおる。
「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください。」
「え…?」
嘘?
何で私なんかを?
私でいいの?
そんな私の心を読んだように、彼はさらに口を開く。
「自己評価の低いお前は分かってないのかもしれないけど、お前はずっと俺の支えになってくれたんだ。だから…」
――俺と付き合って。
今思えば、あの時の風が私たちの背中を押してくれたのだろう。
偶然かもしれない。でも、私はそれを運命だと思いたい。
こんにちは、海ノ10です。
この作品は前に半分ほど書いていたものを仕上げたもので、設定が少しありきたりかなと思っています。
そんな作品ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。
誤字、脱字やお気付きのところがありましたら、教えていただければ幸いです。




