表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/43

◆30◆ ファーストギルト

祝10万字にこだわってなんかないんだからね!(笑)

『御影さん、こんばんは。美空藍です。』

 美空さんからの初メッセージはくだけもせずふざけもせず、なんともシンプルなものだった。

 宇未ちゃんとのやりとりの後なので、ちょっと調子狂うが……まぁここは美空さんのペースに合わせよう。

『こんばんは、御影です。メッセありがとう。この前直接聞けばよかったのにごめんねー。』

『大丈夫だよ。それでどうしたの? 急用って聞いたけど。』

 ……そういえば、あの定期入れを茜さんに託されたってことは言っていいんだったっけ……?

 私ってば、肝心なことを確認していなかった……!

『えっとね、渡したい物があるから明日美空さんちに届にいきたいんだけど大丈夫?』

『え? なんだろう? 御影さんちに忘れ物でもしたっけ?』

 ドキッ……。

 いや、うちじゃないみたいですけどね。しかしいい線いってはいるけど、何がどこにという肝心なことには気付いていない様子……。

『取りに行くよ。御影さんはあたしんち知らないでしょ? それか明日でもいいなら三組までいくけど。』

 多分、クラスの違う美空さんは私が休んでいることを知らない。テスト前で部活もないので当たり前だが。

『ううん。明日じゃ遅いかもだから、やっぱ今から持って行くよ。美空さんち教えてもらえる?』

 そうよ。私が美空さんちを知ってるってなると『誰に聞いたの?』って返事がくるに決まってる。美空さんちを教えてくれたのも、定期を拾ってくれたのも茜さんだと言っていいのなら話は別だが……。

『教えるのは全然構わないけど、よかったら駅前のコンビニで待ち合わせしない? あたしちょうどコピー取りたいものあるし。』

 時刻は19時半にさしかかるところ。健全な中学生なら塾帰りの子くらいしかうろつかないであろう時間だ。私は躊躇する間もなく『おっけー。すぐ行くねー』と返信した。

 やりとりの間に冷え切ってしまったご飯をかき込む。通学カバンに入れっぱなしだった定期入れを確認し、急いで家を出た。

 うちから駅前のコンビニまでは10分かからないが、茜さんの地図によると美空さんちからのほうが若干近い。久しぶりの外の空気を吸い込みながら小走りで向かった。

 ……が、急いで辿り着いたコンビニの前で待つこと15分。美空さんの姿はまだない。もしかしてまだ夕飯中だったとか? 相手の都合も聞かずに飛び出してしまった自分を今更恥じる……。

 メッセージアプリは私の『おっけー』で終わっている。既読もついている。何時頃着くかの記載はない。しかしあちらから提案してきたのだ、もう少しおとなしく待つことにする。

 そういえば、ここのコンビニはスイーツが充実してると茜さんが言っていた。ちょっとだけ、と眩しい店内へ足を踏み入れた。

 確かにスイーツが豊富だ。洋菓子から和菓子までずらりと並んでいる。もうすぐ20時だというのに口が甘い物を求め出す……。

 いやいや、待て待て湖渡子。スイーツの誘惑に惑わされてる場合じゃないでしょ? どれにしようか選んでる場合じゃないでしょ? 時間とかカロリーとか考えてる場合じゃないでしょ?

 そもそもこの定期入れが、どこに落ちてて誰に託されたのかをどう伝えるのか先に考えなきゃでしょ?

 邪念を払うためといういいわけで、ひとまずスイートポテトを1つ購入。よし、これで定期入れ返却に集中できる。

 謎の後ろめたさを抱えたまま再び店の前に立つと、程なくして「ごめーん」という美空さんの声が近付いてきた。

「すんごい待ったでしょ? ごめんね、御影さん」

「ううん、大丈夫だよ。呼び出したのこっちだし、来てくれてありがとう」

 美空さんは弾む息を整えながら「ううん、こっちこそ」と微笑んだ。そしてつるつるぺたんこな胸の前で両手を合わせて眉毛をハの字にする。。

「実はコンビニのカードが見当たらなくて探してて遅く鳴っちゃってさ……ってのはいいわけなんだけど……。寒かったでしょ? 中入る?」

 美空さんてば真面目そうだししっかりしてそうに見えるけど、実は忘れ物とかなくし物が多い子なのでは? と一瞬和む。

 が、私の口元は緩みそうになった瞬間固まった。

「あの……そのカードって、定期入れに入れてたりする……?」

 おずおずと見上げる。美空さんのつぶらなお目々がぱちぱちと2度瞬きした。

「そう。そしたら定期入れごと見当たらなくて……。もしかして、御影さんちに落ちてた?」

 あ……。

「う、うん、うん、そうなの! そうなのそうなの、この前忘れていったみたいで、テーブルの下に落ちててさぁ。ないと困る物入ってたらいけないなーと思って急いで呼び出しちゃって……」

「ほんと? よかったぁ。コンビニのカードと本屋さんとかのポイントカードしか入ってないんだけど、チャージしたばっかだったからちょっと焦っちゃった。ありがとね、御影さん」

 心底ホッとした笑みを前に、私は罪悪感のあまり「うん」と頷いたまま俯いた。

 私は嘘つきだ。美空さんの純粋さにつけ込んで嘘をついた。

 私はただ、これを渡してほしいと頼まれただけなのに。親切心で引き受けただけなのに。嘘をつく必要なんてなにもないのに。

 だけど、今はそうするしかない。お互いのために……。

 美空さんへのファーストギルトで顔を上げれなかった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ