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◆15◆ ファーストゲスト

「下着を売ってるらしいって話、聞いたことないか? 」

「し、下着をですかっ! それって……」

 校則違反どころか、青少年何とかかんとかで違法なんじゃ……?

 確かにあの時、偶然でも目に止まってしまった黒ブラ、私から見てもドキドキした。あ、いや、女の子にドキドキしたとかじゃないんだからね? 純白しか見たことなかったから、不倫人妻みたいな物を見てしまった、って意味でドキドキしただけだからね? つまり何が言いたいかというと、私のような純粋で潔白な女の子から見ても「わぉ!」な下着を、変態なおっさん共が放っておかないわけがない……と思う。もし売ってたのだとしたら、買わない変態はいない……と思う。

「先生もその話聞く前から、一年のわりに色っぽいとこあるとは思ってたんだけどさぁ、何ていうかこう……フェロモン? みたいなもの出てるっていうかさぁ」

「それは私も思ってましたけど……有名なんですか? その話」

「あー、やっぱり知らなかったかぁ……。先生から聞いたって言うなよ? 演劇部のやつらはみんな知ってるよ。あと一部の男子もな。ネットに載ってたらしいから、広まるのもあっという間かもしれないなぁ」

「ネットですか? それっていかがわしいサイトの……? 」

「ネット販売だって話だよ。名前はさすがに本名じゃないが、紛れもなく氷堂だろうってさ。噂がこれ以上広まらない為に、先生たちにもサイト名は非公開だけどな」

「でも、志緒先輩たちは知ってるんですよね? まさか志緒先輩たちも売ってるんじゃ……」

「あいつらに限ってそれはないと思うぞ? なんせ相談してきたのは永井だからなぁ。永井の付き合ってるやつが見つけたらしくてさ、心配した永井が先生たちに相談してきたんだよ。氷堂に話して、やめさせた方がいいかって」

 ガイ先輩の彼氏さん、なぜいかがわしいサイトで氷堂さんを見つけたのやら……という疑問が残るけど、今はちょっとそれどころではないので。

「本人は、氷堂さんは、先生や先輩にバレてるって知ってるんですか? もう注意したんですか? 」

「してないよ。本人もバレてることは知らないと思う。なんせ証拠がないからな」

「証拠ならサイトにあるんじゃないんですか? 画像とか……」

「そりゃそうなんだけどさ、実際に売ってるかどうかまでは確信がつかめないからなぁ。最も、載せてるってだけで指導の対象ではあるんだけどな」

 謎だらけの人だと思ってはいたけど、まさかそんな……。嘘でしょ? 何かの間違いじゃないの?

 先生は私から一度距離を置くと、辺りを見渡して人影を再確認した。時間的にも、さすがに生徒はほとんど残っていないが、入念に見渡して安心したのか、先生はため息をつきながら戻って来た。

「御影はどう思う? やってると思うか? 」

「どうって……。私も氷堂さんのこと、知りたいくらいです」

「そうか、御影も氷堂に興味あるのか……」

 え、ちょっと待って? 興味あるのかって、そんな言い方されたら、私が氷堂さんの下着に興味深々みたいじゃない? 知りたいのは氷堂さんの下着の色が黒なのか白なのかとかではなくて、どんな柄なのかでも、サイズはいくつなのかでもなくて、売ってるのかとかでもなくて! 私が知りたいのは……。

 知りたいのは……何?

 氷堂さんが何をしてようが、何を売ってようが、私には関係ないじゃない。むしろ知らない方が、何も巻き込まれずに、平和な日常を過ごせるじゃない。

 氷堂さんだって、私にはもうからまないって去っていったんだもん。私だって、こんな危険そうな話に首を突っ込んで、面倒なことになりたくないし、何も知らない方が、お互いの為じゃない……。

「私、誰にも言いません! っていうか、聞かなかったことにします。忘れます。だから、先生も私に話したこと、忘れてください! 」

「え? あぁ、うん。分かったよ。でも、何か情報が入ったら報告してくれよな」

「……分かりました。じゃ、失礼します。さようなら」

 半ば逃げるようにダッシュして、「走るんじゃなーい!」という先生の声も聞こえないふりをした。こんな時に逃げ足が速いのを活用出来るのは、有難い技能のおかげ……。

 先生からも、学校からも、氷堂さんの話からも吹っ切るように走った。



「ただいま……」

 玄関の灯りは付いているものの、「おかえりー」という言葉が返って来ないところをみると、ママはまだ仕事のようだった。仕事……ならいいんだけど、あの油ぎったギラギラのおっさんと会ってるんじゃないよね……? つい、ママのおしゃれピンヒールの有無を確認してしまう。

 良かった、ある! ……今日はおっさんのとこは行ってないんだ! って、娘にこんな思いさせる母親ってどうなのよ。

 それでも、私にとっては唯一無二の母親。大好きだからこそ、清い母親でいてほしいっていうのが、私の細やかな願望。口には出せないから、察してほしいのも願望。

 鍵を閉めて靴を脱ごうとすると、ママのスリッパがないことに気付いた。帰ってるの? 足元を確認すると、新しくてかわいい靴が置いてあった。また若作りな靴買ったな……。

「ママ、帰ってるの? 」

「あー、ことちゃん! おかえりー」

 リビングの扉を開けると、ご機嫌そうなママの声と、甘い焼き菓子の香りがした。もうすぐ夕飯の時間なのに、この甘い香りは何?

「ただいまって言ったのに……。これ、何のにおい? 」

「ごめんごめん! ついお話に夢中になっちゃって……。さぁさ、ことちゃんも手ぇ洗ってらっしゃい。三人で一緒に食べましょー! 」

「三人? 」

 リビングを抜け、バッグを置こうと自分の部屋の扉を開けると、振り返る一人の影があった。誰もいないはずのそこに人影があったことはもちろん、それが思いもよらない人物だったことも、心臓が止まりそうな勢いだったことの理由なわけで……。



 ママ? どうして私の部屋のファーストゲストが、氷堂さんなの?


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