モヤモヤ
その音に俺は仰向けのまま顔を扉の方向に向けた。
そこには花澤と藤代の姿があった。
「なにやっとるん?そんなところに寝転んで?」
花澤は俺を見つけるやいなや不思議そうな顔で俺に声をかけた。俺はゆっくりと上体を起こすと目を細めた。
「別に好きで転がっている訳じゃないっす。さっきまで菅野さんと組み手してたんすよ。それより何すか?つくし先輩も組み手っすか。」
正直花澤に連れられている藤代を見るのはやはりあまりいい気持ちはしない。まるで恋人を盗られた彼氏のような俺の態度。
「そや。藤代君の実力も見とけって高橋君が言うから。それよりナツキ、菅野君強かったやろ?使う武器によってはうちもかなり苦戦するからなぁ。」
「ええ。俺も今さっきボコボコにやられた所です。対人格闘が苦手って言ってましたけど、あれ嘘っすよね?」
藤代を放置したまま俺は話を広げる。これは小さな報復だ。
だが当の藤代はまったく気にする素振りは見せず、ニコニコと笑顔を見せながら俺をジット見つめている。なんなんだ?こいつ。
「うーん。苦手って訳じゃないやろな。でも菅野君の本職は工兵やから。その実力に比べればまだまだって意味かもしれんね。」
花澤は顎に手を当てながら答えた。俺は理解が出来たので話をサラッと聞き流そうとしたが、意外なことに藤代がその話に食い付いた。
「工兵って何ですか?この戦闘には爆弾の類いは持ち込み禁止ですよね?」
「ああ。俺の所属する第三小隊は戦闘の度自陣フラッグ地点に大量のイージートラップを設置するんだよ。ワイヤーはったり、括り罠仕掛けたり。つまり菅野さんはそのスペシャリストってことだよ。」
少し得意気に藤代に説明する。すると、同期なのにまるで先輩面をする俺を見た花澤は不適な笑みを浮かべた。
「なるほどなぁ。俺もまだ知らんことばかりじゃからなぁ。ありがとうな、ナツキ君。」
藤代はそう言って俺に頭を下げる。その素直な姿に何故か俺の胸は痛くなる。
「ほな、おしゃべりはこれぐらいにして、時間も無いからそろそろ始めよっか?因みに藤代君は研修時代の対人格闘の成績はどやった?」
「えっと……確か…」
俺は花澤と藤代が話している姿を眺めていた。何とも言えない疎外感を感じる。確かに俺がここに居る理由は無い。だが…正直羨ましい。
赤いドックタグ(Aランク以上)持ちの花澤と組み手が出来るのだ。めったに経験出来ることではない。俺が第二小隊に所属していた時でさえ一度も花澤は俺と組み手をしてくれなかったのだから。(その時自ら頼んだ訳でもないが)
「……そしたら一回やってみよか。ナツキ、ちょっとそこどいてな。」
「はい!よろしくおねがいしますー。」
追い討ちをかけるような花澤の言葉。元気に返事をした藤代とは対極的に俺はゆっくりと立ち上がるとトボトボと出口に向かって歩き始めた。




