カクセイノヘンリン
心を静めて集中する。まるで他人に俺の体のコントロールを預けたように意識が遠くなる。この感覚を俺は知っている。それは中国戦で雪に殺られそうになった時。姉さんの声が聞こえた時だ。
そして風間の言葉を頭の中でリフレインさせる。
「相手の動きを読む。心は水面のように静かに…。目は閉じない。」
俺の体は自動的にゆっくりと動きだし、本田に向かって竹刀を構えた。
その構えは風間の構えそのものだった。
菅野は明らかに変わった俺の空気を感じ、息を飲んだ。
そして思った。
…こいつは間違いなくハルカの弟だ。
本田は俺を睨むように見ている。まるで俺ではない、他の誰かと対峙しているようだ。
互いに一ミリも動かずに静止する。
まるでそこだけの時が止まってしまったのではないかと思う程の静けさ。
先程までは全く汗をかいていなかった本田の額にうっすらと汗が見える。その額の汗は頬を伝い、顎まで到達すると、滴となって落下を始める。
それが地に落ちた瞬間、俺は動き始めた。
最初に見せた攻撃と同じように竹刀を振り下ろすが、本田は冷静にそれを受け流した。
再び空を切る竹刀。
問題はこの先…。
自分自身が集中しているのがわかる。俺は目をいっぱいに見開いて本田の動きを先読みする。
…見える。いや、わかる。
俺は手の甲に向かって振られる警棒を竹刀の柄で受け止めた。
瞬間、本田は俺の顔を見た。ニヤっと歯を見せて笑ってる。この表情は…歓喜の表情だ。
本田は攻撃に関してはかなり甘い。綺麗に受け流さないと攻撃に移ることはない。つまり完全なカウンタータイプだ。
ならばそれを逆手に取るだけ。
カウンターを先読みして、“カウンターのカウンター”を繰り出すのみだ。




