ユダンタイテキ
研修では対人格闘の成績はトップだった俺。更に中国戦ではあのAAランクの雪と戦ったのだ。
中国戦の後、俺に渡されたドックタグはCからCCに上がっていた。
自信がある。少なくとも格闘が得意ではない本田に負ける訳にはいかない。
「じゃあ俺はこの竹刀でいきます。本田さん、手は抜かないので悪しからず。」
俺はそう言って竹刀を本田に構える。
「ほう…面白い。ならば私も全力でいこう。」
本田は立ち上がると、木製の警棒を左手で構えた。
菅野は畳に座って欠伸をしている。まるでこの結果が既にわかっているかのような振舞いだ。
そう、俺が勝つ。俺は鳥海ハルカの弟なんだから。
俺は一気に本田との距離を詰め、頭に向かって竹刀を振り下ろした。
だが予想に反して本田は警棒でそれを綺麗に往なした。俺の竹刀はまるで豆腐でも切っているかのように、スルリと畳まで到着した。
本田はそのまま流れるように警棒で俺の右手を叩いた。
「痛っ!?」
咄嗟に俺は竹刀を手放してしまう。畳に転がった竹刀を本田は素早く足で払い除け、俺の首元に警棒を突き付けた。
「…どうしたんだい?君の実力はこんなものなのかね?まあ、この私の美技の前ではこうなるのも仕方ないのだよ。君が弱いのではない、私が強すぎるのだ。」
本田は金髪のサラサラヘアーを左手で掻き上げながら流し目で俺を見ている。
油断?いや、油断などしていない。俺は全力で竹刀を振った筈だ…。
「おいおいおい…ナツキ、なんかの冗談だろ?相手はこの馬鹿だぜ?…もし本気だとしたら、そんな実力じゃ第三小隊では生きていけないぜ?マジで。」
黙って座っていた菅野は驚いたように声をあげた。その発言だとかなり本田に失礼だと思うのだが、今はそんなことはどうでもいい。
こんな簡単に本田にやられるなんて…。これでも俺は数日前まであの風間と共に組み手をやっていたんだぞ?
だがどうだろうか。今の本田の動きは俺と手合わせしていた時の風間よりも明らかに強い。
この男…何者だ!?
「いや、こいつはそんなに強くないって。風間さんの足下にも及ばないから。」
どうやらまた表情に出ていたらしく、口に出していないのに菅野は俺にピッタリの返答をした。
「そ、そんな訳無いっす。だって俺…強くなってない筈が……も、もう一回お願いします!」
「はっはっはっ!いいだろう。もう一度私の美技を披露してやろう。」
焦っている。
ここから俺は強くならなければいけないのに…
姉さんの意志を追いかけなきゃいけないのに…
何度やっても本田に俺の攻撃は届かない。
俺の顎から垂れた汗は畳に落ちて音を鳴らす。まるで雨漏れでもしてるのではないかと錯覚する程の汗の量だった。
そんな俺に反して、本田は一滴も汗をかいていない。涼しげな表情で佇むその姿は明らかに俺を見下している。
悔しさと焦りが体の中で混ざり、俺の体の動きを荒くさせる。
「くそっ!くそっ!何で当たらないんだ!!」
俺の竹刀は次々と本田の警棒に受け流される。俺はそんな無駄の無い本田の動きに対応しようと、竹刀を持つ手に更に力を込めた。
だが…やはり当たらない。気付いた時には俺の竹刀は畳に転がり、本田の警棒は俺の目の前で止まっている。
これで7連敗目だ。
「ナツキ。ちょっとこっちに来い。」
そんな俺に見かねてか、菅野は俺に向かって手招きを始めた。
「嫌っす。まだやれます。こんなんじゃ終われねぇっす!」
「いや、その意気込みはわかったから。いいから一回こっちに来いって!」
素直に言うことを聞かない俺を強引に菅野は引っ張ると、俺の耳元で囁き始める。
「風間さんに教えられた事、ちゃんと実践してるか?よく思い出せ、あの人が何て言ってたのか。あとはあれだ、本田の動きを良く監察してみろ。あいつは受け流す事に関してはだけは一流なんだ。だが、逆にそこが弱点だ、よく考えろ。」
菅野はそれだけ言うと、俺の肩をバチンと叩いて送り出してくれた。
俺は目を瞑りながら大きく息を吸い込み、そのまま数秒静止する。
本田を過小評価したせいで俺は何回死んだだろうか。これが油断というものだ。天狗になって勝てる程、ここの連中は甘くない。
俺は息を吐きながら目を開けた。
「ようやく本気と言う訳か。いいだろう。」
本田は珍しく空気の変化を感じたらしく、耳障りな高笑いを止めて武器を構える。




