タイヨウ
太陽を浴びる事は重要だ。以前も述べたように、窓がないこの施設では外の様子を知ることは出来ない。それはただ一ヶ所を除いてだが。
お昼になるとこの場所にはよく人が来る。そこは施設の真ん中にあるラウンジ。直径5メートル程しかない円形のラウンジは、高さ10メートルの壁で覆われている。
だが天井はガラス窓になっており、正午の時間になると太陽の光が射し込む造りになっているのだ。
俺もよくここで太陽の光を浴びる。日光浴ってやつだ。今日は珍しく誰も居ないから、この光は全部俺のものだ。
体をいっぱいに広げて床に寝そべる。息が詰まるこの施設の中で唯一リラックス出来る場所。
眩しいことが嬉しい。暖かいことが嬉しい。
当たり前の事が嬉しいんだ。
太陽に手を透かしながら思う。
何分経っただろうか。不思議と何も考えられなくなる。瞑っている目を刺激する光の量が少なくなっているのがわかる。
太陽はもうすぐ窓から消える。
何かが目の前から無くなるという事は悲しいことだ。それは人間も、物も、太陽も、全部同じ。
星空に誓った風間の事を思い出していた。すると風間の言葉の一つ一つが俺の頭の中で繰返しリピートされ始める。
一瞬、果たして自分が鳥海ナツキなのか風間潤なのかわからなくなる。
俺はハッと目を開ける。
実は物心がついた時から、時々この奇妙な感覚に襲われる時がある。まるで人の感情が俺の中に入って体を支配しようとしているように思える。
「俺は鳥海ナツキ、俺は鳥海ナツキ…」
そんな時は暗示をかけるように、声に出して自分の名前を繰り返り呼ぶ。そうするとその感覚はフッと煙のように消えてしまう。
昔からの事だから、今更気にする事もないが。
…さて、そろそろ菅野の部屋に行ってもいい時間だ。
俺は体を起こしてからゆっくり部屋を出た。