ミオトシ
トレーニングルームに近付くと、扉から光が漏れているのがわかった。使っていない時はここは電気が消えている筈だ。まさかこんな時間から誰かがトレーニングを…?
俺は恐る恐る扉から中を覗いた。そこには必死にエアロバイクで汗を流す第二小隊新隊長になった高橋の姿があった。
一体何時間回しているのだろうか?床には高橋の汗が飛び散り、こちらに光を反射させている。
少し迷ったが、あの人は俺がついこの間まで居た第二小隊の隊長だ。少し話してみたい気もする。
小さく深呼吸をし、俺はトレーニングルームの扉を開けた。すると、その音に反応して高橋の目線がこちらに向いた。
だが高橋は構うことなくペダルを漕ぎ続ける。
俺は高橋と目を合わせないようにゆっくりと歩くき、ランニングマシーンの隣に座った。
無言
…せめて挨拶だけでもすれば良かった。高橋がこちらを向いた瞬間、とっさに目を逸らしてしまった。
いや、今からでも遅くない。朝の挨拶はしよう。
俺は小さく頷き、腰を上げた。そして高橋に向かって歩き出す。
高橋は俯き目を瞑りながら、歯をくいしばっている。とても苦しそうだ。
「あの…おはようございます。」
会釈をしながら俺は小さく呟いた。しかし高橋からの返事は無い。高橋は表情を変えないまま前を向き、ペダルを止めようとはしなかった。
えっ…?シカト…されてるのかな?かなり不安になる。もしかしてカナリアみたいにキツい性格なのか?(カナリアの事も良く知らないのだが)
もしかしたらペダルを漕ぐ音で俺の声が聞こえなかったのかもしれない。薄氷のような可能性に賭けてみよう。
「おはようございます!鳥海ナツキといいます。よろしくお願いします!!」
俺は大きめの声で再び挨拶をする。
その時、高橋のエアロバイクのハンドル部分に付いていたタイマーから音が鳴り始めた。
ピピピピピピピピ……
高橋はタイマーを止めると、ようやく足を止めた。そして、あがった息を整えながら俺の方を向いた。
「はぁ…はぁ…、おはよー。ごめん、聞こえてたんだけど余裕無くってさ。そうかそうか、君がハルカの弟君か!俺は高橋義正だ。よろしくな!」
予想外。それは禁句なんじゃないのか?
「えっと…はい。そうです。俺が鳥海ハルカの弟っす。」
「ありゃ?その反応から察するにもしかして日向のやつ、ハルカの件を隠してるのか?」
「…そうっすね。」
惚けようか少し迷ったが、後で日向にバレたら面倒な事になりかねない。ここは正直に言っておいた方が良さそうだ。
「そうか…でも俺はまだ日向に止められてないから別に話しても罰は無いね。知りたいことがあるなら言ってみなよ。答えるかはわからないけど、言ってみて損は無いと思うよ?」
これまた予想外。まさかこんな形で姉のことを誰かに質問出来るなんて思わなかった。
それならばまず聞くことは一つだ。




