ココロノトビラ
部屋に戻り内線に手を伸ばす。自分で勝手に決めてしまったものの、やはり先約束を断るのはいささか気が引ける。
プルルル………プルルル……ガチャ
『はい、菅野です。』
『鳥海です。遅くなってすみません。』
『おう!大丈夫だ。今から来るのか?』
『えっと…。先に約束していたのに申し訳ないんですが、実はこの後つくし先輩と話をすることになりまして…』
『…そうか。別に気にするな。花澤の状態は俺も心配していた事だったし、側に居てやれるならそうした方がいい。でもな、ナツキ。これだけは心に留めておけ。……今、花澤が見ているのはナツキ、お前じゃない。』
『…どういうことっすか?』
『花澤が見てるのはお前の影に居るハルカだ。』
『………わかってますよ、そんなことは…。だからこそ、俺はちゃんとつくし先輩と話さなきゃいけないっす。』
『…わかってるならいい。余計な事だったな。』
『また明日の夜に行くっす。それじゃあおやすみなさい。』
『ああ。おやすみ。』
ガチャ。ツーツーツー
俺の深層心理。奥底にしまいこんでいた意識が呼び戻される。そう、花澤が見ているのは俺ではない。花澤は俺の中の姉さんをずっと見ている。自分でもわかっていた。それでも認めたくなかった。俺を見てほしかった。
幼少の頃からそうだった。俺は未だに“鳥海ハルカの弟”でしかないのだ。
「わかってんよ…そんなこと……。」
一人呟く。
自分でわかっていてもどうすればそこから抜け出せるのかわからない。
姉さんを超えれば俺は“自分”というものを確立出来るのだろうか。そんな淡く、ペラペラの持論を心に浮かべて何とか自分を納得させる。
今はこんなことを考えていても仕方が無い。俺は俺として花澤と向き合って、ちゃんと話すんだ。
そう決意して俺は時計を見た。そろそろいい筈だ。花澤の部屋に行こう。




