コノママ
「いえ…まあ、一様同期なんで。色々話を聞いてたんすよ。」
当たり障りのない返答。これでいい。花澤にこれ以上負担をかけたくないから。
「ふーん…。ならええわ。」
花澤の何かを見透かしたような眼差し。少し心が痛む。今更だが俺は隠し事をするのが苦手なようだ。
「そしたらうちは部屋戻るわ。ナツキはこの後どないするん?」
部屋…?
花澤は自分の部屋に戻るのだろうか?昨日まで風間の部屋で暮らしていたが…。ここで言うところの“部屋”はどっちの部屋の事を指しているのだろうか。
「了解っす。俺はこれから菅野さんと約束があるっす。」
そんな俺の疑問などとても言える訳もなく、再び自分を隠して返答をする。塗り固めた嘘の自分。一体何が俺をこうさせているのだろうか。自分でもよくわからない。
「そやそや!!明日の朝も朝食持っていくんやろ?うちも一緒に行くから起こしてってや。」
花澤から俺の疑問を解決する提案が出てきた。まさか意図して言っているのだろうか。
…いや、それはない。この人は少し天然な所があるから。
「えっと…。起こしに行くって、どっちの部屋に行けばいいっすか?」
聞かない訳にもいかない。すると花澤は俺の質問にハッとした表情を見せた。
「あ…あははっ。そやったね、そしたら朝は風間隊長の部屋に来てや。」
やはりそうなるか。俺の予想通りの返答だ。花澤は風間の部屋に戻るらしい。
このままでいいのだろうか。
ゆらゆらと陽炎のように揺らめく俺の心。
仕方ない、このままでいい。
そう思っていたのだが、いざ花澤の様子を直に見るとやはり俺の心は揺れた。
本当に花澤の事を思うなら風間の事をこのままにしておくのは良くない。誰かと一緒に向き合わないと花澤はずっとこのままだ。
目を瞑る。
自分の意思を引っ張り出す。
変わりたいなら言わなくては…。
「つくし先輩、このあと時間ありますか?」
この言葉を出すのに、まるで告白をする前かのように緊張した。すると花澤は目を丸くして答えた。
「えっ…?でもこの後菅野君と約束あるんやろ?」
先程自分で言っておいてもう忘れている。いや、忘れているというか、認識していても優先すべきものを自分で決めたというか。
確かに姉さんの事をしるチャンスかもしれない。しかし、言ってしまえばいつでも聞くことは出来る。
だが花澤の事は一刻を争う。
このまま放置しておいてもいい結果にはならないのはわかっている。きっと菅野もわかってくれる筈だ。
「菅野さんとの約束は別に今日じゃなくてもいいんです。それよりも俺、つくし先輩と話したい事があるっす。」
「…えっと…。…別にええけど。」
少し照れたような表情を見せる花澤。何故そんな表情をするんだ?
少し考える。
あっ、完全に勘違いされてる。
「違っ!違いますっ!!…あっ、えっとその…違う訳では無いですけど…。そういう話じゃないっすよ!!」
「なんや違うんか。ふーん。…そしたらお風呂入ってからにして欲しいから、30分後に来てや。」
「すみません。では後程うかがいます!」
俺は花澤にそう告げると、菅野に内線を入れる為に一度部屋に戻った。