ジブン
予想よりも小さな部屋に円形に組まれた長机。そこには17人が座っていた。入る前にはざわざわと聞こえていた話し声は、俺たちが部屋に入ると同時にぴたりと止んだ。まるで転校初日の朝礼のようだ。担任の日向は転校生である俺と竜胆を連れて17人の前に立った。
「みんな、わかってると思うけど新人連れてきた。はい、じゃあ首席から自己紹介ね。名前と一言。」
日向はなんの抑揚もなく、淡々と言葉を並べた。そして面倒くさそうに竜胆を見る。竜胆はそれに慌てることなく、スッと一歩前に出た。
「竜胆龍太だ。特に話したいことはない。以上。」
竜胆節はここでも健在だった。その無愛想な表情と可愛げの無い自己紹介にメンバーはざわざわと騒ぎ始める。するとその時、眼鏡をかけた強面の男が笑いながら声をあげる。
「お前みたいなのが首席なのかよ。今回はなかなか面白いな!団長、こいつは俺の隊に入れよう。どうだ?」
「…勝手に話を進めないでくださいよ。検討はしますけど決定は皆で話し合ってからっす。」
その男の言葉に返答したのは日向だった。正直驚いた。あの容姿や言動から、てっきり日向はここまでの案内役、もしくは普通の構成員だと思っていたから。どうやらそう思っていたのは竜胆も同じようで、日向を見ながら目を丸くしている。
「はい、次。」
俺は日向に背中を押されて前に出る。そこで俺は改めて17人のメンバーを見渡す。
よく見るとそこには見覚えのある男の顔がある。風間だ。今まで余裕が無くて全然気付かなかった。風間は俺と目が合うと、少し寂しそうな表情を見せた。
「鳥海ナツキです。よろしくお願いします。」
この後に続く言葉を言うべきか迷ったが、止めた。わざわざ自分から言うことじゃないし、もしばれないならその方がいい。それは今まで23年間の生活で身に染みている。だが案の定俺の名前を聞いたメンバーたちはざわつき始めた。
「鳥海って…?」
小柄なその女は、セミロングの茶色がかった髪を揺らしながら急に立ち上がった。そしてその大きな瞳を輝かせながら俺を見つめ、パクパクと口を動かす。覚悟はしていたが、ここで姉の話はしないで欲しい。せめて時と場合は考えるべきだろう。
「名字一緒なんて偶然やね!!ねえ、隊長!あの子ハルカちゃんの生まれ変わりなんかな!?なんか雰囲気も似てるやん?なんか運命的なやつ感じるわあ?うちらの小隊にぴったりやん!」
女はそう言って興奮しながら隣に座る風間を見た。
遠からず、近からずと言った所だろうか。いや、それにしたってなぜそういう答えになるのだろうか。出来ればその思想に行き着いた経緯を教えて欲しい。俺は反射的に呆れ顔になっていたらしく、風間はそれを見て何とも言えない苦い表情を見せる。
「違うよ、つくし。彼が例のハルカの弟だ。この前言っておいただろ?」
風間は小声でその女に伝える。女はそれを聞き終えると、少しフリーズをした後無表情のままゆっくりと席に着き、何事も無かったように静かになる。そして室内に静寂が訪れる。
「ま、まあ。ほら、自己紹介も終わったし、次はどうしようか?ねえ、団長。」
その静寂を切り裂いたのは風間だった。部下であろう者の失態を自らの責任と感じたのだろうか。
…ん?
姉の話をしたことが失態なのか?何故こんな空気になっている?俺はこの雰囲気に違和感を感じた。俺に気を使っているだけにしては何かがおかしい。バレているのならば少しは姉の事をきっかけに歓迎されてもいいのではなかろうか?
「あー……。じゃあ今日は風間さんに任せます。とりあえず、この二人をどの小隊に振り分けるのか、今日はそれだけ頼みます。」
あえてなのか、天然なのか。日向はそう言った後、欠伸をしながら席に座る。俺は違和感を喉の奥に何とか押し込む。ここでの詮索はいい結果にはならないだろう。風間は大きくため息をつくと、席を立った。