ギシン
理解が出来なくても俺には今、それを質問できる人間が居ない。
花澤はあんな状態だし、風間は居ないし…。
となれば選択肢は一つだ。
「月島先輩っ、なんでみんな笑ってんすか…?」
俺は普段あまり話す事が無い月島に質問をする。ちょうど右隣だし、他のメンバーよりも幾らか話し易い。
すると月島はこちらにゆらりと振り向き、首を傾げながら答えた。
「……私も……よく、わかんない…。」
「…そ、そうっすか。ありがとうございます。」
俺は顔をヒクヒクと顔を引き吊りながら上部だけの感謝を述べる。
今まで月島にこういう話題で質問したことはなかった。同じ小隊として戦ってきたが、今回の戦闘ではほぼ別行動だった訳で…。彼女との溝を埋めるには至らなかったんだ。
だがもし、一緒に戦えたとしても月島の考えを知ることは難しいだろう。これは風間から教えて貰った事だが、月島のあの振る舞いは決してポーカーフェイスを演じているという訳ではないらしい。
つまりどういうことか。
月島は本当に何も考えていないのだ。
だからこそ、感情を表に出すことが上手く出来ないのだろうと俺は思う。
さて、月島が駄目となると、この釈然としない俺の気持ちにどう整理をつければいいのだろうか。
俺の左隣には第一小隊の松本。松本の顔は他のメンバーと比べると怖い。でも何度か話した事はあるし、竜胆の教育係でもある。悪い人ではない。
チャンスがあるとすればそこしかない。
「…松本さん、ちょっと教えて欲しいんすけど?」
意を決して俺は質問をした。すると松本は素早くこちらに振り向いた。
「おう。どした、ナツキ?」
松本の振り向きざまに見せた鋭い眼光が俺に突き刺さる。だが松本はすぐに表情を緩め、優しく俺に笑顔を見せてくれた。俺は少し安堵し、本題の質問をする。
「あの…何でみんな笑ってんすか?」
「…あ?…おーおーおー…。なるほど、そっか。お前は高橋を見るのは初めてってことかぁ!へーっ、なるほどなるほど。」
松本は何かに納得した様子で俺を見ている。だが意地悪な事にそれ以上は教えようとはしない。まるで自分で答えを導いてみろと言わんばかりの表情だ。
しゃーない。やってやる。考察開始だ。
松本の今の返答から察するに、少なくとも今笑っているメンバーは高橋に会ったことがあるのだろう。笑っていなかったのはカナリアのメンバー全員と竜胆、そして月島と花澤。
カナリアと月島が笑わないのは元々だとして、竜胆に関しては別だ。こういう状況であればあいつは皆と一緒に笑うだろう。そして花澤は今笑うことが出来ない。
そこから考えられる可能性を導く。
…つまり高橋は俺と竜胆以前のメンバーとは顔見知り…?
…多分わかった。この可能性が一番高い。
俺は下げていた目線を上げると、ニヤニヤと含み笑いを浮かべる松本の目を見た。
「高橋さんは怪我か病気から戻ってきたって事っすかね?」
俺は自信満々に言った。すると松本は驚いた表情で声を上げる。
「やるじゃん!正解だ。やっぱりうちの竜胆より頭いいよ、お前。」
いや、あいつと比べないで欲しい。
俺は苦笑いをする。
「高橋は半年前の戦闘で足に大きな傷を負ったんだよ。んで、しばらくチームから離れてたって訳よ!」
松本の追加説明で俺はようやく状況を飲み込めた。松本はやはり優しい先輩だ。
しかし、それ以上に俺は松本の姿に違和感を感じていた。
そう、安井が死んでもピンピンしている松本の振る舞いに…
慣れなのか…?
だがそんなこと、とても今は聞けない。
俺の歯車が狂っているのだろうか。いや、もしかしたら狂っているのは俺では無いのかもしれない。
笑っていられるこの人たちがおかしいんだ。




