サイカイ
俺の自分勝手な欲望の押し付けは叶った。
翌日、花澤はミーティングの場に現れる。ついに風間の部屋から出てきたのだ。
しかし、その目には力が無く、以前のような笑顔もない。根本的な解決になっていないのだ。あくまでも無理矢理生きる意味を作っただけ…
まるで薄い氷の上を歩くようなものだ。
危うい。いつ割れてもおかしくない。
それを察してか、そうじゃないのか。メンバーは風間の話をすることは無かった。まるでそれがタブーとでも言うように。名前すら出ることが無い。
だがその中で二人だけ。俺以外で花澤に寄り添うメンバーが居る。
月島姉妹だ。
姉の美咲、妹の花怜、双方とも黙ったまま花澤の両隣に座り、花怜はその間ずっと花澤の手を握っている。
俺には出来ないことだ。
ぼんやりとその姿を見ながら俺はそう思った。
日向以外のメンバーが揃った所で朝霧が前に出てくる。
「今日は新人の日だ。日向からの伝言を伝える。」
朝霧はそう言って紙をポケットから出す。
新人の日…?
ああ、そうか…。要は補充って訳だ。
冷めきっている思考。
そんな俺を置いたまま朝霧は紙を読み出した。
「新人を迎えるにあたって。
①死人の話はしない
②自分のランクは教えない
③上記以外でも必要無い情報は与えない
以上」
日向らしいと言えば日向らしい。特に③番なんてまさにそれだ。
俺に対する嫌がらせなのだろうか。いや、周りの反応から察するに、これは毎回言われているに違いない。
自分が新人を迎える立場になってようやく内部事情を知ることが出来た。少しの優越感。
相変わらずバカだな…俺は。
ガラララ
その時、部屋の扉が音を上げて開き、日向が入ってくる。
その後ろに二人の男が続く。その内一人は見慣れた顔だ。
同期の藤代。
藤代は俺と竜胆の姿を見つけるとニコッと笑った。どうやら緊張はしていないらしい。
…だが何かが変だ。
何故か周囲から笑いを堪える音が聞こえる。何か可笑しいことがあるのだろうか?
「はーい、それじゃあ新人ね。じゃあ君から自己紹介ね~。」
日向がダルそうな態度で紹介をすると、藤代は一歩前に出た。
「藤代冬馬です。鳥海と竜胆の同期です。よろしくお願いします。」
よく落ち着いた自己紹介に俺は拍手で応える。
「はい、それじゃあ次ね。」
やけに小さい身長だが体つきは筋肉質。頭にバンダナを巻いたその男は何か含みのある笑顔で口を開いた。
「高橋義政です。至らない新人ですが、よろしくお願いします。」
するとメンバーはその自己紹介についに声を出して笑い始める。
何が可笑しいのか俺には全くわからない。