ユガミ
薄暗い廊下をフラフラと歩く花澤。
「待ってくださいよ!つくし先輩!!」
俺は急いでその後を追い、後ろから花澤の手を掴んだ。
花澤は前を向いたまま動かない。
どうする?どうすればいい?なんて声をかけるのが正解だ?
わからないんだ。どうすればいいのか…。
「……せ…」
微かに俺の耳に入る声。何か言ったのか?上手く聞き取れなかった。
すると花澤は此方に振り向いた。その目は憎しみで満ち溢れている。
「離せっ!!」
その声は廊下に響き渡る。
「なっ……。あ…」
普段の花澤からは想像できない程の口調。俺は思わず手を離してしまう。すると花澤は再び前を向いてフラフラと歩き出した。
俺の頭の中にぐちゃぐちゃと言葉が散らばる。未だに正解は見えない。
俺が花澤に伝えたいことは何だろうか。
心配してるとかそういうことが言いたいんじゃないんだ。
俺は目を瞑り、拳を握り締めると、小さく息を吐いて呼吸を整える。そして意を決して口を開いた。
「つくし先輩。」
しかし、そう呼んだ俺の声に反応すること無く、花澤は前に進み続ける。
自分勝手でもいい。それでも言うんだ。後悔はしたくない。
「…救われたんです。……俺、つくし先輩に救われたんです。俺の中であなたの存在がどれだけ大きかったか…。心の支えになってたか。今こうして会えなくなって実感してます。」
俺の口から出た言葉はとても小さかった。言っているうちに俺の目からは涙が溢れている。
まだだ。カッコつけるな。言いきれ、俺。
「もう一人は嫌だよ…。姉さん…。俺の側に居てよ…」
その時、花澤の動きがピタリと止まった。
俺は感情を抑える事が出来ない。涙が溢れてきて止まらない。今の言葉が俺の全てだった。
俺には花澤が必要なんだ。
「…せえへんわ。」
花澤は前を向いたまま小さく呟く。そしてこちらにゆっくりと振り向く。その目からは涙が流れている。
「…うちは…あんたを置いて先には逝かへん。」
なんて辛そうな顔だろうか。
俺は何て事を言ってしまったんだ…。
「ごめんなさい…。ごめんなさい。」
俺はその場に崩れる。俺の頭の中には風間の意志が入っていなかった事に気が付く。なんて馬鹿なことを…
そんな俺の元に花澤はゆっくりと近付いてくる。
そして俺をギュッと抱き締めてくれた。まるで母に抱かれているかのような安心感。
「…ええよ、大丈夫や。うちはあんたの為に生きるわ。」
イビツだった。歪んでいた。それでも俺はいいと思っていた。
再び姉さんを失うよりも、全然マシだ。




