ヌケガラ
眠ることが出来ない。
目を瞑るのが怖い。
死ぬのが怖い。
死んだ人が闇の中に浮かぶんだ。
恨めしそうな顔をしてこっちを見ている。
まるで俺のせいで死んだとでも言うように…。
「…ダメだ。」
口から出た小さな言霊はフワフワと部屋の中を漂い、シャボン玉のように弾けた。と同時に俺はベッドを抜け出し、時刻を確認する。
間もなく深夜の3時を回る所。小腹が空いた。食堂は閉まっているが、お菓子の配給機なら使える筈だ。ここには何でもあるんだ、マジで。凄いだろ?
楽観的なのか、それとも何も考えていないのか…。こんな時なのに腹は減る。そんな自分が嫌になりながらも足はまっすぐ配給機へと向かっていく。
廊下には足下を照らす間接照明。今は就寝時間だからこうなっている。夜12時以降はこうなる。
ぼんやりと足を交互に前に出す。俺はどうすればいいんだろうか。
俺が悩んでいる時はいつも風間が助言をくれた。俺が辛いときはいつも花澤が励ましてくれた。
だがもう風間はこの世に居ない。
俺は一人で何でも出来ていると思っていた。自分の意志で歩けてると思っていた。
だがどうだ?
風間が居ないと俺はどうしていいかわからない。
花澤が居ないとここに居場所を見出だせない。
これが俺だ。俺と姉との決定的な違い。つまり俺には自分というものが無い。
人任せ。
姉の影を追うだけのロボット。
自分を蔑みながらも、配給機が並ぶ部屋の前までやってきた。すぐに頭をリセットして、自動扉の前に立った。
ガーーッ
機械音と共に鉄の扉は右にスライドする。消灯された部屋の中にズラッと並んだ配給機。聞き馴染みのある言葉で表現するなら自販機。お金は要らないから販売はしてないけど。
そこには一人の人影。その手にはアルフォートチョコレート。
配給機の逆光で顔は確認出来ない。だがその立ち姿は俺が求めている人と酷似している。
「…つくし先輩?」
凍りついた空間を溶かすように俺は口を開いた。
影は答える事なく、ゆっくりとこちらへ歩いて来る。近づくにつれてその顔がハッキリと見える。やはり花澤だった。
その顔に生気は無く、白いシャツの脇腹付近は固まった血で茶色く変色している。ボサボサの髪の間から見える目の下には大きなクマ。以前の花澤からは想像が出来ない。
俺は息を飲む。何か言わなくては…
「だ、大丈夫っすか?みんな心配してま…」
だがそんな言葉に全く反応すること無く花澤はフラフラと俺の横を通り過ぎた。目も合わせてくれない。俺の頭は一瞬真っ白になる。
でも…このまま黙って見過ごす訳にもいかない。
少しの葛藤の後、俺は花澤を追いかけた。




